第29話 試験戦闘

 受付で手続きをすると、ダルク達は全員が闘技場へと連れていかれた。闘技場の観客席にはそこまで多くはないが、冒険者の姿がある。スーザンが言うには、新しく試験を受ける冒険者がどれだけ強いのかという視察の意味で訪れる人は少なからずいるということだった。今回は少々人が多いそうだが、一気に6人が受けるということもあってのことだろう。

 そんな中、一番初めに試験を受けることを名乗り出たパトラ以外は観客席の1番前の席に通された。パトラは、闘技場の真ん中で関節を伸ばしている。その正面にいるのは、剣士タイプで大柄な男性冒険者。普通、こういった試験では同じタイプの冒険者を当てるもんじゃないのかとパトラは思ったが、これが相手のやり方なのだろう。狭域での戦闘技術を必須とするような闘技場で、遠距離戦闘を主体とする魔導士が、近距離特化の剣士に挑まなければならないのは正直言って厳しいものがある。

 ただ、パトラの意見としては、そんなことはどうでもいいものであり、そもそも接近されたら使い物にならなくなるような魔術師では生き残れないとも考えている。パトラは身体能力にもそこそこ自身があるタイプの魔術師であり、接近戦闘もこなせる。今回は槍の代わりにするために用意された木の棒を持っている。


「さて、始めましょうか、長いことこうやってる意味もないわ」


 パトラは詠唱せずに闇属性の身体強化魔術を行使し、木の棒を構える。闇の身体強化の術式は自分の魔力に働きかけることで、反射と筋力をサポートさせる。たいして速度が上がるわけではないが、パトラが使える身体強化はこれだけであった。


「あれ、今回の相手は魔術師だと聞いていたんだがな」


「一応魔術師よ、私」


「そうかい、とっとと負けてくれると仕事が楽なんだが……」


「あ、そういうのいいから、やるわよ」


「チッ」


 パトラの反応が気に食わないのか、剣士は舌打ちで応えると木の剣を構える。両者が武器を構えたのを確認した審判が軽くうなずく。


「はじめ」


 合図の声。先に動いたのは剣士のほうだった。単純な振り下ろしによる攻撃。パトラはそれをなんの苦も無く躱すと、そのまま手に持った棒で突きを繰り出す。


「おっと」


 剣士もそれを躱したが、3歩ほど間合いが空く。それをパトラは見逃さず、手早く火の玉を作ると連続で3発放つ。木の剣で火を払うわけにもいかず、剣士とパトラの間合いはさらに開く。


『業火、燦々と燃えよ』

「ヘルファイア!!」


 かなり手加減した上に詠唱を省略した爆炎魔法。直撃してもギリギリ死なない程度の一撃。パトラにとっては牽制でしかないのだが、相手はそんなものがいきなり飛んでくるとは思っていなかったのか、大げさに驚いて飛びのいた。その先で大きく体制を崩した。それを逃すパトラでもなく、追加の魔法の発動を試みるパトラであったが、相手が何かを投げてきたのを見て、棒で薙ぎ払う。その一瞬で相手は体制を立て直していた。


「まあ、それくらいはできるわよねえ」


「駆け出しがなめたことを言いやがって、後悔しても知らないぜ……」


 剣士がそういうと、その体を淡く赤い光が一瞬包む。火属性の身体強化魔術が発動した時に起こる現象なので、何も不可解なことはないのだが、パトラはなにか不信感を覚えた。なにか、剣士の魔力が動いたような感覚がしなかったのである。パトラは魔族の中でも魔術に秀でた種族である。魔力の流れが感覚でわかるのだ。なにか、剣士ではない誰かが魔術を行使したかのような不信感。だが、パトラはそれを振り払う。


(……いや、気にする必要はないわね)


 まずは目の前の戦いに勝って、ダルクにいい形でつなげること、それがまず重要なことだ。


「さて、第二ラウンドと行きましょうか」


 パトラは棒を構えつつ、体内の魔力を高める。そのまま暫くにらみ合いになった。


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