第35話初めての感情

 ダンジョンへ入って3週間がたっていた。無茶苦茶な戦闘行為により疲弊した体はオレの意思とは関係なく動くことをやめてしまう。


「あんたの気持ちは理解できるけどやり過ぎだよ」


「まだ、まだ足りない。もっと、もっとだ」


 フローラは心配そうに膝をついたオレに近寄り背中を撫でてくれる、だが具合が悪いわけではなくただ単に疲労が蓄積しただけだからあまり効果がない。

 疲労が消える訳では無いはずなのだが、少しだけ体が軽くなったような気がする。


「もう、やめな。無茶だよ

 休まないと体が持たないよ。ここで無茶して体を壊したって今までの苦労が水の泡じゃねぇーか」


「あぁ~かもな。だけどオレにはやらないといけない理由があるんだ」


 フローラの静止を無視しオレは悲鳴をあげている筋肉を無理矢理黙らせて立ち上がる。

 無理に動くことにより目眩がしてフラフラしている体をフローラは支えてくれる。


「危ない!! 全く、しょうがねぇーな眠れる魂スリーピング・ソウル」


「やめろ! オレはま…だ………」


 オレの意思とは関係なくフローラの魔法によってオレは眠りに誘われオレの意識はここで途切れた、疲弊していないオレだったならば抵抗することができるのだが、先ほどまでの激しい戦闘により疲弊しきった体では抵抗する余力すら残っていなかった。


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「おやすみ。お前にここまで思って貰えるミラって奴が羨ましいよ。私もお前にそこまで思って貰えるようになりたいよ」


 フローラはそっとリクトの頭を自分の膝に乗せ出来るだけ優しくリクトの頭を撫でるのであった。

 フローラ自身も最初は自分の気持ちが分からずモヤモヤすることがあったが、強い魔物に襲われて死にそうになった時に自分の体を犠牲にしてまで助けてくれたリクトに惚れていることを自覚するのにそう時間はかからなかった。

 自分でもなれない感情に戸惑っていることが、分かっているが己の感情に素直になれない自分の性格が憎たらしくてしょうがない。

 今この気持ちを素直にうち明けられたら今の関係が壊れてしまうのではないだろうか? そんな不安もあり言い出せない自分の臆病なところも見えてきた、そんな自分にため息が出てしまうフローラであった。



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「こ、ここは?」


「お! おはよう。しっかり休まったみたいだね。それよりオレのレベルは上がったかい?」


 眠りから覚めたばかりの目はフローラの姿をとらえる、長く伸びた髪の毛は妖艶な美しさに包まれ体付きはしっかりと女のものになっており視線のやり場に困る。


「ん? ないだ、それより私のレベルは上がったのか?」


「ちょっと待ってくれ。今見るから」


 そういえばずっと確かめていなかったがオレもフローラもかなり強くなっていた、確かめるいい機会だろう。

 さすがにジロジロ見ることは出来ないが逆に見ないというのも不振がられるだろうとは思ってはいるが、どうも直視することが出来なかった。

 オレは平静になり落ち着きながらフローラにステイタス閲覧と能力閲覧の能力をつかう。



 名 フローラ・クロウリィー

 称号  忌み子

 レベル 36→72


 HP 572→1634(+300)

 MP 814→2631(+300)


 ATK 121→593(+300)

 DEF 183→637(+300)

 INT 409→1092(+300)

 RES 243→831(+300)

 HIT 163→610(+300)

 SPD 104→562(+300)



 《個体名:フローラ・クロウリィー

 種族:幻魔 忌み子 (幼体)

