第10話 【研究 -1-】

 ―――夕方・キュプラモニウム施設内。

  


 陵はコンピューターの画面から目を離し、デスクに肘をかけたまま、椅子を半回転させ、隣の席に座っている速水に声をかける。


「ねぇ、もしクローン同士が惹かれ合ったらどうなると思う? あ、ちなみにイフである亜結樹と海鳴君の場合の話」

「それは……同性愛と異性愛が錯綜しますね」


 速水は陵の目をちらっと見て返事をする。そしてまたモニターに映し出された数字をチェックし、メモリを書き込む作業をしていた。


「ん? 速水さん何かピンポイントな発言するね? 何か資料でも読んだの?」

「いえ……別に」


 蔀から借りた本を読んだとは、陵には話したくなかったようだ。

 陵は両手を頭の後ろで組み、欠伸する。そして――


「ま、俺は……そんな二人を施設にいる間は引き合わせなかったんだけどさ。今、同じクラスらしいじゃん? あの二人。仲良くしてるかもね? あははは」


 亜結樹や海鳴の学校生活での姿を想像しながら、笑って話す。


「何が言いたいのかよくわからないのですが」

「だから学校でさぁ、二人はいつも一緒にいるかもしれないってことじゃん?」

「つまり元々恋愛という自覚を持たなかった互いが、周囲の環境で本能的に惹かれ合う……ということですか……」


 速水は作業を止め、陵に目を向ける。


「海鳴君は同性愛にもねぇ……もう目覚めてる。惹かれ合うというか、一方的に海鳴君が亜結樹に惹かれるかもしれない」


 陵は速水と向かい合わせになり、頭を支えていた両手を下ろす。足は組んだ状態で、そのまま椅子に凭れ続けながら速水の目を見て――

「……では――」

「そう……――」

 静かに顎を引く。


 ――対する亜結樹の態度はどうか……ってことさ。


「陵さん……何故二人は生まれてすぐ隔離されたんですか?」


 隔離されたという話は亜結樹が生まれた時、蔀から聞かされていた事である。だが蔀本人も、速水も隔離された理由を知らない。


「一人は俺の分身、もう一人はイフだから。そんなに深い理由はないよ?」

「本当ですか?」

「あははは。言うねぇ? 俺の本心暴きたい?」

「いえ……別に。海鳴があなたの存在そのものというのは兎も角、亜結樹が一人にされたのは……」


 速水は目を伏せる。


「可哀想……。そう思ってるの?」


 陵は組んだ足に頬杖をつき、前屈みになり速水の表情を捉えようとする。


「……」


 速水は陵の動きにすぐ気づく。黙ったまま、陵に下から見上げられるのを避けようとして、椅子を半回転させる。モニターに視線を移し――


「そろそろ……彼、戻って来る時間かと」


 速水は陵の視線を避けようと、壁時計に目を遣る。すると陵は――


「予想だけど、亜結樹と海鳴は互いの良い所を相殺する関係だと見てるんだ。言ってる事わかる?」


 机に頬杖を付きながら、コンピューターの青白い光を見つめながら語り出す。


「相殺する……?」


 速水は、陵が突如呟いたその言葉の意味を、すぐには理解できなかった。何故なら彼女は直接亜結樹や海鳴に一度も会っておらず、紙のデータでしか二人を把握していないからだ。


「相殺っていうかお互いの良い所や悪い所を打ち消し合う……そんな関係。ほら海鳴君って俺と性格同じだから。それに、亜結樹の事まだイフだって知らないからさぁ」

「知ったら……どうなるんでしょうか」


 速水は陵の目を見ずに話す。


「どうなると思う? ま、気づいたとしても、八束君が黙ってないと思うけどねぇ……。あー、八束君も亜結樹の事知らないんだった。ふふふ……面白い事になりそうだ。ハハハ」


