第15話「夢と才能の狭間で」
――赤騎士ヴェルサイユと激戦を繰り広げる、白騎士アーサー。
司令室の全面モニターに映し出されているその勇姿……戦い振りを、STWの面々は思い思いの表情で見詰めていた。
「……ったく、冷や冷やさせやがって!」
晋太郎は悪態をつきながらも、口元には笑みを浮かべている。
「ランスロットの帰投を確認……あとは、先生に任せましょう」
安堵の表情で肯く啓介。戦いは一進一退、決して楽観はできない状況だったが、先程まで司令室を覆い尽くしていた絶望感は、跡形もなかった。――だが。
凛音はコートに手を伸ばし、携帯電話を取りだした。時刻は二十時過ぎ、着信はない。凛音はぎりっと歯を食いしばった。顔を上げ、アーサーを睨み付ける。
「凛音?」
凛音を抱きかかえている舞がそれに気づき、眉根を寄せる。
「どうしてっ!」
凛音は叫んだ。あらん限りの声を振り絞って。司令室中の視線が集まる。
「どうして来たんですかっ!」
凛音はふらふらと立ち上がり、全面モニターを指さした。
「貴方のやるべきこと……やりたいことは、違うでしょう? ……約束したじゃないですか! そのために、どれだけ皆が……私が、頑張ったと思ってるんですかっ! それなのに、それなのにっ!」
「凛音……」
舞が凛音の背後に近寄り、肩に手を置いたが、凛音はそれを振り払った。その瞳には、涙が溢れている。凛音はコートの袖で乱暴に涙を拭うと、再びアーサーを睨み、手を振り上げ、地団駄を踏んだ。
「どうしてっ! どうしてよっ? どうしてぇ……」
凛音はその場に崩れ落ち、両手で顔を覆った。凛音の泣き声が響く。その場にいる誰も……何も口にすることはなく、ただ凛音の姿を見つめるばかりで、司令室の扉が開いても、注意を向ける者は誰もいなかった。
「泣くな、凛音」
はっとして、凛音は振り返る。扉の前に、姫子が立っていた。
「姫子……?」
「あの子に連れられてな。文字通り、飛んできたのだ」
姫子が視線を向けた先には、リブラが控えている。
「姫子が、先生を……?」
「そうだと言ったら、君は私を非難するか? 先生を
凛音は唇を噛み、姫子を見詰め返す。
「私が言った。凛音が危ないって」
リブラが口を開く。晋太郎は「喋れたのか……」と漏らし、啓介も肯いた。
「それじゃ……」
「自惚れるな」
姫子は凛音にぴしゃり。だが、すぐに表情を緩めた。
「……と、言いたいところだが、あんな顔を見せられたらそうも言えんな」
「私のせい……」
姫子は凛音に首を振って見せる。
「何かのせいとか言うのはよそう。決めたのは彼だ」
凛音は俯いていたが、はっとして顔を上げた。
「姫子が手伝って……もしかして、間に合ったの?」
「いくら助言をしたところで、書き上げるのは本人だ」
「じゃあ、やっぱり――」
「早合点するな」
姫子はそう言うと、全面モニターを指さした。
「あの大きな画面に、彼の様子を映し出すことはできるか?」
「……できるわよ。ちょっと待ってね」
舞はそう応じると、操作卓に手を伸ばした。
全面モニターの別画面に、アーサーのコックピット内が映し出される。それを目にしたSTWの面々は、一様に目を丸くした。
「……何やってんだ、あいつ?」と、晋太郎。
「いやはや……」と、啓介。
「なるほど、ね」と、舞。
「ふぁー……」と、ミコ。
シートに収まる、ジャージ姿の歩。その膝の上には……ノートパソコンが載っていた。猫背で画面を睨んだかと思えば、あっちを見たり、こっちを見たりと、落ち着きがない。モニター部分の陰に隠れ、その手元こそ見えないが、キーボードを叩いていることは間違いなかった。
「先生……」
呆然と画面を見詰めている凛音に向かって、姫子は口を開く。
