5th Hand 酒とバクチと男と女


ここは世界のどこかの場末のカジノ

集まる面子はいつも同じ


○登場人物


     ☆サクラ

      正体不明・天下無敵のハイティーン。

      ポーカーの他にやるゲーム? うーん、普通にポケモンとか?

      人種設定:ワイルドカード


     ★ムラカミ

      自称「グレートな男」の残念な熱血系。

      データ上はダービー馬を三頭所有している。

      人種設定:モンゴロイド


     ★棟梁

      肩で風切るいなせなジジィ。てやんでぃ!

      花札と麻雀。

      人種設定:コーカソイド(ゲルマン系)


     ☆ミスホワイト

      女の武器フルアームドおねーさん。酔い上手。

      バイオハ(咳)……メタルギ(咳)……ス、スプラトゥーンよ!   

      人種設定:コーカソイド(スラヴ系)


     ★ジョニー

      陽気でファンクな脳筋マッチョ枠。

      ノリノリのDDR動画を YouTube に流してる。

      人種設定:ネグロイド


     ★猫柳

      存在感薄めの不思議少年。猫がなつく特性もち。

      アナログ派。モノポリーとか。

      人種設定:ワイルドカード



     ☆ダニエラ

      冷静沈着な美貌のディーラー。

      クラップスのテーブルも、ありますよ!

      人種設定:コーカソイド(ラテン系)