 陵は蔀の弟と電話した日のことを思い出して、彼の事を嘲笑った。彼らの諍いを期待するかのように、その様を想像して笑い出した。


「柊八束のことは私にはわかりませんけど、本当に彼らは互いに惹かれ合うのですか?」


 速水は、陵の顔を見ずに続けて質問する。彼女は、絶対に陵の顔を見ようとはしなかった。彼のその声と、態度、顔の表情全てに嫌悪感を抱いているからだ。


「うん。プラマイゼロの関係だと思うよ」


 陵は、モニター画面をぼんやり眺めながら、淡々と返事をする。


「暫く本人達に会っていないのに、なぜ……予想できるのですか?」

「そりゃ、蔀君と海鳴君の相性見れば亜結樹の性格は大体わかるよ。蔀君は亜結樹の生みの親であり育て親だからね。俺と蔀君の相性見たら、海鳴君のことがわかるね。アハハハっ……これ俺にしかわからないか」

「で……何で私に話すんですか?」


 速水はそう言いながら、保存作業をしていたデータをチェックする。


「理由なんて……、君が俺の助手だからに決まってるじゃないか」

「そう……でしたか」


 彼女は再び書類に視線を移し、溜め息まじりの声で言った。ディスクを取り出し、ケースに入れ、所定の位置にディスクをしまう。


「この事さ、蔀君に話すかどうかまだ決めてないんだよねぇ。どうしよっかなぁ……」

「直接話しづらいなら、私が彼に話しておきましょうか?」

「あ、そう? 言っといてくれるのは有り難いね。じゃ、礼というか今晩食事どう?」

「結構です」


 速水は無表情のまま即答した。その時、ドアが開いた。


「只今戻りました……」


 数枚の書類の束を腕に抱えた蔀が現れた。


「あー、嫌なタイミングで君の顏見ることになるとはねぇ……。はぁ、な感じ」


 陵は椅子を一回転させ、足で止める。肘を机に立て、手で頭を支えるような体勢になりながら蔀の顏を見る。ふてくされた顏を彼に向けてそう嘆いた。


「……人の顏見て不機嫌になるのやめてくれませんか」


 蔀は無表情のまま、陵に呟いた。陵の隣のデスクに座っていた速水は、椅子から立ち上がると蔀に近づき、書類を受け取ろうとする。蔀は何も言わず、無意識のうちに近づいてきた速水に書類を渡す。