「手遅れにならないよう、執筆しながら戦う……それが、彼の決断だ」
「……そんなこと、できるの?」
凛音の疑問に、ミコが首を左右に傾げながら答える。
「リッターは搭乗者の思考で動かせるから、手は空いてるんだけど……小説を書くのって、頭も使うよね? それを同時に……う~ん、前例がないなぁ」
「まぁでも、上手くやってるんじゃねぇか?」
晋太郎はアーサーの戦い振りを見ながら、一言。啓介もそれに同意する。
「ですね。ただ……あの状態で、執筆が進んでいるかは疑問ですけど」
「確かなことは一つね」
舞の言葉に、一同の注目が集まる。
「……彼は諦めてないってこと。夢も、世界も、両方ね」
凛音は全面モニターを振り返った。そこに映し出されている歩に、笑顔で肯く。
「ところで、一つ気になっているんだけど……」
舞は扉の前に立っている姫子に顔を向け、小首を傾げた。
「お嬢さんは、どなたなの?」
姫子と凛音は顔を見合わせ、くすりと笑う。
……これは、無茶だったかな。
歩は額の汗を拭い、ノートパソコンの画面を睨んだ。リブラに凛音の危機を告げられた瞬間、雷光のように思いついたアイディア……その時は最高の思いつきだと思ったのに、現実はこうも違うものかと、歩は辟易する。
……小説も同じだ。思いついた時には完璧なストーリー、キャラクター、設定でも、いざ書き始めて見ると……これは今後の課題だなと、苦笑する歩。
正直、ちょっとした皮算用もあった。すぐに敵を倒し、残った時間で書き上げれば、凛音ちゃんも許してくれるだろう……だが、相手が悪かった。
歩は横目でコックピットのモニターを確認。そこには、敵のパイロット……エクセリアの顔が映し出されていた。……まさか、あの子が乗っているなんて。
ランスロットを救出後、送られてきた映像。「先生! 勝負じゃ!」……驚きと共に始まった戦闘は、やりにくいと思う間もないほど激しいもので、手加減する余裕などなかった。当然、戦いは長期化……どんな相手でも一分以内に倒してきた歩にとって、戦闘が長引くことによる疲労は初めての経験だった。
……こうなると、やっぱりコックピットに持ち込んだのは正解だったかもしれないなと、歩はノートパソコンの画面に目を向ける。
追い風もあった。コックピットでの執筆において、敵の姿を確認しながらノートパソコンの画面をどう見るかは問題だった。最悪、画面を見ないで書こうと思っていた歩だが、漢字変換が滅茶苦茶で、使い物にならないことは容易に想像できた……が、いざ戦闘が始まってしばらくすると、不思議と頭の中で敵の姿を捉えることができるようになっていた。それに気付いた歩は、顔をノートパソコンの画面に固定し、執筆の体勢を整えることができたのである。
また、どんなにアーサーが激しく動いても、コックピットには揺れが感じられなかった。攻撃を受けたらそうもいかないだろうけど……どのみち、その時は終わりだろうと、歩は思う。小説も、命も、世界も。
そして……体調は最悪。激しい頭痛。全身からは汗が滝のように流れだし、下着やジャージを冷たく濡らす。これほど酷い状況での執筆は、十年以上の執筆生活で初めてのことだけれど……やるしかないよな。――歩は、覚悟を決めた。
……まさか、これほどとは。
予想を超えて長引く交戦時間に、エクセリアは焦りを感じていた。
これまでの度重なる戦闘で、頭抜けた力を見せつけてきた白騎士。あの先生が操る白騎士を倒してこそ、世界征服は成る……エクセリアはそう確信していた。
青騎士も思ったより楽しめたが、所詮は前菜である。メインディッシュをどう平らげるか……エクセリアの興味は、その一点にのみ向けられていた。
