第5話 存在の意義

 愛しているというより…惹かれていたのかもしれない。


 僕は、子供の頃から大人の顔色を伺い、満足な回答を考え行動することが身に沁みついている…。

 あまり良い家庭環境ではなかったと思う。

 私が父親の名前を知ったのは小学校5年生の児童会のときだった。

 正確に言うなら、それまで気にしたことがなかった、一緒に暮らしている父親の存在を…。

 会話したことが無いのだ。

 そのとき家族構成を書く欄に記入できなかったのだ、名前を。

 両親の仲がよくない…父親はまともに働いたことが無く、母親の稼いだ金はすべて祖母に獲られていたようだ。

 よく家出する母…僕は幼いながら、親戚に迷惑をかけている両親に対し嫌悪感を抱いていた…他の大人には媚を売る術が身についていた。

 とくに女性には…。

 近所の子供の面倒をみると、その母親がよくしてくれる。

 産まれた子に僕と同じ名前を付ける母親もいたくらいだ。

 デパートや看護師の女子寮にいけば、お菓子が貰える。

 楽しい子でいればいいだけだ。


 自分が解らない…いまでも解らない…僕の性格が。

 きっと何かが欠けた…欠けている人間なのだと思う。


 だから…執着が無い。

「つかみどころのないところが好き」

 そんなことを言われる…けど…

「何考えてるか解らない」

 と言われ捨てられる…。

 それが僕の恋愛遍歴だ…。

 でなければ…人間関係を全てリセットするときに連絡を絶つ。恋人とも…。


 彼女も同じだ。

 いや…僕が気にしなくても、金が無くなれば自然と用事が無くなる…はず。

 そう思っていた。


 彼女には幸せになって欲しい…今でもそう思っている。

 僕は、彼女を幸せにはできない…そう思っている。


「一緒に居たいよ…桜雪ちゃんに幸せにしてほしい…」

 彼女は、今もそんなメールを送ってくれる。


「お金も無くなったし…もう逢うの辞めよう」

 そんなメールを送った。

 彼女を試したわけじゃない…本音だった。

 ツラかった…普通に付き合えたなら…どんなに良かったか…。

「変な関係だね…」

 彼女がたまに言う言葉…そう例えようがない関係。

 もう…お金は払っていない…たまに送ることはある。

 その際に、千円だけ渡してコンビニで食べ物を買う。

 彼女が持参したものを含めて2人で食べる。


 そんな関係…。


 触れてはいけないような感覚は、今も残っている…。

 恋人と呼べない関係が、そうさせているのかもしれない。


 彼女はSEXが好きではないと思う。


 どちらかというと…寄り添っている時間が好きなんだと思う。

 僕も、そんなところがある…抱きたいと思うこともある。

 それは…きっと嫉妬からだと思っている。

 彼女の特別な存在になりたい…なれない…その想いの狭間で僕は『生』と『死』に心を支配される。


 僕の心には…彼女しかいないのかもしれない。

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