第29話 女学生と探索篇4



 ——ズドオォン!

 強行突破か潜入かで話し合っていた俺たちだったが、レイドラが元気になったことと、

 火力の要である俺が潜入するのは意味ないって話になった結果、前者を選択することに。

 まあ正直俺も、最初から全員逃げれるこっちの方が良いって思ってたからね。


「クラウスもっとだ! 弾幕が足りないぞ!」

「すべてを吹き飛ばしなさい! わたくしの城塞兵器よ!」

「下品ねぇ……もっと美しく攻略できないのかしら」

「かっこいいです……僕、クラウス様のことが……」

『なんかもう弓、飽きてきたなあ』

「もしも……交渉して通る場所だったらどうしよう」

「にゃははは! 大は小を兼ねるのだ〜! えっへん!」


 一度にしゃべるな!

 全部ツッコミ切れんわ!



  —



 ウィルに聞くところによると、ここは三十九階層。

 知恵を手に入れたワーウルフが集落を構え、四十層への人間の侵入を防ぐ目的で作られた集団戦推薦エリアらしい。

 今は直接四十層へ行くことのできる手形が発行されており、ここをわざわざ突破しようとする人はいない。

 そのためか今まで村の柵のような物だったものが、知らず知らずに城壁にまで発展していたと言うわけだ。


 え? ……手形って何?


「おいウィル! 四十層まで簡単に行けるってどういうことだ?」


「お前が手形を持ってないから自力で来てるんだろ? 手に入れる方法があればすでにやっている」


 詳しく話を聞くとこうだ。

 今から約五年前に、この階層のワーウルフを乱獲したやつが、四十層手形の価値を暴落させたらしい。

 当時はゴミ同然の手形も、今じゃ高騰して買うことも出来ない。

 んでいざ手に入れようと、ここに来た奴らは集落が要塞になっててビックリってことか。


「四十層だから金貨40枚になりますとか、露天商に言われたのよ?」

「面白いと思って言ったのかしら? 馬鹿ねぇ〜」


 金貨40枚!?

 俺ここに来るとき無一文だったなそういや。

 今はめちゃくちゃ持ってるけどね。


「ねえねえ、ということはさぁ……あのオオカミ一匹で金貨40枚ってこと?」

「さすがに数を売れば値崩れするよ。だけど金貨1枚位にはなるはず」


 それでもかなりの収入になるんじゃないのか?

 普通にクエストこなしても1枚稼ぐのに丸一日はかかるのだから。


 思わず見合わせる一同。

 そしてニヤつく俺たち……ってこれ、前にもやらなかったっけ?


「一匹も逃すんじゃないわよクラウス! 腕が千切れようとも矢を放ち続けなさい!」

「「「パジェロ! パジェロ!」」」


 古すぎい!


  ・ ・


 俺は対岸からバリスタを、遠慮なくバカスカ撃っていた。

 射程が長い方が先制攻撃するのは当然の摂理だ。

 だがなかなか崩壊しない城壁と門。

 以外と硬いのね。


「相手さんは橋を上げるつもりはないらしいな」

「こっちが少人数だと思って舐めてるのよ」

「対岸から攻撃が届いてるからじゃない?」


 まあ確かに。

 橋を上げてもいずれにしろ城壁が無くなる訳だからな。


 そんな気楽な話をしていると、敵は打って出る気になったのか木製の大きな門がゆっくりと開門を始めた。

 つまり攻めた方が勝率が高いと、相手は思ってるってことよね? ちょっと焦る俺。

 そうして立ち込める土煙の中から這い出る……大きな影が。


「ウィルさん……あんなサイズのワーウルフって……いましたか?」


「まずいな……君たち! 橋の中央付近に障壁を組んで! 早く!」


 一同に緊張が走ると、「はい!」という返事と共に各々が一斉に動きだす。

 俺も真剣に取り組まないとやばそうだ。

 とにかくあの巨体を押し返すべく、矢を放ち続ける。

 ——グアオオ!


 聞こえてくる怒声と共に、緑色した大きな体に鋭い牙を持つ魔物が姿を表す。

 オーガーって奴だろうか。

 そいつは俺の矢を受けても平然と立ち尽くしていた。

 てかこいつ……盾持ってやがんぞ!


『攻撃は通ってないみたい……その場に縫い付けるだけで精一杯だね!』


 つまり俺もこの場に縫い付けられるってことじゃねえかよ。

 参ったなあと思っていると、聞こえてくる太鼓のような音と、

 ——ウオオオォォォ!!