――だが、一分、二分、三分と時間が経過し、エクセリアは違和感を覚える。最初は剣を交える楽しさ……それだけだったのだが、名残惜しいがそろそろ……と、決めにかかった会心の一撃がかわされたことで、エクセリアは大きな疑問を抱くようになった。……おかしい、なぜ倒せぬのだ、と。
メイソンが用意したシミュレーションでは連戦連戦、負けなしだった。倒せないなど考えたこともない。爺の太鼓判は嘘だったのか? いや、あの爺が私に嘘をつくことなど……となると、白騎士……先生の強さが、爺の予想を上回ったのだ。
……そうか、先生は強いのか。それは、不思議な感覚だった。エクセリアにとって、強さとは1か0しかないものだった。父上に姉上……絶対に勝てない相手に挑むのは愚かなことであり、それは戦いではない。絶対に勝てる相手に挑むのもまた愚かなことであり、それもまた、戦いではなかった。
世界征服……それも結局は同じだろうと、エクセリアは思っていた。戦いを演じ、相手に花を持たせるという美学は、それはそれで楽しんだエクセリアである。
ソルダに為す術もなく滅んだ世界も、一つや二つではない。それがシュヴァリエにまで対抗できるのだから、この世界は希有だと言えた。さすが、世界征服発祥の地である。資料ではなぜか最後の戦いでまで相手に花を持たせ、世界征服を成し遂げられない者が続出していたが……エクセリアはそんなことをするつもりはなかった。勝つのは私……これでは、姉上に愚かと言われても、仕方がない。
……それなのに。倒せるはずなのに、倒せない。届きそうなのに、届かない。このもどかしさ、苛立ち、高揚感……それら全てが、エクセリアの体を熱くしていた。
これが……これこそが、夢を追うということなのだろうか?
夢は簡単に叶うものではない。だからこそ素晴らしい……やはり、母上は正しかったのだと、エクセリアは肯いた。……面白い、ならばこそ!
それにしても……先生の膝にある装置は何じゃろうか? 確か先生の家に……まぁよい、最後に先生を倒し、夢を叶えるのはこのエクセリアじゃ!
――一時間、二時間。
無人機同士の戦いはとうに終わり……戦闘宙域で確かな意思をもって動いているものは、白騎士アーサーと赤騎士ヴェルサイユだけだった。
その戦いはいつ果てるともなく、最長記録を更新し続けている。
司令室の全面モニターで展開される戦いの一挙手一投足を、その場にいる全員が固唾を飲んで見守っている。その中には、帰投した和馬の姿もあった。
「これが、才能……」
和馬の呟きに、隣の凛音が顔を向ける。
「才能?」
「……いや、本当に凄いなって。僕、凛音ちゃんの力を借りれば、亀山さんにも負けないと思っていたのに……甘かったです。こんな長時間、とても戦えませんから」
「和馬君……」
「努力じゃ超えられない壁ってのが、あるのかもしれねぇな」
アーサーをじっと見詰めながら、晋太郎が口を挟む。
「そうかしら?」
舞の言葉に、晋太郎は振り返った。
「認めたくはねぇけどよ。あんだけ圧倒的なのを見せられると……なぁ?」
同意を求められ、啓介は口を開く。
「才能が絶対とは言わないけれど……やはり、不公平はあるかもしれないね」
「そうかしら?」
そう繰り返す舞は、注目が集まっているのに気づいて、人差し指を立てた。
「誰もが等しく持っている、最高の才能が一つ……それは、自分を信じること」
「自分を……信じる?」
思わず声を上げた凛音に、舞は肯いて見せた。
「誰しも持って生まれた以上のものは持てない。性別、家族、国、能力、才能……それなら、自分に与えられた唯一無二の力……自分を信じて、とことん磨き、利用するしかないわ」
舞は全面モニターに映し出された歩の姿を、じっと見詰めた。