「何名の遺体がクローンになる意思表明を?」

「……書類を確認してくれ、一々口にしたくない」

「失礼しました……」


 速水は書類を受け取りながら謝った。


「じゃ、俺もう自分の部屋行くから、後はよろしく~。もうここには戻らないよ」


 陵はそう言って、音を立てずに素早く椅子から立ち上がると、二人の姿を横目に見て研究室を出た。ドアが閉まる。研究室内は蔀と速水の二人だけになる。


「……陵に何かされたか?」


 蔀は自分のデスクに腰掛けると、速水と背中合わせになる。速水の後ろ姿を遠目に見る。


「いえ……別に何も。明日から遺体の縫合施術を開始するわけですね。他の班には私からお伝えしときます」


 速水は書類に目を通しながら淡々と話す。蔀の顔は見ていない。


「ああ頼む」

「……」

「……」


 速水は書類をクリアファイルに入れると、指定の引き出しに入れ、鍵をかけた。蔀はコンピューターの画面を見ていた。沈黙が続く。そして――


「あの、一つ話があるのですが……」


 速水が静かに口を開いた。椅子を回転させ、蔀の方へ振り返る。蔀も同じように椅子を半回転させて体を速水のいる方へ向ける。


「話……? 何だ?」

「……――」


 ――速水は先ほど陵と会話した内容を、蔀に語り始めた。



 ―――日没後・氷峰宅。


「ただいま。――あ、ミネ……早いね」


 亜結樹はリビングの入り口まで向かい、氷峰の顔を一目見る。


「ん? 俺も今さっき帰ってきたばかりだよ」


 亜結樹はそっかと返事をすると部屋まで行き、ドアの前に鞄を下ろし、再びリビングに向かう。そして――

「どうした? 元気ねぇな……」

 氷峰の言葉を聞きながら、氷峰の座っているソファーに座る。


「友美香……今日、学校来なかったの……」

「良かったじゃねぇか……。いじめが無くなるわけだし」

「そんな……良くないよ!」

「どうして?」

「……友達だから」

「今も? お前がそう思ってるだけじゃねぇの?」


 亜結樹は俯く。


「あ……悪い……」


 ――ちょっと言い過ぎたか。


「ねぇ……、どうしてかな……」


 亜結樹は氷峰の隣に座り直す。


「……ん?」

「あたしは女の子として生きる道は無いのかな……」

「そんなことねぇよ……」

「……え?」

「お前の体の事は蔀から貰った書類に書いてあるんだけどさ…。お前には発達した男性型の性腺と外性器、内性器があるが女性の性腺と内性器も未発達だがある。摘出手術と外性器を作る治療をすれば女として生きることもできるらしい……」

「そんなこと聞いてるんじゃねぇよ!」


 氷峰の隣に座っていた亜結樹は急に怒鳴った。


「は? 急になに怒って……」

「あたしは……友美香と……友達に……戻り……たいだけなの……っに……」


 亜結樹は静かに泣き出してしまった。


「ご……ごめんな……亜結樹……」


 氷峰は亜結樹の頭を撫でる。


「……わからないよ。どう接すればいいか……」


 ――あたしがいじめられることはなくなった。

 ――けど……何か悲しい――。

 ――いつも友美香と一緒にいた友達が友美香の同性愛に無関心なのが……。

 ――どうして今までのこと、素直に謝って……またあたしに近づくなんて――。

 ――あたしは悲しいよ。友美香がいなかったのに普段通りでいることが。


「友美香に会えないよ……会いたい……」

「……」

「メールしても返事ないから何もできないよ……」

「……」

 氷峰は黙ったまま亜結樹の背中を撫でる。撫でながら――

「お前……優しいんだな…」

 と呟いた。

「……?」


 亜結樹は手のひらで涙を拭う。氷峰の顔をただ見つめる。


「いや優しいというより、強いな……。強い理由ってカイメイが近くにいるからか?」

「……そう……なのかもしれない。あたし困ってる時いつも海鳴に助けられてた」

「カイメイって奴さ、お前連れてきたことあったろ? あいつの顔、一瞬見たけどさ……」


 氷峰は亜結樹の肩に手を乗せ、彼女の目を見て――


「アイツは頭の切れる奴かも知れねぇ」

「切れる? ……どういう意味?」

「頭がいいっていうか……先を見据えて考えてる奴かもしれないってこと」

「海鳴は悪い友達じゃないよ? ミネ……何の心配してるの?」

「お前カイメイのこと、只の男友達だと思ってる?」

「……」


 亜結樹は氷峰から目を逸らす。顔を合わせようとしない。


「はぁ……別に怒ってねぇから」

「え? じゃあ何で友美香の時にはあんなに怒ってたの?」

「え……いや、その……相手が女だったから、感情的になっちまったんだ……」


 氷峰はそう言うと、目を瞑りながら溜め息をつき、亜結樹の肩を掴んでいた手をそっと撫で下ろした。亜結樹はあの時のこと――氷峰に初めてキスされた時のことを思い出しながら――

「ごめんなさい……恋人だなんて自覚なくて……」

 と言った。


「ん? ……そうなの?」


 ――ってことは……お前、自分が男か女かよくわかってねぇのか?


