恋の色はまだ染まらない
地元の駅に着き、家までの道を歩く。
「トモちゃん」
「何、お姉ちゃん?」
「さっきみたいなのは良くないよ?
トモちゃんが悪いイメージになっちゃう」
「……だって」
「トモちゃんがわたしのことを守ってくれようとしてくれるのは嬉しいよ?でももうお姉ちゃんも強くなったから大丈夫!」
「……ごめんなさい」
あの時からだろうか?
トモちゃんがわたしに関わる男の子を嫌うようになったのは。
「よーし!もうこのお話はおしまい!」
よしよしとトモちゃんの頭を撫でる。
藤永さんには悪いことをしたから今度会った時に謝ろうと心に決めた。
「今日の夕食はトモちゃんの好きなロールキャベツにしよっか〜」
「え!本当に?!」
「うん!確か材料はあったから…」
「お姉ちゃん大好き!!」
そう言って抱きついてくるトモちゃんはいつもより子供っぽく思える。こんな姿を見れるのは姉であるわたしの特権だ。
「お兄ちゃんも待ってるから早く帰ろう!」
「うん!」
わたしはトモちゃんに手を繋がれながら、家までの道を急いだ。
————————————————
…その頃。
「何で俺は水瀬さんの妹にあれだけ嫌われたんだ?」
一人呟きながら地元の駅の階段を降りる。
「あ、玲…」
すると、偶然スーパーから出てくる兄貴と鉢合わせになった。
「兄貴…」
「どうしたんだ。大きなため息なんてついて」
「いや、何でもない…」
見られていたのかという驚きとそれを指摘された恥ずかしさで顔を背ける。
「今日は仕事終わるの早いな」
「そうなんだよ。だから買い物と思って…」
そう言って買い物袋をかかげてみせる兄貴。
「へー、今日の夕食は何?」
そう聞いて、兄貴が持っていた袋の一つを奪う。
「今日はオムライスにしようかなと思ってるけどそれでもいいか?」
「ああ、うん」
「帰ったら手伝ってもらうからよろしく」
「げっ、……了解」
そう言って俺らは家に急いだ。
———————————————……
「「ただいま〜!!」」
トモちゃんと二人で玄関から叫ぶ。
すると奥からバタバタと足音が聞こえてきた。
「遅かったから心配したぞ!」
案の定心配そうな顔をして出てきたのはお兄ちゃんだった。
「今日は委員会があったんだ〜。
それで偶然駅でトモちゃんと会ったの」
ねっ、と微笑むとトモちゃんも頷いた。
「塾が終わって駅に向かったらお姉ちゃんがいたから…」
「ほ〜、二人ともお疲れさん!
詩春は今日の集会で寝そうになってただろ?」
「えっ、なんで知ってるの!」
「淑女が大口開けてあくびとはなぁ〜」
「ちゃ、ちゃんと手当てたもん!」
何でこんなことまで知ってるんだろう?
「トモは塾どうだ?」
「順調。というか玄関先で話さなくてもいいでしょ!お姉ちゃんも早く部屋上がるよ」
「そうだ!夕食の準備!」
わたしとトモちゃんはお兄ちゃんを押しながら部屋に入っていった。
「今日の夕食何にすんだ?」
「今日はロールキャベツなんだ〜」
「おぉ、トモやったな」
「ったく、お兄ちゃんは座ってないでこっちの準備手伝ってくれない?お姉ちゃんが料理してくれてる間にテーブルセッティングしなきゃ」
「へいへい。トモは手厳しいなぁ」
「ふふっ」
わたしはキッチンに立っている時に始まるこの二人の会話が実は好きだったりする。両親がいないことは寂しくもあるけど、仲の良い三人だから乗り越えていける。
「お姉ちゃん!何か手伝えることある?」
「んー、じゃあお皿出してもらおうかな」
「わかった!」
「じゃあ俺は味見を…」
「お兄ちゃんは飲み物出してね?」
「ちぇー。はいはい」
「はい、お姉ちゃん!お皿!」
「ありがとう」
「わぁ、美味しそう〜」
「トモちゃんのは少し大きめにしたからお兄ちゃんには内緒ね?」
「お姉ちゃん大好き〜!」
ぎゅー、っと抱きしめてくるトモちゃんはお家ではいつも甘えたさんになる。何度も言うがそんなところも可愛いのだ。
「お前ら何飲むか言えー」
「わたしはジャスミンティー」
「私は緑茶」
「んー、俺も緑茶にするか…」
トモちゃんが出してくれた食器に盛り付けをしプレートに乗せる。
「よし、これで良し!」
「おぉ〜、美味そう!」
「お姉ちゃん天才的!運ぶね!」
そうして準備を終え、席に着き手を合わせる。
「では…」
「「「いただきます!」」」
慣れなかった料理も今では楽しいと思えるまでには成長出来たと思う。
「うん!詩春、美味いぞ」
「やっぱり何度食べても美味しい〜!」
「良かったぁ〜。おかわりあるからいつでも言ってね?」
作った後のこの笑顔が嬉しいのだ。
こんな風にいつも
———————————————……
「ふーふーふーん」
「何歌ってんの」
よくわからない鼻歌をまじらせながらオムライスを作っている兄貴。相変わらず能天気というかなんというか…。
「良い香りしてくると気分がなぁ」
「へ〜。食器これでいい?」
「うん。ありがとう」
幼い頃から料理をしている兄貴は俺から見ても十分に料理上手だと思われる。
「ん、美味しい」
エプロン姿で味見をしている横顔も様になっている。
「兄貴は何飲む?」
俺は飲み物を準備しようと冷蔵庫を開ける。
「んー、烏龍茶でお願い」
「了解」
二つのコップに烏龍茶を注ぎテーブルに運ぶ。
スプーンはすでに用意してあるからと席に座って料理を待つ。
「よし、出来た」
キッチンからお皿を二つ持って歩いてくる兄貴。スッと目の前にオムライスが置かれる。
「おお、美味そ…って、何だこれ」
「ただのケチャップじゃつまんないかと思って遊び心だよ」
「だからって…」
そう言って俺の目の前に置かれたオムライスに描かれた可愛らしいあのマーク。
「ハートはないだろ…」
「まぁまぁ、味は良いはずだから」
「別に良いけど…」
「じゃあ、いただきます」
「いただきます」
全く、兄貴の斜め上の行動には毎度笑わせられる。親が離婚しても楽しくやってこれたのはこういう兄貴の性格のおかげだろう。
「あ、そうだ」
「ん?」
「今日やっと会えたんだろ?あの子に」
「えっ、何で知って!!」
「ははっ、顔に出てるよ」
こうして俺らの夜は更けていく。
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