「自分を信じるためには、自分を知らないといけない……それって、辛いことよ? 自分を知ることは、現実を知ることでもあるから。でも、そこがスタートライン。亀山君はそこから一歩を踏み出したのよ。夢を叶えるためにね」
「……そっか。ああ、そうだよな! こんな馬鹿げたこと、先生じゃねぇとできねぇもんな!」
晋太郎は全面モニターに顔を向けると、両手を口の前に構えた。
「おーい! 先生! 締め切りまで一時間もねぇんだぞ! 執筆はちゃんと進んでるんだろうなー?」
「聞こえてる……のかな?」
啓介は今にも崩れ落ちそうな歩の姿を見て、顔をしかめる。
「……聞こえてねぇならよ、聞こえるまでやるだけだ! そうだろ?」
晋太郎の言葉に、啓介は肯いた。全面モニターに向かって声を上げる。
「先生! 頑張ってください! もう少しですよ!」
舞は司令室を見渡すと、拳を振り上げた。
「さぁ、ここが正念場よ! STWの声を! 力を! 亀山君に! いけー!」
「亀山さん! 大丈夫! 貴方なら勝てます!」
和馬も叫ぶ。
「カメちゃーん! ファイトー!」
ミコも叫ぶ。
「がんばって」
リブラも。
「負けるな」
姫子も。
――司令室中に、声援が響き渡る。凛音は目を閉じ、その声に耳を澄ませていた。やがて大きく息を吸い込み、地中を貫き、空を越え、宇宙まで届けと、ありったけの想いを込めて、叫ぶ。
「せんせーいっ! 約束破ったら、特製ドリンク千本ですからねーっ!」
「……なんだ、特製ドリンクって?」
晋太郎が首を傾げると、ミコが胸を張って答えた。
「私の自信作だよ! あれやこれやで、とにかくすっごいんだからっ!」
……千本はやばいなぁ。
しかし、それ以上にやばいのは今の自分だと、歩は思う。それこそ、特製ドリンクを一万本は飲みたいと思うぐらい……それほどまでに、酷い状態だった。
エピローグ。あと数行で、書き上げることができる。完成する。書くべきことも決まっている……だが、手が動かない。アーサーを動かしているという感覚も、失われつつあった。自分は何をしているのか、何のために、ここにいるのか。
目の前にはノートパソコン。やるべきことは一つ。ここが家だとか、宇宙だとか、戦闘中だとか、そんなことは関係なかった。手はキーボードの上にある。やるべきことは、一つ。書き上げるのだ。そして、凛音……読んで……。
……あと少し。もう少しなのに。
ヴェルサイユのコックピットで、エクセリアは手を伸ばしていた。
――だが、届かない。何度手を伸ばしても、何度手を握り締めても、掴むことができない。勝利も、夢も。何も……ない。掴めるのは、宙ばかりだ。
ヴェルサイユは剣を振るった。何度も、何度も、何度も、何度も。何度も。
……これでも駄目なのか? これほど欲しても、叶わないというのか? やれるだけのことはやった。それなのに! もう届いてもいいはずなのに! 掴めても、いいはずなのに! ……もう限界だ、これ以上、何をすればいいというのだ?
――夢はそう簡単に叶うものじゃないのよ?
――たん。
最後の一行を書き終え、歩はエンターキーを押した。
――一瞬。ほんの一瞬だけ、ヴェルサイユの動きが止まっていた。
その一瞬の隙を、歩は見逃さなかった。エクスカリバーが一閃し、ヴェルサイユの右腕を根元から切り落とす。
――やられた、と思った瞬間、右腕は離れていた。頭上に振り上げられた剣の輝きを、エクセリアは深紅の瞳で見詰める。脳裏に浮かぶのは、記憶の断片。
「ごめんね」
……どうして謝るのじゃ?
「私のせいで」
……寿命ってなんじゃ?
「いつか死ぬということ」
……母上と一緒じゃ。
「花の命は短いわ」
……命。
「なんでもいい。夢を追いなさい」
……夢とはなんじゃ?