「あのね……海鳴とは、恋人だなんてあまり意識してないんだよ。形だけでさ。信じてくれる?」

「は? 形だけ? 友達とは思ってねぇのに?」

「うん。手繋いだり、一緒に帰ったりしてるけど、それが恋人同士のすることなんだって……それが形だけって思ってる」


 亜結樹がそう呟くと、氷峰はクスッと思わず笑い声を漏らしてしまった。


「っ……カイメイって奴、相当お前の事好きみてぇだな。それ形だけじゃなくて、本心だっての」

「そっか……きっとそうだね。一度あたしにキスしようとしてきたし――!」


 亜結樹の思いがけない一言に、氷峰は再び肩を、今度は力強く掴んだ。


「キス…したのか!?」

「ううん! してないよ!」


 亜結樹も思わず対抗して氷峰の腕をしっかりと掴んだ。氷峰は亜結樹の懸命な一声を信じて肩を掴むのを止めた。亜結樹は一息ついた。


「海鳴、拒否したら急に笑い出したんだ……。すごい馬鹿笑いして、何がそんなに可笑しかったのかな……。よくわかんない」

「ああ、あれか……。キスできない悔しさで頭がイかれちまったとか」

「イかれちまったって……言い方悪いよミネ……」


 亜結樹は苦笑いをしながら言った。


「そうか?」


 ――なんかそう言われると、蔀と喋ってるような錯覚も起こすな……。


「あたし……まだよくわかってない……。海鳴とは同性愛になるのかな?」

「あー……肉体的にはそうなるけどさ……そういうの、相手がどう思ってるかにもよるな」

「……それは……イフのことばらしてないからだよね。でも――」


 亜結樹は何かを言おうとしたその時――


「そうだなぁ……お前のこと女の子だと思って近づいてる可能性だってあるよな」

「――っ……!」


 亜結樹は、氷峰の『女の子だと思って近づいている』という言葉に少し疑念を抱きながら、『あたしは男の子じゃない』という言葉を言うのを止めてしまう。

 亜結樹は不安になる。眉間に皺を寄せていた。自身はまだ、『男として生きたい』という考えも、「女の子になりたい」という思いもないからである。性を浮遊していた。


 ――海鳴に、気づかれているかもしれない。いや、ばれてはいないのか、それとも気づいてないフリをしているのか……。


「お前……体の事ばれたりしたの?」

「気づかれたかもしれないけど……バラしたつもりはないよ」


 ――今日の帰り道……海鳴、勝手な想像だとか言ってたけどどこまで、どんな想像してるんだろう……。あたしが男っぽいのは目に見えてる事だしな……。スカート穿いてないし。


「そっか……」

「あんまり心配じゃないんだね。最初の頃は絶対ばらすなよって強く言ってくれたのに」


「ん……ああ。何かさ……時が経てば、お前の体の事、俺みたいに自然に受け入れてくれる奴、出てくるんじゃないかって……改めて考え直したんだ」


 ――違う……そうじゃない。何だろうな……時々胸騒ぎがする。

 ――どうも俺は亜結樹がこれから先、允桧の様に色欲に溺れていってしまうような事を想像している。

 ――俺と居たら……俺がいつかそんな風にさせてしまうような気がしてしまう。


 ――何故なら、俺は允桧とそういう付き合い方しかできなかった人間だからな。

 ――彼女が――亜結樹がそれを望むなら、俺は相手になるけど。

 ――組織が俺を選んだ理由とか、亜結樹がカイメイという男子と恋仲になろうとしている事とか、一つ一つ問題を乗り越えなきゃならないな……。


 氷峰は煙草に手をかけようとする。すると亜結樹が彼の手を止めるように――


「あのさミネ……ミネに聞くことじゃないかもしれないけど……」


 話しかけてきた。

 氷峰は手を止めず、煙草のケースから器用に片手で一本押し出し――


「……?」


 不思議そうな目で、伏し目がちな亜結樹の瞳を捉える。


「どうしてあたし……産まれてすぐ、手術されなかったのかな……」


 氷峰はライターで口にくわえた煙草に火をつけようとしたが、煙草を吸うのを止める。その一言に、動揺する様子はなかった。この一ヶ月の間に蔀と二人で、前もって亜結樹自身について、じっくり話をしていた時期があったのだろう。

 氷峰はすぐ答えを出した。


「お前に権利があるからだ」

「権利?」 

「お前が男か女か選ぶ猶予ていうか……自由があるってことだよ。自ら選ばせるって考え方も、悩ましいことだと思うけどな……俺は」

「そう……なんだ……」


 ――蔀さんがそうしたかったのかな……?


