虚構の檻にて思う

虚構の檻にて今日も思う

手を伸ばせど、指先に当たるのは冷たい柵ばかり

『誰か……ッ』

声に出せど、声は虚空の彼方に消え失せる


そんな事を何度も何度も飽きずに繰り返して、五百五十五回目に至って同じ言葉を呟く


『──あぁ、また今日もダメでした』


虚構の檻はただただ、冷淡に、冷徹に、その場にあり続けて

籠の中の鳥は逃げる事も叶わず、ジッと身を潜めるしかない


虚構の檻にて思う

『誰か助けて下さい』って

『誰か気付いて下さい』って

けれど結果はいつも同じ

目の前の景色は相変わらず無機質な黒一色

意味なんて、理由なんて、そんなモノありはしないのだ

無意味で無機質で無感動な今日▪▪は、また、終わりを告げる


ある日、いつもと違う日常を見た

暗闇に浮かぶ真白き花、穢れを知らぬ純朴な花

空から落ちて来たのだろうか、これは思わぬ天の采配だ

花に手を伸ばす

『あぁ……なんて綺麗なのだろう、なんて美しいのだろう…………』

白に染め上げられた花を胸に抱き、ふと思わぬ涙を流す

忘れていたんだ、本当は檻なんて無かった事に

檻なんて虚構だし、柵は虚無な壁に過ぎない


そうと解ってしまえば抜け出すのは至極簡単な事だった

『さぁ羽撃け、その純粋な翼を広げて。さぁ駆け抜けろ、その想いを胸に抱いて』

何処かで俺を呼ぶ声がする

行かなければ、大丈夫、行ける


そうして俺は虚構の檻から抜け出した

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