第31話思わぬ敵

 後ろにはミラから見てもかなり多い魔力を吹き荒れさせる元配下である、ハースグロードが怒りに満ちた顔をこちらへと向けている。

 先ほどはリクトを逃がすことを許してくれたが、早く転移させろとちょこちょこ催促してくる。


「すまんな。ありがとう、何かあればディム・クローウェンという男を探せ。力になってくれるだろう」


 自分でも形容しがたい気持ちになってしまう、もしかしたら もう、会えなくなってしまうかも知れない。

 そんな不安に刈られてしまうほど、今の私は弱体化している………昔のハースグロードのままならば今の私でも勝てただろうがハースグロードは間違いなく強くなっているだろう。

 そんなことを思いつつも私はリクトの肩に手を置き、覚悟を決め笑顔で見送る、もちろん死ぬつもりなど皆無だ。


 上位転移グレート・テレポート 発動!!


 今までいた、すぐにでも泣き出しそうな情けない顔をしていたリクトは視界からいなくなる。

 飛ばした先はディムの奴がいると思われるガダースダンジョン近く、奴は昔からダンジョンには目がなかったはず。

 それに奴なら大抵の奴からリクトを守ってくれる………はずだ、多少性格に難があるがそこは大丈夫だろう。


 さぁ~こっちはこっちの心配をしなくてはな………。


「おい! そこの小娘はどうすんだ?」


 ハースグロードはもはや待ちきれないといった感じでアイリスのことを睨む。

 アイリスは向けられた殺気と圧倒的な魔力に気を失ってしまう。


「転移魔法を使ってもいいのかなぁ~?」


 私にはハースグロードがどう考えているかなんて容易に想像できた………だからわざと“おどけた風“に言う。

 一瞬だけ激怒し殺気と共に魔力が吹き荒れる………だがハースグロードは何かに気付いたように魔力の放出を緩める。


「そうやって魔力を無駄に消費させようって魂胆か? 呆れてものも言えないとはこれか………もういいや。殺そう」


 ハースグロードはそう言うとゆっくりと右手を前へと出し魔力を右手へと集めていく、込められていく魔力量は凄まじい人間が触れてしまうと骨すら残らず消し去るほど量の魔力を右手の前に球体状に固めていく。

 昔のハースグロードはシンプルに大量の魔力を固め撃ちだすしか出来なかった、なぜならハースグロード自身の個体能力 魔法解除マジックキャンセラーの能力が魔法構築を邪魔してしまうからだ。

 そのため、己の種族魔法である石化魔法しか使うことができない。

 だが、奴は魔力弾だけでもかなりの戦闘能力がある、無尽蔵の魔力に高速で連射してくる魔力弾の硬度は30センチの鉄すら貫通させる固さを持っている。


 やはりハースグロードのやつ、まだ魔法は石化魔法しか使えないようだな。


「先ほどから殺す殺すと息巻いているが、いくら弱体化したからってお前より強いぞ」


 凄まじい魔力と言っても、“今“の私の1.5倍ほどの差しかない。

 正直、これくらいの差ならばやりようはいくらでもある、昔よりは格段に強くなっていると思われるが“魔将級“ぐらいの相手ならば勝てそうだ。


「昔ならな………だが今のオレは準魔王級だ。

 お前との力の差は歴然だ。あははははは、無様だなぁー」


 ハースグロードは勝ち誇ったように私へ魔力弾を飛ばしてくるのだが、これは牽制だ。

 魔力弾は全力のリクトよりも早く飛んでくる、だが魔力弾は私の右の顔すれすれを通りすぎていく。

 私は疑問を感じていた………。

 

「分かったか、これが差だ、反応すら出来てなかっただろ?