「あたしは……、まだわからない」

「ん? 性別が?」

「違う……」

「は?」


 亜結樹は氷峰の穏やかな瞳をじっと見つめながら考える――。


 ――……まだ好きかどうか、試されてるのかも。

 ――あたしは……俺はミネのことが好き……なのかな?


「ミネはどっちのあたしが好きなの?あたしはどっちを好きでいればいい?」


 亜結樹は氷峰の目をじっと見つめて、離さない。


「どっち……ってお前……、あたしって言ってるから女……だろ? お前やっぱ自覚してねぇのか?」


 亜結樹に暫し見つめられたまま、氷峰も亜結樹の瞳に捉えられ、彼女をふわふわした状態で見つめる。


「……うん」


 ――友美香の告白を断ったのは、あたしが只ミネと一緒にいるからだけじゃない。

 ――ミネがあたしの体の事を考えた上での答えだったと思うんだ。今ならわかる。


 ――だからきっとこれは――この感情は『男でも女でもない』と思ってる……ってことだ。


 亜結樹はゆっくり頷いた。氷峰は彼女の頷いた様子を見て、口角を少しだけ上げ微笑んだ。


「俺は……男らしいお前が好きだけど……な」


 ――そういやコイツ、休日はタンスに眠ってた八束が着てたスウェット着てたしな……。

 ――女らしいもの身につけたら、俺は嫌でも下に目がいっちまう。

 ――そういう女らしさはコイツにはいらない。顔は女顔なんだけど。

 ――どっちかって言われたら……男にしたい。声は女だけど。

 ――ああ…混乱する。何考えてんだ、俺。亜結樹を男にしたいって……。


 氷峰は軽い溜め息をつきながら片手で頭を掻き上げると、ソファから立ち上がる。

 亜結樹は立った氷峰を見上げる。


「ちょっと先食べててくんねぇかな。やらなきゃいけねぇ事がある」


 氷峰はそう言うと、自室に向かった。ソファに座り込んでいた亜結樹は――

「あ、うん」

 と、小さい声で返事をした。


 ***


 亜結樹は食事を終えると、氷峰の自室のドアを静かに開ける。

 ドアの軋む音はしない。ただ、ドアの開いた隙間から空気が少し入り込み、風を少し感じる。氷峰はそれを感じ取り、亜結樹が覗きに来たとすぐ気づいた。

 氷峰は振り向かず、机に広げられていた用紙に何かを書き込んでいた。

 亜結樹はその様子をじっと見ながら、そっと声をかける。


「ミネ……何書いてるの?」

「ん? 蔀に渡す書類。○×で答えんだけどな」

 ――項目が多すぎんだよ……。

「ふーん」

「……気になる?」

「ん……ちょっと……」


 亜結樹は氷峰に近づく。すると氷峰は用紙を裏返して、手の平を亜結樹の前に差し出し――

「あーこっち来んな。これ、お前には見せられねぇんだ」

 と言って亜結樹の足を止めた。


「そ、そうなんだ……」


 亜結樹は仕方がないといった表情をして微笑んだ。


「もう食べ終わったのか?」

「うん」

 亜結樹の返事を聞いた途端――

「ふわぁ……、じゃ俺も飯食うかな。あー疲れた。あれ、風呂湧かしたっけか?」

 あくびをした。両腕を自然と伸ばして椅子に寄り掛かり、仰向けになる。


「あ……。お風呂場、あたしやっとくから。ミネはゆっくりご飯食べてて」


 亜結樹はそう言うと氷峰の部屋を出て行った。


「ああ、ありがとな」


 氷峰は穏やかな顔をして返事をした。二人はその後、隣同士仲良くソファに座って、ニュース番組を数分視聴する。その後、それぞれの部屋へ向かうと眠りについた。二人の距離は少しずつだが、縮まってきている。


「……」


 ――明日、友美香来るかな……。


 亜結樹はベッドの中で目を閉じながら、立花に会えるかどうかを考え込んでいた。



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