気がつかない出逢い



「はー、やっと終わったぁ!」



美久ちゃんがグッと背筋を伸ばす。



「失礼だけど今日の校長先生の話は長かったもんね」

「本当に道徳的な話ばかりだったな」



わたしの発言に郁ちゃんは同調しながらクスリと笑った。



「っていうか、あんたのお兄ちゃんやらかしすぎだからね!思わず笑っちゃったじゃない」

「私もあれには驚きだ」

「わたしだって驚いたよ!」



あれはお家でお説教しなくちゃ…。



「恭弥はずっと寝てたよね?」

「げっ、何でお前は知ってんだよ!」

「いや、カマかけただけだけど本当に寝てたんだ?」

「蒼。お前は本当に嫌な奴だよ…」

「そんなことないよ。俺は優しいよ?」

「どの口が言ってんだ。水瀬もこんな奴の隣で最悪だよな〜?」



美久ちゃんと郁ちゃんに責められていると神宮寺くんがわたしに質問をしてきた。



「えっ、三上くんは優しいよ」

「ほらね。水瀬さんみたいにわかる人にはわかるんだよ」

「そんなんありえねーとしか…って水瀬前!」

「えっ……」



——ドンッ



「きゃっ…!」

「……っ!」



恭弥くんの言葉に反応した瞬間、目の前が真っ暗になった。そして美久ちゃんの声が聞こえると同時に体に衝撃が走った。



「詩春!大丈夫?!」

「水瀬さん!」

「……いたた」


自分が何かにぶつかって転んだのだと気がつくまでそう時間はかからなかった。



「……ってて」



すると、目の前に同じように廊下に座った状態になっている男の人がいた。



(わたしこの人とぶつかったんだ!)



投げ出された足をよく見ると二本のシアンブルーのラインが入った上履きを履いている。それは進学選抜コースの二年生だということを示しており、藤永、と書いてあるのは恐らくその人の苗字だろう。



「ご、ごめんなさい!わたし前を見ていなくて!け、怪我していませんか?!」



矢継ぎ早に質問をするわたしに一瞬気圧された様子を浮かべた男性。



「あ、ああ。俺は問題ないですけど…。

俺の方こそ前見てなくて悪かったです」



そういうとその男の人はスッと立ち上がりパンパンとブレザーの汚れを払った。



「……立てますか?」



そう言って未だ座ってあたふたしているわたしに手を差し伸べてくれた。



「……あ、ありがとうございます」



遠慮がちにそっと手を取って立ち上がると、



「おーい、玲。早く早く〜」



「じゃあ、俺はこれで」



お友達らしき男性に呼ばれ、男の人は一礼してその場を離れた。



「詩春、大丈夫だった?」

「チャイムが鳴るから早く戻ろう」



そう言って二人は先に駆け出した。



「ほら、早く!置いてくよー」



少し先で美久ちゃんが手招きしてる。



「……藤永さん、かぁ」



私の呟きは周りの声にかき消された。



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