○Guest


     ☆棟梁妻

      棟梁の奥方。


○カウンター回

○L字のカウンター席に

 サクラ-ホワイト-棟梁-猫柳-ジョニー-ムラカミ



   カウンター席にいつもの面々が並んで座っている。カウンターの中に

   ダニエラ。


サクラ 「ポーカールーム貸切なんて聞いてねーよぉ」

ダニエラ「申し訳ありません、みなさん。団体のお客様が急に遊びたいとおっしゃ

     いまして」

ホワイト「ダニエラはここにいていいの、ディーラーしなくて?」

ダニエラ「あくまで身内のレクリエーションだそうで……ディーラーの経験者もい

     らっしゃるとかで、場所代のみでお貸ししてます」

棟梁  「そりゃあ、商売としちゃあ旨味がねぇなぁ」

ダニエラ「そこはうまくやってますので、ご心配なく(あなた方のレーキ1桁上げ

     ても足りるくらいはいただいてますよ!)」


   ダニエラ、ドリンクメニューを差し出す。


ダニエラ「そういうわけで、今日の私はバーテンダーです。ドリンク1杯サービス

     しますよ。何になさいます?」

ムラカミ「ありがたいね。じゃ、バーボン」

ジョニー「コークハイで」

棟梁  「サケ。熱燗でな」

ダニエラ「うちのは本場から取り寄せの上級品ですから、冷やをおすすめしますよ」

棟梁  「なら冷やでいいが、徳利と猪口でな。あれがオツなんだ」

ダニエラ「かしこまりました」

猫柳  「相伴します。徳利と猪口もうひとつずつ」

ホワイト「上級のサケがいいんだったらさぁ、シャトー・ラフィットが入ったって

     ……」

ダニエラ「ヴィンテージは勘弁してください! 赤ワインですね、ちゃんとご満足

     いただけるの出しますから。……サクラさんは?」

サクラ 「ビール!」

全員  「ダメ」

サクラ 「なんでさー!」

ホワイト「いいかげん懲りなさいよ。『いつもの』にしといたら?」

サクラ 「えーでも、こうやってカウンターで並んで飲むんだから、なんか、こう、

     オトナなヤツ」

ムラカミ「めんどくせぇな……」

ジョニー「形だけカッコつけてもしょーがないヨ!」

サクラ 「でもさー」

ダニエラ「わかりました、何かノンアルコールカクテルを作りましょう」

サクラ 「おぉ! カクテル! オトナだ!」

全員  「(おこちゃまだー……)」

ダニエラ「じゃあ、シャーリーテンプルにしましょうか。グレナデンシロップ、ど

     こだったかしら……」

ホワイト「ダニエラぁ、難しいこと考えなくていいって、ブラッディマリー出した

     げればいいのよウォッカ抜きで」


   ダニエラが、ぷふ、と小さく吹き出す。他の面々もニヤニヤ。

   なぜ笑われたかわからないサクラ、スマホで手早く検索。


サクラ 「……それ、ただのトマトジュースじゃんっ!」


   一同爆笑。

   時間経過、各自の前に頼んだドリンクが並んでいる。

   棟梁が空になった徳利を振る。


棟梁  「量、少ねぇな。もう少し欲しいな……」

ダニエラ「サービスは1回だけですよ、おかわりは代金をいただきます」

棟梁  「ふぅむ。じゃ、こうしよう。このメンツなんだ、ポーカーやろうや。負

     けたやつが勝ったやつに奢り」

ダニエラ「ここでですか? カジノフロアの外でチップを扱うのは……」

ムラカミ「それに、カード取り回すにゃ狭すぎるだろ」

棟梁  「心配すんな。デック1個くれや」

ダニエラ「はぁ。少々お待ちを」


   ダニエラがカードを1組取ってきて棟梁に手渡す。棟梁、シャッフル   

   しながら。


棟梁  「おい猫、こっち向け」

猫柳  「僕ですか?」

棟梁  「飲むもんが同じだからな。徳利1本、勝負だ」

猫柳  「受けるのはやぶさかでないですが、勝負の内容は?」


   棟梁、猫柳と自分にカードを1枚だけ配る。


棟梁  「そいつを、俺の側に向けて額に当てるんだ」

猫柳  「……インディアン・ポーカーですか」

ホワイト「PCポリコレ的注意!」

猫柳  「ただのゲームの名称ですよ」


   棟梁、猪口に残っていたサケを煽る。ダニエラに目配せ。ダニエラが   

   徳利をもう1本持ってきて、棟梁と猫柳の間に置く。


棟梁  「チップなんかいらねぇ。ベットするかしないか、ベットしたら受けるか

     受けないか、そんだけの勝負だ。双方ベットで合意したらショーダウン。

     そこで勝負を決める」

猫柳  「わかりました。やりましょう」


   猫柳、カードを手にとって額へ。♢A。

   棟梁もカードを額へ。♡2。


猫柳  「ベットします」

棟梁  「下りるよ」


   双方、カードを下ろす。猫柳がデックを手にしてシャッフル、その後   

   1枚ずつ配る。双方、再びカードを手にして額へ。棟梁♢Q、猫柳♡9。


棟梁  「……ベットだ」

猫柳  「……下ります」


   双方、カードを下ろす。棟梁がデックを手にしてシャッフル、その後   

   1枚ずつ配る。双方、再びカードを手にして額へ。猫柳♠T、棟梁♣9。


猫柳  「下ります」


   見ていた面々が、あぁ、と息を漏らす。


猫柳  「え、勝ってました? あー!」

サクラ 「ナルホドねー、コレ確率で考えちゃダメなヤツだ」

