鈍感少女 side美久
あたしの親友には天然鈍感少女がいる。
今朝のHR前に上級生に呼び出されてあわあわとお話をしていた彼女は、普段から見ていて癒されるふわふわ系女子だ。
「しーはーるー?」
「あれは一体どういうことだ?」
あたしと郁で詩春に問い詰めてみるけど彼女の反応は全くと言っていい程ない。
「な、何のこと…?」
挙げ句の果てにきょとんとしながらそう返されてしまった。
「どの口が言うのよ。どの口が」
あまりの鈍感さから頰を引っ張ってやれば痛い痛いと抗議をしてくる。
「あの謎のイケメン上級生は誰なのかって聞いてるのよ!」
そう言って頰を離し、机を叩けば詩春はつねられた頰をさすっている。
「イケ…メン…上級生」
そう言ってもまだピンときていなかったようだが、ようやく朝の出来事を思い出したらしい。
「本当に忘れてたみたいだな…」
思わず郁と顔を合わせると、郁は呆れた様子でため息をついた。
「別に責めてるわけじゃないんだ。
ただ詩春が男と喋るのが珍しくて…」
そう言う郁の発言から考えても、詩春が話した同級生は恭弥と三上の二人だろう。
「で、教えてくれるわよね?関係性」
そうニコリと笑えば、
「は、はい…」
詩春は観念したように頷いた。
————————————……
「ふーん、委員会の先輩かぁ」
詳しく話を聞けば、委員会で同じ日に当番をしている先輩らしい。
あたしが納得していると郁が不思議そうな顔をした。
「ん?だが何でその委員会の先輩がわざわざ教室まで会いに来たんだ?」
(確かに…)
心の中で思っていると、
「え、えっとね…」
目の前の詩春が困ったように視線を泳がせながら言葉に詰まっていた。
「もしかして…付き合ってるの?!」
「……へ?」
あたしの中で芽生えた少しの可能性を口にすれば、間の抜けたような声が返ってきた。
「…付き合…ってる?」
「そうよ!だってただの委員会同士じゃこんなに親密じゃないわよ?先輩なんだし余計…」
そう言って、詩春のこのぽわぽわした抜けた感じを補うには「年上もありね」と新しい候補を見つけた。
「まぁ、真面目そうな人だったしな」
そう言った郁の言葉に同調する。
すると、
「ちょっと!二人とも違うよ!」
詩春がそう話を止めたかと思うと、委員会での馴れ初め劇をきちんと話してきた。
「なーんだ。つまんないの」
それを聞き終わった瞬間、あたしの描く青春ラブストーリーは打ち砕かれてしまい力なく席に着いてパンにかじりついた。
「……私の早とちりか」
郁も残念そうにお弁当に箸を伸ばした。あたしの勘だけど、郁は意外にも乙女っぽいところがあり、こういった恋バナは好きだと思う。
「わたしにはまだそんなお付き合いとか大人なことは出来ないよ」
そう言った顔と先程詩春が先輩と話していた顔が一緒に見えて、思わず目を大きく見開いた。
「でも、さっき先輩と話してる時の詩春。女の子、って顔してたわよ?」
「……女の子?」
そう意地悪に言えば首を傾げる詩春。郁は優しく笑って詩春を見た。
「……恋をしてるように見えた」
「……恋?」
あたし達二人の発言に全ておうむ返ししか出来ずに考え込む詩春。
きっと頭の中は例の先輩でいっぱいになってるんだろうな、なんて思ってニヤニヤする。
「そ、そんなことないよ〜」
そう言う詩春の顔が恋をしてる女の子って感じで…。
「本当に…応援したくなるわ」
何だか詩春を見てたらあたしも頑張らなきゃ、って思ってくる。
あたしの中にある恋心も…—
「絶対、叶えてみせるんだから」
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