 もう、オレのコレクション石になれよ」


「この程度の力で準魔王級だと? 単純な魔法しか使えないお前が………堕ちたものだ。

 私の全盛期ならば30000回は殺せたぞ………それが過去の私と同じ階級なの…か。」


 昔は単純に戦闘力で階級がつけられていた、魔力が全く無い魔物が身体能力だけで魔王級になった話があったくらいだ。

 逆を言えば今は魔力の量で階級をつけているのだろう、この程度の戦闘力で準魔王になどなれなかった、いっても魔将級だろう。


「ちょ、調子にのるなぁああ~!!」


 ハースグロードは狂ったかのように魔力弾を乱射する、中には全く検討外れの方向へと飛ばしてしまったものもあった。

 私は迫りくる高速の魔力弾に結界魔法をつかう、この魔法は一度使うと私の魔力を8割ほど使うが今の現状では1番の有効手段だ。


「階級や魔力だけで強くなったつもりでいるな。経験の無い力など無いに等しいということを知れ 血に塗られた障壁ブラッディー・ウォール」


 この魔法は固有魔法である、吸血鬼という種族しか扱うことのできない切り札的、魔法だ。

 魔王級までの魔法、物理、スキルなどの攻撃手段の一切を無効にする、だがこの魔法の最大の欠点と言えば扱える程の魔力を持ち合わせている吸血鬼がそもそも規格外に魔力がある者でなければならないところだろう。

 また、この魔法は一定の時間がたたなければ消えることはない“絶対に“。

 この魔法を扱える吸血鬼と言えば過去に“真の魔王級“であったブラッド・グレイラスぐらいだった。


「バカめ! そんな魔法消し去ってくれる。魔法解除マジックキャンセル………な!

 なんだ、その魔法は……なぜ消えない。

 ふ………ざけるなぁあーーオレの30年はなんだったんだ、くそ! くそ! くそ!!」


 ハースグロードは私が使った結界魔法に右手を伸ばし魔法解除マジックキャンセルを使おうとする。

 だが消された瞬間からまた新しい結界が出現する、ハースグロードは数回試したうち、怒りに支配されたかのように魔力弾を撃ちまくった。


「経験の無い力など無駄であると悟れ 闇剣ダークネス・ソード」


 私はハースグロードへとそう言うと結界の中からオリジナル魔法を使いハースグロードへと攻撃する。

 ハースグロード中心に6本の闇の剣が出現し、6本同時にハースグロードへと向かっていく。


 ハースグロードは魔力弾を撃つことに気を取られていたため私の魔法に反応するのが一瞬遅れてしまったが体制を崩しながらも6本全ての闇の剣は魔法解除マジックキャンセルによって無効化されてしまう………だが最初の魔法など相手の体制を崩させる為に使ったも同然だった。

 そこへ私は畳み掛けるように次の魔法を放つ。


「甘い!! 闇槍ダークネス・ランス 闇矢ダークネス・アロー」


 3本の漆黒の槍と無数の矢がハースグロードを襲う、大半の魔法は魔法解除マジックキャンセルによって無効化されたが残ってしまった2本の槍と数本の矢がハースグロードの体を穿つ。


「グフゥ! おのれ………許さん。まだ終わってない………ぞ」


 ハースグロードは口から大量の血を吐き出しこちらを睨み付けてくる。

 私も最後とばかりに攻撃魔法を展開させようとした瞬間例えられ無いような程の強大な魔力がハースグロードの後ろに出現した。


 《久しいな。吸血鬼の姫よ、ずいぶんと小さい姿になったから分からんかったぞ。

 それにしても我が配下を殺そうとするのは感心せんな。

 これハースグロードにはまだ使い道があるのだ………そろそろ魔王どもと事を構えるのだ戦力は多い方がいいだろう?》


 見た目は全くと言っていい程、人間と同じなのだか魔力量は間違いなく“準魔王級“を遥かに越えていた。

 全盛期の私でも勝てないような相手の出現に脂汗を流してしまう。

 ダメだ! 絶対に勝てない………逃げるしかない。


 《逃がさないぞ? 何のために我が出てきたと思っておる、戦力が欲しいと言ったであろう? どうだ、我の元へと来ぬか?》


「い………いやだ。私にはリクトがいる、それに殺すのは………もう嫌だ」


 《そうか………では仕方あるまい。完全なる支配コントロール・マインド発動!》


 男から放たれる魔力の波動に血に塗られた障壁ブラッディー・ウォールはあっけなく壊れ精神支配系統の魔法が私にかかる。

 意識がどんどんと暗くなっていく。


 あぁーリクト、すまない。

 戻れそうにない………すまない、すまない、すまない。

 最後の最後で嘘を言ってしまった………生きてくれリクト。


 私の意識は最後までリクトへと向けられていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る