第20話 街の話

 次の日、ダルク達はジルに言われた通りに馬車乗り場に来ていた。商人の馬車や乗り合いの馬車などが混在しており、にぎやかな雰囲気ではある。そこに立つダルク達は、まさしく新天地へと向かわんとする志高い冒険者といった格好である。ダルクはマントを羽織り、さらには腰に剣を、背中には紫電陽炎を背負っている。その隣にいる二人は武器を使わないが、パトラはマントを羽織っているし、ミーアは重そうな鞄を一つ手に持っている。

 ダルクはそんな中であくびをかみ殺す。パトラが朝早くに起こしてきたので睡眠時間が少々削られていたのだ。隣でミーアが衛生環境がどうとか言っていたが、ダルクには医学の知識はない上に反応する余裕はなかった。

 ランス国首都の城下町から別の街に行くには馬車が一番いい。ここから一番近い別の街でも、馬車で2日ほどかかる場所にしかない。徒歩で行こうものなら骨の折れる道のりだ。ランス国の首都であるがゆえに交易は発達しているため、馬車は頻繁に出ている。多少の金銭は必要だが、その労力を考えれば使わないという手はない。風魔法を使って空を飛ぶ飛空船なる乗り物もあるらしいのだが、こっちは最低でも金貨を要求されるため、一般的な冒険者はまず使わない。そういうものは基本的に貴族が使うものだ。


「そういえば、どの街に行くかというのは聞いてなかったな……」


「そうね、気にしてなかったわ。まあ、昇格できるならどこでもいいわ」


 パトラは街の方には興味を示していないようだ。目的さえ達成できればいいという感じの軽い考えが透けて見えるようだった。とはいえ、これから行く街について知らないというのもどうなのだろうかと思うのがダルクだ。正直、獣人の国を抜け出してきたミーアや魔族であるパトラにその手の知識があるとは思えない。ダルクのほうも、軍時代に主要都市はいくつか行ったことはあっても、元が開拓村の出身であるためそういった情報には疎いほうであった。


「やあ、待たせたね」


 そんなことを考えているうちにジルが到着した。ダルク達を見つけると片手をあげて寄ってきた。その後ろにはアキとエレナもいる。


「いや、こっちが早すぎたんだ。気にしないでくれ。主にパトラのせいだ」


「早起きはいいことアルヨー……」


「朝1の刻に起こされたこっちの身にもなりやがれ。起こされたと思ったら外はまだ真っ暗だったじゃねえか」


「アハハ……、苦労してるね」


「洒落になんねえんだがな」


 他人事のように笑うジルを恨みがましく見るダルクだったが、実際他人事なので適当にごまかしておく。同じ時間に起こされているはずのミーアが余裕を醸し出している以上、情けないことは言ってられない。ちなみにミーアは、どんなタイミングで起こされようと1分ほどで完全に覚醒できると言っていた。どこの軍人だとダルクが言いたくなったのも無理はないかもしれない。


「ともかく、これから俺たちの拠点にしている街に行くよ。まあ、乗り合い馬車になるのは勘弁しておくれ」


「節約だと思えば問題ない。で、俺たちはこれからなんて街に行くことになるんだ?」


「おっと、そういえばまだ言ってなかったね」


 そうおどけるように言ったジルは、懐から地図を出し、広げる。それをダルクに見せながら、ある一点を指さした。


「ここだよ。ランス国でも1、2を争うような大型ギルドがある街、メロリヨン。別名、冒険者都市だ」


「まじかよ、そんな有名なところに駆け出し放り込むつもりか」


「結構大きなところに行くのね、悪くないわ」


「有名な都市ですね、医療用具の新調ができるかもしれません」


 ジルに告げられた街はダルクどころかミーアやパトラでも知っている場所であった。それに対し、ダルクはため息で、パトラは上機嫌で、ミーアは相変わらずの表情で、でも心なしか弾んだ声で答えた。

 冒険者都市、メロリヨン。ランス国の中で最も大きな面積を持つ街で、実入りのいい狩場が近くに多いことで有名だ。少し郊外に出るだけでも魔物のあふれるような場所もある上に、危険な古代遺跡や竜が住むような領域にも手が届く立地である。まさしく冒険者にはうってつけともいえる場所なのだ。そのため、メロリヨンは魔物の脅威にさらされやすい条件にも関わらず、相当発達した街であった。ここからは馬車で4日ほどの場所にある。


「女性陣は楽しみみたいだね。ダルク、そんなに心配することはないと思うよ」


「駆け出しが行っていい街なのかは甚だ疑問だ」


「……ダルク、俺から言わせれば君はもうすでに星2桁を持っていてもおかしくない実力を持っている。そこの2人だってそうさ。俺が心折られたルー・ガルーを討伐したんだ。そんな実力者がメロリヨンに行かないのはもったいないよ」


「駆け出しに対する冷やかしとかのほうが心配なんだがね……」


「……それについてはできる限りフォローする」


「そうしてくれると助かる」


 ダルクはそこまで言って、馬車のほうを向いた。その姿を見たジルも、少し息を吐いて、それ以上を続けなかった。


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