ジョニー「表情読まないとネ。棟梁、相手が猫なのしんどくない?」

棟梁  「バカヤロウ、猫だから面白ぇんじゃねぇか。おまえらで相手になるか」

ムラカミ「俺もやりてぇな、誰か相手しろよ」

ホワイト「あんたなら楽勝だけど、見つめ合うのヤぁよあたし」


   双方、カードを下ろす。猫柳がデックを手にしてシャッフル、その後   

   1枚ずつ配る。双方、再びカードを手にして額へ。棟梁♡3、猫柳♠9。


棟梁  「……ベットだ」

猫柳  「受けます」


   一同、あー、と息をつく。ダニエラが徳利を手に取る。


ダニエラ「ショーダウン、どうぞ!」


   棟梁と猫柳が手を下ろし、ともにカードを開く。当然、猫柳の勝ち。   

   ダニエラ、勝者を称える意図で充分に勿体をつけてから、猫柳の猪口   

   にサケを注ぐ。一方棟梁は、ぱぁんとひとつ額を叩いた後、席を立つ。   


棟梁  「たっはっは、負けた負けた。……ちょいと便所行ってくらぁ」


   猫柳、猪口に口をつけた後、トイレに入る棟梁の背を見送りながら。   


猫柳  「……棟梁らしいや」

一同  「?」

猫柳  「今の、わざと負けたように見えました」

ムラカミ「そうなのか? あぁ、でも棟梁ならやるかもな。この中で一番稼ぎがい

     い棟梁が、猫に奢らせるとか、野暮だもんな」

ジョニー「粋だねぇ。年の功だね。勝ち負けより、バクチそのものが楽しい、もう

     そういう境地なんだろうねぇ」

ホワイト「……粋かしら?」

サクラ 「あたしは、やるんならガチでやってほしいけどなぁ。ダニエラさんどう

     思う?」

ダニエラ「え、私……ですか? 口を挟むのは差し出がましいかと思うのですが…

     …そうですね、ただ私の場合、棟梁が若い頃の話を、祖父からいくらか

     聞いておりますので……奥様はさぞ苦労されたかと……」


   棟梁がトイレから出てきて、ハンカチで手を拭いつつ、口笛吹き吹き   

   戻ってくる。その腕を、ガッと掴む者がある。掴んだのは棟梁妻。


棟梁  「げっ! ばーさん?!」

棟梁妻 「なにしてんだいアンタ」

棟梁  「何って……」

棟梁妻 「今日は貸切で休みだって言うじゃないか。休みの日くらい家の手伝いし

     ておくれよ!」

棟梁  「いいじゃねえかよ、今日はもともと打つ日だったんだからよ!」

棟梁妻 「休めるときは休めってんだよ。いつも言ってるだろ、バクチは適度が肝

     心、のべつ打ってるとカンが鈍る! ここぞで集中が切らさない努力を

     すんのが博徒ってもんだ」


   遠目に見ながら目を丸くする一同。


サクラ 「そういう理屈?!」

ダニエラ「ですから、奥様も元博徒なんですよ」

ムラカミ「マジか……」

ダニエラ「というか、奥様元博徒で。そんな奥様にカタギだった棟梁さんが

     入れ上げて巻き込まれて。のめり込んで身を持ち崩しかけたので、誰か

     が財布の紐を握って矯正しなきゃいけませんねと。それがご結婚に至っ

     た経緯であると、聞いています」


   一同唖然。

   一方、棟梁妻は、棟梁の襟首を掴んで締め上げている。


棟梁妻 「まさかカジノフロア以外でバクチ打ってないだろうね」


   棟梁、冷や汗流しながら首を横にぶんぶんぶん。


棟梁妻 「あまつさえガキどもにわざと負けて、気前のいい男を気取ったりしてな

     いだろうね」


   棟梁、さらに大量の冷や汗を流しながら首を横にぶんぶんぶん。

   棟梁妻、襟から手を離す。……と同時に、足をドンと踏み鳴らす。


棟梁妻 「気をつけ!」


   棟梁、しゃっちょこばる。


棟梁妻 「バクチ三箇条、復唱!」

棟梁  「待てばバクチの日和あり、

     健全なバクチは健全な精神に宿る、

     稼ぐに追いつくバクチなし!」

棟梁妻 「ハイよくできました。じゃあこれからどうするんだい、あんた」

棟梁  「おうちの、そうじを、いたしまっす」

棟梁妻 「よろしい! (カウンターに向かって)ダニエラ! ウチの人連れてく

     からね! 払いあんならツケといて!」

ダニエラ「うちはツケ払いは認めてません!」


   言ったとたんに、カウンターに髪留め(かんざし)が、すかーん!    

   と音を立てて突き立つ。紙幣が刺さっている。


棟梁妻 「釣りはいらないよ! とっときな!」


   留めていた白髪混じりの長髪が落ちる。ふわっとかき流した後、棟梁   

   の襟首をひっつかんでズルズル引っ張って店外へ。


サクラ 「カッケー……!」

ホワイト「女の歳の重ね方の理想型だわ……」


   ムラカミ&ジョニー、いやいやいや冗談じゃねぇと手を振る。


ジョニー「ダニエラはどーなのよああいうの?」

ダニエラ「ですから、私が口を差し挟むことではないかと……ただ、同じ人生を歩

     みたくはないかなー、と」

猫柳以外「どんな人生?!」


 猫柳、棟梁が残していったサケを穏やかに飲み干す。


猫柳  「いい人生ですよ。ともに老いると決めた相手がいるなら、それだけできっ

     と」


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