第15話ダンジョンボス

 大蜘蛛との戦闘が終わり次の階層に進むとそこに広がっている光景は異常なものだった。

 植物のような魔物が大きな部屋にひしめき合っていた、ざっと数えるしか出来ないが、30から40体以上の魔物が部屋を埋め尽くしていた。

 四階層にいた魔物達は一気に炎魔法で様子を見たところ、1度のファイアボールで30体以上もいた魔物を一掃した、1体が燃えると伝染するかのように広がっていき瞬く間に消し炭へと変わった。

 そして少しではあるがレベルが上がり、次の階層に行こうという話しになった。


「あの、リクトさん。そろそろ次の階層に行きましょう。もしかしたら次が五階層ですし。ミラさまが迎えに来てくれるかもしれませんよ」


「かもな。だけどミラだし…。」


 少し不安はあったがミラを信じることにした。

 そんなことを考えながら次の階層に下りるリクトとアイリスであった。


 階段を下りるとそこにはマントを爽やかに着こなした貴族風の男が立っていた、だが目の前の貴族風の男は明らかに人間ではなかった。

 額には角があり、肌は毒々しい紫色、纏う魔力は禍々しく様々な物を圧倒していた。

 目の前の貴族風の男から漂ってくるオーラは歴戦の者を彷彿とさせる。


「アイリス………静かに聞け。アイツはヤバイすぎる」


 アイリスは喋ることもなく静かに頷くだけだった、さすがのアイリスも目の前のやつの強さに気づいているようだった。


 オレはそった壁際から魔眼を発動し貴族風の男を見てみる


 《個体名:バルムンク フォード (ダンジョンボス)

 魔物ランク C~A

 注意点、この魔物は非常に強い能力を保有する確率が高い。

 また個体によっては言葉も理解する可能性すらある知識もある。


 獲得可能能力 闇魔法 影魔法 暗黒魔法 死霊魔術 魂体化 風魔法 自動HP回復 自動MP回復 消費MP減少 魔法攻撃力強化 状態異常無効 斬撃耐性 切断耐性 打撃耐性 即死耐性 マジックアイテム作成》


 ステイタス平均値 750~800(制限状態)


 オレはこの情報の量を見てすこし目眩をおこす。

 初めてステイタスが上の魔物がいた、今まではステイタスが下じゃないと安心して戦えなかったが今回はそうとも言ってられないだろう。

 オレは1番有用そうな、自動MP回復という能力をコピーして決死の覚悟で目の前の悪魔に向き合った。


 《おぉー久しぶりの客人ではないか! よくぞ参った》


 何いってんだ? コイツ今から戦おうとしているのにせっかく決めた覚悟が無駄になってしまった。


 《何やってる? 速く殺せよカス。ホントに使えねぇーな》


 後ろの方で喚いているのは通常より一回り小さいゴブリンだった、見るからに弱そうで小さな棒を持ち悪魔に指図していた。


 《久しぶりの客人だが………アヤツがうるさいので始めるとしよう》


 ダンジョンボスのバルムンク・フォードは呪文を発動させようと魔力を溜め始める。

 溜める魔力の量はオレが使っている、ファイアボールの数倍の量を溜めていた。

 そんな、大量の魔力を使われたら体が消し飛ぶんじゃないか? とおもってしまったほどだ。


「ちょっと待ってくれ! なんでお前みたいな強い奴があんなザコの言うことを聞いている?」


 《我だって聞きたくはないがしょうがないのだダンジョンボスはあくまでサブだからな。ここのダンジョンで一番の最重要人物はあのザコゴブリンだ。なんせ創設者だからな》


 ようやく合点がいった。

 まぁーどうせ召喚されたうえ、使役魔法でも使われているのだろう。


 《おい、速く殺せ》


 うるさいなあのゴブリン。


「やるか………。ふぅ~アイリスは援護を頼む」


「逃げましょう………あれはヤバイです」


「ははっ………逃げしてくれないだろう?」


 《まぁ~な、最近は暇を持て余していたから楽しませてくれよ》


「やるしかねぇー」


 オレは身体能力倍加と剛力を使い一時的にステータスを上げる、物理攻撃力だけならバルムンクを越えた、だろうが他のステイタスでは余裕で負けてしまっている。


 《おぉー凄いではないか! 力だけなら我を越えておる。

 ん?………お主、人間では無いな!》


「そうだったんですか? リクトさん」


「あれ? 言ってなかったか。オレは半分ヴァンパイアらしい」


 《なに!!! ヴァンパイアだと悪魔族の上位種ではないか》


 そうだったんだ。

 まぁー半分だけだしあまり実感ないんだよな。


 《何をやっている? 速く殺せグズが》


 出たよあのザコゴブリン、ほんとにウザい全く関係ないのに腹立つぞ。

 バルムンクの方をチラッと見ると怒りで顔がひきつっている。


 《殺してやりたいのは、やまやまなのだが使役されている身、従うしかあるまい》


「大変だな。じゃやるか」


 《そうだな》


 バルムンクは自分の身に魔力を溜め始める、見るからにバルムンクは魔法を主力として戦うみたいだ。

 そんな魔法を発動されてなるものか! 先手必勝! 完全に不意打ちのタイミングやるしかない。

 オレはバルムンクに一瞬で近付きデモンリッパーを最大の力で振るう、デモンリッパーに魔力を込め切れ味を上げる。

 バルムンクは魔力を溜めるのをやめナイフを掴もうとするがバルムンクの指は容易く切断される。

 だが切断された指は地面に落ちる前に自分から動き主の体に戻っていく。

 くそ! せこいぞ。チートかよ!!


