第10話


「おい、レイ。」


「何ですか?」


 先ほど、カラン様が言っていた夜の事だろうと思い、気合を入れて返事をすると、師匠は少し小さく笑みを零して僕の頭に手を置いた。


「この調子なら大丈夫そうだな。」


「・・・何がですか?」


「いや、もしかしたら、俺からの頼み事がうまくいかなかったから落ち込んでるかと思ってな?」


 師匠は唐突に師匠から父の顔に変わるから困る。そりゃあ、落ち込んでないことはないが、それは夜に、もしくはいつか取り返せれば、なんて思っていた。だけど、こんな風に心配してくれる師匠はあまりない。


 ・・・だから、たまには甘えてみたい、なんて。そんなこと今でも思うんだなと小さく心の中で苦笑を零した。


「大丈夫、次、取り返すから。見ててな、師匠。」


 師匠のちょっとした言葉が自信をつけさせてくれる。僕は少し笑みを浮かべながら強く言うと、それに満足したらしい師匠がぐしゃぐしゃと荒っぽく髪を撫でてくれた。


「じゃあ、次に期待しておくか。」


 僕はその言葉に更に自信をつけ、大きく頷いてしまった。自分で子どもっぽいことをしてしまったと少し後悔した。

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