「生きるということよ」
……生きる。
「だから、生きて」
……うん。
エクセリアは目を閉じる。
振り下ろされた剣は、ヴェルサイユに届く寸前……止まった。
――司令室はしんと静まりかえっていた。全面モニターを凝視する一同。
右腕と剣を失ったヴェルサイユの頭上には、エクスカリバー。それを手にしたアーサーは、微動だにしない。まるで、時が止まってしまったかのように。
「……勝った、よな?」
晋太郎の言葉に、啓介が肯く。
「ええ。ですが、これは……」
全面モニターにエクセリアの顔が映し出される。憔悴し、最初に見せた余裕や自信は微塵もなかったが、それでもなお、その美しさは揺るぎなかった。
「私の負けじゃ。煮るなり焼くなり――」
「あーっ!」
突然の大声。それは、歩の発したものだった。
「しょ、小説を応募しようとしたら、サイトにアクセスできないって……」
歩は髪の毛を掻きむしる。我に返った晋太郎が、呆れたように口を開いた。
「……そりゃ、宇宙まで家の無線が届くわけねぇだろ?」
「あっ……!」
目を丸くする歩を見て、啓介は苦笑する。
「安心してださい。帰ってくれば、いくらでもネットは使えますよ?」
「あー、良かった……」
脱力する歩を見て、凛音は噴き出した。……先生、お疲れ様です。
「私を無視するなっ!」
エクセリアが声を上げ、歩はびくっと姿勢を正した。
「ご、ごめん」
「……時に先生、その機械は何じゃ?」
エクセリアが画面越しに指さす。歩はノートパソコンを持ち上げて見せた。
「これ? ああ、小説を書いてたから」
「……何じゃと?」
「君が強くて大変だったけど……何とか、ね」
「……小説を書きながら、私と戦っていたというのか?」
「今日が締め切りだから」
エクセリアの指先がぷるぷると震えた。……いや、全身が震えている。
「わ、私は……全力で戦ったのに……そんな、あんまりじゃ~! うわ~ん!」
号泣するエクセリアを前に、おろおろする歩。
「……まぁ、無理もねぇよな」
晋太郎は腕を組み、肯いた。啓介も困ったように肯く。
「……彼女、ずっと頑張ってたからね」
居たたまれない雰囲気。凛音は泣きじゃくるエクセリアを、じっと見守っていた。異星人だとか、人間だとかは関係ない……ただ、夢に破れた者の姿を。
「ひっく……ひっく……どうせ、私は欠陥品じゃ……」
「欠陥品?」と、凛音。
「お嬢様、それ以上は……」
全面モニターにメイソンが現れる。
「……よい。爺、説明は任せる! 私は泣く!」
「……御意のままに」
エクセリアの姿が画面から消える。メイソンは口を開いた。
「お嬢様はご家庭の事情のため、寿命がたった二百年しかございません」
「たったって……十分じゃねぇか」
驚嘆の声を上げる晋太郎。メイソンは首を振った。
「星渡る民である我々にとっては、二百年など瞬く間でしかありません。お嬢様は我々の世界では何も為すことができません。それならせめて、別世界で何かを為して欲しい……それが、お嬢様のお父上……ご主人様の意向でございます」
「それが、世界征服ってわけね?」
舞の言葉に、メイソンは肯いた。全面モニターに再びエクセリアが現れる。
「じゃが、それは叶わなかった。私が愚かじゃった。こんなにも悔しく、惨めな思いをするなら、夢なんて……私は……私は……何のために……」
すすり上げるエクセリア。歩はエクセリアをじっと見詰め、口を開いた。
「……それでいいのか?」
「いいわけないじゃろうっ!」
「なら、諦めるな」
エクセリアは目を丸くした。一同の視線が、全面モニターの歩に集まる。
「何を……」
「夢はそう簡単に叶うものじゃない。死力を尽くしたからといって、必ず叶うというものではないんだ。でも、だからこそ、一生をかける価値がある……と、思う」
「母上……」
「へ?」
「じゃが、もう終わりじゃ。私はもう……」
「そうかな?」
歩の言葉に、はっとして晋太郎が声を上げる。
「……おい、まさか、見逃すつもりか?」
歩は首を振り、すっと視線を上げた。
「でも、最後まで何が起こるか――」
「分かりませんからな」
メイソンの言葉と同時に、夜色のシュヴァリエがアーサーに斬りかかる。
アーサーはエクスカリバーでそれを受け止めたが、衝撃で後方に飛ばされる。新手のシュヴァリエは身を翻し、ヴェルサイユを抱き留め、飛び去っていく。
アーサーはそれを見送り、剣を鞘に収めた。
「爺……」
「まだ終わりではございません」
「夢は……一筋縄ではいかんようじゃな」
「……お嬢様。次は私にも出撃のご命令を」
「何じゃと?」
「どうやら私も、世界征服をしたくなったようです」
「……よし、ならば次こそ夢を叶えようぞ! 私と爺、二人でな!
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