第10話 ないとった

 ホタテの貝ひもにある80個の黒い点々は、目ぇや。て、テレビで言うとった。

 甘辛味の点々をつまんで、ぶら下げる。


「どこ見とんねん」


 アジの開きと違て、数が多すぎて目ぇ合わん。


「何か言うた?」

「言うてへん」


「なあ、飲んでばっかおらんと散歩でもしたら。日ぃ落ちたし涼しいわ。気持ちいいで」

「飲み始めたとこや」




 毎日、行っとった。







 一か月前まで。







「運動しぃや。メタボは病気へのパスポートやで」


 嫁はんそっくりなってきよった。


「うっさいのう、もう帰れ。帰ってちゃっちゃと仲直りせえ。どうせしょうもない喧嘩したんやろ」

「喧嘩なんかしてへんわ!」


 言うといて「向こうが悪いねん。家事で困ったらええ」

 ぶつくさぶつくさ。


 めんどくさい。

 すねた娘ほどめんどくさいもんはない。


「分かった。今日はビール飲んで、明日、帰れ。な。おい、聞いとんか」


 どこ見とんねん。


「しぃ。ほら、猫の声」











 やめたんや。











「何かダミ声。さかりついてんのかな」







 もうええねん。







「あ! 庭ぼおぼおやから、またフンいっぱいされるで。草刈らんなんわ。部屋も汚いし。ほんま、これやから男は。私が帰ってる場合とちゃうやん」




 ね。


 向こうへ。




 声の届かんとこへ。











 わし、ないとった。

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