 さながら決戦の火蓋が落とされたかのような、狼たちの血気盛んな声がした。

 あっという間に対岸には、視界を覆い尽くさんばかりの狼たちの群れが犇めく。


『クラウス! ここからじゃ障壁の向こうまで火炎砲弾フレイムショットが届かないよ! もっと前に出て!』


 おま……馬鹿! そんな事したら俺が危ないでしょ? 馬鹿なの?

 魔術は俺たちの本業じゃないんだから、彼女たちに任せておけばいいの!

 むしろ後ろに下がりたいぐらいだ。


「チェルノ様! 僕が地点移動ポイントテレポート使いましょうか?」


『うぬ! レイラに任せる!』


 何が「うぬ!」だよ!

 おい本気で待て。

 俺の心の準備がまだできて……

 ——キュン!


 光に包まれた俺は、一瞬視界が暗転した。

 急に視点が変わって、何か見下ろす感じになってる。

 足元を見る。

 あー土でできた障壁の上に乗ってるから見下ろす感じになってんのかー。


 敵に視線を戻すと、ステージ上に立つかのように注目を集めていた。

 ——ウオオオォォォ!!

 殺気に満ち溢れた狼たちの怒声……シャレにならん位置に移動させられたぞ。


『フレイムショット』


 チェルノが魔法を放つ。

 だなそれ以上に魔法が帰ってくる。

 やばい、さすがに壇上はありえない。


「盾ぇ! チェルノ盾出して!」


 出てきたいつもの盾に、亀のように丸まって隠れる俺。

 凍りの矢やら鉄球やらドカドカとぶつかる衝撃が、その盾から伝わってくる。


「今よみんな! クラウスがターゲット取ってるうちに魔法打ち込むわよ!」

 —— " 隕石投下メテオストライク! "

 —— " 魔界の砂塵嵐ヘルダストストーム! "

 —— " 大戦の旋風ウォーヴォルテックス! "

 —— " 大渦潮メイルシュトローム! "


 あるものは降ってきた何かに押し潰され、あるものは巻き上がり、そしてトイレの水のように流されていった。

 てかそんなことして、後でどうやって手形回収するのかと思ったが、俺は助かったのだ。

 これでいいのだ。


 今がチャンスとばかりに彼女たちの作った土の障壁から滑り落ち、必死に前線から逃走を図る俺。

 振り向くと、オーガーのやつはまだ倒れてはおらず、手に持つ大きな斧を振り上げ雄叫んでいた。


『タフだねえ……どうする? クラウス』


「この距離からなら弓と火弾の両方使えるだろ? 狼が補充される前に削りきるぞ」


 城門の方へ視線を移すと、次々に湧いて出てくるワーウルフの群れ。

 無限とも思える敵に対して、こっちは魔術師の多いPT構成。

 火力を上げて早期決着させる以外に道はないのだ。


 弓と火弾で削ろうとする俺たちに対し、盾を火だるまにしながらも前進を止めないオーガー。

 上等じゃねえかこの野郎……俺もここから一歩も下がらねえぞ。


 縮まる距離。

 ここからなら局部狙いも可能だが、そんなことをするつもりはない。

 俺が唯一狙うのは、こいつの盾をぶち抜いて脳天に一撃を喰らわせることのみだ。

 ドカドカ音をさせながら一騎打ちの状態に持ち込む俺とオーガー。


「ねえウィル……弓士の一騎打ちってもっと逃げ回るような感じだと思ってたんだけど」

「いや俺も……こんな脳筋戦を見るのは初めてだ」


 仲間を呼べば良いのにそうしないオーガーと、

 引いて下がれば良いのにそうしない俺との距離がさらに縮まる。

 射程距離が縮まれば威力を増すはずの俺の攻撃に対して、一向に落ちない敵の前進速度。


「くっ……悔しいが俺の負けかよ!」


 そう思いあきらめかけた時に聞こえてくる「ピシッ」という亀裂音。


『来た! クラウス押し切って!』


 その声を聞いて持ち直した俺は、さらに矢を撃ち込む。

 目に見えないほどのその小さな亀裂がきっかけとなり、突然瓦解を始めると、

 ——パキーン

 その大きな盾は激しい音を立て砕け散ってゆく。


 思わず俺と目が合ってしまったその魔物は一瞬固まる。

 しばらくして軽く会釈したと思ったら……すごい勢いで逃げ出していった。

 それを見た狼たちも、真似て会釈をするとオーガーに付いていく。

 「すんませんっしたぁ!」みたいな感じかな?

 こいつら知識ってどこから手に入れてるんだ? と考えていると、


「んもう! 馬鹿クラウス! 一匹も逃すんじゃないって言ったでしょ!」


 プリプリ怒ってるメルセデス。

 仕方ないだろ?

 無理に追いかけて、総力戦にでもなったらどうするんだ。

 でも、今の怒り方って角がないっていうか……気のせいか?

 


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