第8話



―――師匠からの頼み事であり、カラン様からの頼み事でもあるフィットニア帝国の民を見つける。これを最重要として昼間も動けるようにカトレアさんに許しをもらって西塔へ行こうとしていたが、師匠がカラン様からカトレアさんへ連絡させるとのことだそうだ。


 そう聞き、安心して西塔へサボろうとしていた師匠を連れて西塔へ向かった。


 とりあえず、カラン様が見たという問題の映像を見せてもらおうと監視部屋へ足を運んだ。


 すると、来ることが分かっていたのだろうか、カラン様が僕の分までお茶を用意して待ってくれていた。やっぱり、カラン様が一番優しい。


「お、レイ。悪いな、仕事中にわざわざ来てもらって…。さっきカトレアには連絡しておいたが、・・・なんだか、機嫌悪かったぞ?ジェイドお前、また何かしたんじゃないか?」


 カラン様は少し呆れたように師匠に声を掛けると、座れという様にパチンと指を鳴らして二つしかなかった椅子をもう一つ僕用に出してくれた。


「俺はなんもしてねェよ。勝手に不機嫌になったんだろ?まぁ、強いて言えばレイが笑ったな。」


 師匠は面倒だ、という様に・・・いや、至極めんどうくさそうな表情を浮かべながら言った。


 ・・・しかし、僕が笑ったのがカトレアさんの不機嫌の理由と関係あるのか?まぁ、そんなことはどうでもいいか、とサラリと自分の中で片付けた。


 師匠の言葉を聞き、「あー・・・」と何やら分かったらしいカラン様は納得の声を上げていた。


「それでさっきカラン様が見たっていう映像を見たいなと思ってきたんですが・・・。」


 僕はそろりと声を掛けてみると、カラン様は「嗚呼。」とだけ返事をして、モニター前にある複数のキーボードを叩いては真ん中の一番大きなモニターに問題の映像を映し出された。


 モニターに集中して見ていると、一瞬黒いもやがかかった様に見えた。


「ッ戻してください!」


 戻しては見ての繰り返しだったが、全くと言っていいほど人物を特定することはできなかった。それから、見ていて思ったのが見る度に黒のもやが見える瞬間が短くなっているということだ。


「師匠、黒のもやが見えるので間違えなく何かが入り込んでいるはずなんですが、困ったことに特定が出来ないんです。それから、若干ですが黒のもやが見える瞬間が短くなってる気がします。」


 僕は分からないと言った感じで師匠にそう告げると、師匠も少し悩むように腕を組んだ。


 カラン様はなにやら思うところがあったらしく、同じように考えを巡らせていた。すると、なにやら思い浮かぶことでもあったのだろうか、急に目の前にあるモニターで検索をし始めた。


 内容を見ていくと何かの書物を探しているみたいだ。訳が分からず、師匠を見遣るとカラン様のことをじっと見つめ待っているようだった。


 …こういうときにカラン様のことがうらやましく思う。カラン様のことはすごく尊敬している。僕自身あまり背格好は立派ではないし、外に出ればいつも女性に間違えられる。異性あらかわいいと言われてもカッコいいとは言われたことがない。カラン様は僕とは正反対でとても男らしく、勇敢なお人だ。ただ、それだけで尊敬している訳ではない。

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