 種族能力:幻覚魔法強化 近接戦闘脆弱

 使用可能魔法:幻覚魔法 幻惑魔法 雷魔法 闇魔法 状態異常魔法

 個体能力:力望者(戦闘時においてステータスに大幅な補正がかかる、またレベルが上がりやすくなる)》




 ここまで短時間で成長したのはフローラの才能もあるだろうが種族特有の幻覚をかけているとレベルが上がるというのが影響しているのだろう。

 1度掛けられたまま解除していないオレへの幻覚魔法もありフローラのレベルが上がるのを手助けしているのだろう。

 それに個体能力の力も影響しているのも間違いない。


「お前のステイタスは………………だよ」


 オレは口頭でフローラのステイタスを説明していくが、一瞬信じられないといった表情を作るフローラは途中から作る表情は喜びに包まれていた。


「こんなに強くなるなんてな……信じらんねぇー」


「良かったな。これでお前は村に戻れるな。その力で皆を見返してこい」



 出来れば一緒にいたいと思ったリクトであったがフローラのことも考えるとオレの我が儘でフローラを拘束してしまうのはおかしな話しだ。

 ここは笑顔で送り出してやろう、せめて後腐れないように。


 だがフローラにとって村の皆など既にどうでもよかった、それより大切な存在に出会ったのが最大の理由であろう。

 だが今フローラはリクトの優しさによって突き放されそうになっている。

 そんな事実にフローラの目からは自然と涙が流れ落ちていた。


「やっとだもんな。お前の念願を叶えてこい」


 どうやらリクトはフローラの気持ちを勘違いしているようだ。

 さらに追い討ちをかけるように放たれる言葉にフローラの心は壊れてしまいそうになる。

 フローラもリクトの優しい言葉だとは理解しているが「お前は必要じゃない、さっさと消えろ」と遠回しに言われている気がしてしまう。


「そ、そんなに…私は必要ないか? お前にとって邪魔な存在か?」


 最初リクトは困惑したような表情のまま固まっていたがフローラの表情を見たことによりリクトは自分の言っていたことに気が付く。


「えっ…いや、そんな訳ないだろ! 出来れば一緒にいたい。お前がいてくれるからオレは死なずに済んでいる

 お前がいなくなればオレは死んでしまうだろう

 だけど本当にいいのか? フローラはまだ村に戻ってやり直すことが出来るだろう

 なぜあったばかりのオレのためにそこまで?」


 そうだ、フローラがいることによってオレの精神はなんとか安定出来ているがいなくなってしまうと今にも狂ってしまう可能性すらある。


「それは………」


 フローラはそれを言葉にしてしまうとリクトは目の前から消えてしまう気がした。

 ただの2文字の言葉を伝えることが出来ない自分の臆病な性格が忌々しい。

 フローラもはじめての感情でどうすればいいの分かっていなかったが面と向かって聞かれてしまうとどう言い逃れすればいいのだろうか?普通だとあり得ないだろう。

 ましてや元の自分からは想像も出来ない程のことを言ったりしている。


「………情が移ったから。お前は側にいねぇーとすぐに死ぬからな、私が側に居てやんよ」


 フローラは結局、素直になることは出来ずに出てしまった涙を乱暴に拭う。

 そして出来うる最高の笑顔で言う。


「そっか」


 フローラの笑顔にドキっとさせられ思わず淡白な返事になってしまった。

 だがフローラは満足そうにクスッと笑うと立ち上がり後ろを向く。


「さぁ~今日もどんどん魔物を倒そう。私はお前の隣で誇らしく立てるくらいに強くなりたいんだ」


 誇らしくもなにももう既にお前はオレの隣で誇らしく立てるくらいに強くなってる癖に。

 まぁ~いいや。取り敢えず自分のステイタスも確かめて見るか、オレは自分に向けてステイタス閲覧、能力閲覧の能力をつかう。



 名前 ミヤマ リクト


 称号 魔眼保持者、牛殺し、早熟せし者


 レベル 56→87


 HP  1816→3195

 MP  2219→4732


 ATK 1392→2861

 DEF 1426→2951

 INT 1272→2791

 RES 1389→2857

 HIT 1293→2763

 SPD 1637→3219


 《個体名:三山 利久人

 種族:異端の半吸血鬼アウトサイド・ハーフヴァンパイア

 種族能力:恐怖支配 B 殺気凶悪化 A

 身体能力増加 S 憎悪倍加 S


 個体能力:斬撃耐性 A 打撃耐性 S

 短刀術 SS 切断耐性 B 剣術 C


 解放能力:魔法多重起動、魔力操作


 魔物能力 ドレインタッチ 水流操作 剛力 聴覚鋭敏 糸操作

 糸強化 毒付与 毒生成 糸生成 麻痺毒付与

 自動MP回復 悪魔召還


 マジックアイテム能力 ステイタス閲覧 能力閲覧 火炎創造 致命傷の盾 MP小増加


 行使可能魔法

 初級 火炎魔法(ファイヤーボール、火種生成など)

 中級 火炎魔法(フレイムボール、フレイムサークル、フレイムランス)

 初級 大地魔法(アースアロー、アースランス、アースソード、アースウォール、アースバインド)

 中級 回復魔法(傷の治療、毒の治療)


 所持魔眼:ハイリーディングアイ

 効果、視認した物質の名称、事柄を読み取る、魔法の本質を見抜き、解読、理解

 動きを読み取り

 思考を読み取り


 上位能力:理解者

 理解した物体、魔物の特徴やスキルをコピーすることができる(一つの物体からは一つだけ、魔物のスキルも同様で一つだけ) 


 獲得能力

 特定転移(特定の場所へと転移することができる)

 天眼(頭上に視点が増える)

 再生(傷の治りが異常に速くなる)

 硬化(皮膚が硬くなり防御力が増す)

 吸収(ありとあらゆる物を吸収できる)

 奮戦(一時的にステイタスに大きな補正がかかる)》



 一気に31もレベルが上がっているが未だにハースグロードに勝てるイメージが全くわかない。

 ということはまだまだ強くならなければいけないというのは明白だろう。


「なにやってんだ? 置いてくよ」


 オレはフローラに促されるままダンジョン奥地へと足を進めるのであった。

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