 《ほぉー我の体を切断するか。興味深いな。その武器、対悪魔の特殊能力がついておるな》


 ナイフをそのまま突きだし急所の心臓を狙うが、バルムンクはデモンリッパーが掴めないと分かると体を反らせ、軽々と避ける。

 デモンリッパーは空を切りオレの体は力に流される。


 《どれ、先手はやったぞ。反撃だ》


 バルムンクの拳がオレの流れて踏ん張りのきかない肩に当たる、オレの体は容易く飛ばされ壁に激突する、壁はオレを中心にクレーターができる。

 とてつもない衝撃で肺の空気が無理矢理に押し出される、と同時に発動していた身体能力倍加と剛力の能力の効果がなくなってしまう。


「カハッッ。」


「リクトさん! 大丈夫ですかっ!」


 アイリスはオレの方へ駆け寄ってくる。


 《なんだ、もう終わりじゃないだろう?》


 くそ! 打撃耐性があるから骨は折れはしなかったがかなりの衝撃でかなり痛い、ほんとに耐性ってスゲーな。

 壁にクレーターができるほどの衝撃で骨が折れなかった。


「あぁ、大丈夫だ。それにしてもアイツ強いぞ」


「すいません私が援護できなくて」


「大丈夫だ、むしろ後ろに居てくれ。アイリスじゃ危ない」


 仮にオレ以外がバルムンクの攻撃力を一撃でも受けると死ぬのは免れないだろう。

 よくて骨折だ。

 どちらにしてもアイリスに危険を犯してほしくない。


「オレが倒すから後ろで見ててくれ」


 オレは再度、身体能力倍加と剛力を発動させる、殴られてしまった肩は赤く腫れ上がってくる。

 オレのMPは2度の能力の発動とデモンリッパーに注ぐ魔力で4割なくなっている。

 近距離がダメなら遠距離しかない。


「今だ! やれ、アイリス! ふっ………ファイアボール、フレイムボール、フレイムランス」


 さも、作戦があったかのような演技をし、バルムンクの視線と意識をアイリスに集中させる。

 名前を呼ばれた張本人のアイリスは何が起きたのか分からないといった表情でオレの顔を見てくる。

 卑怯と言われようが命の奪い合いだきれい事なんて言ってられない。

 オレは一瞬出来た隙を利用し3つの火炎魔法を同時にバルムンクへ向けて発動する。

 3つのフレイムランスはバルムンクの3方向から飛び出しバルムンクを突き刺そうと、2個の火の玉がバルムンクへ飛来する。

 片方はバスケットボールぐらいの大きさもう片方は2倍ほどでかい火の玉がバルムンクに襲いかかる。

 初めてフレイムボールとフレイムランスを使ったがかなりの威力がありそうだ、消費した魔力がファイアボールの3倍ほどだ。

 今の行動によりMPをたくさん使ってしまい、7割から8割のMPを使ってしまった。

 バルムンクはいきなりの奇襲で戸惑っていたがフレイムランスを両手で凪ぎ払うがファイアボールとフレイムボールがバルムンクに当たる。


 《卑怯だぞ、、、グッッ!!!》


 フレイムボールが当たり余りある火力が爆散し辺りに飛び散った。

 その欠片1つが、ザコゴブリンダンジョンマスターの方向に飛び足元に落ちる。


 《熱っっ! くそ! 何をやっている! ちゃんと守らんか》


 ファイアボールとフレイムボールの直撃によりバルムンクはかなりのダメージがあるはずだ。

 だがザコゴブリンもフレイムボールの巻き沿いでダメージを受けている。

 それにしても守る? もしかしたらあのゴブリンって先に倒した方がいいんじゃないか。


「………アイリス、気付かれないようにゴブリンを倒してくれ

 オレはバルムンクの注意を引き付ける」


「分かりました」


 オレは二人に聞かれないようにアイリスの耳元で小声で話す、

 アイリスは相手の様子を伺いながら即座に行動に移す、壁際をコソコソと動き出した。


 《卑怯じゃないか。それに火炎魔法を同時に3つも発動するなんてどんな集中力をしているんだい? 油断してしまったよ。ハハッ》


 バルムンクは服についた煤を払いながら身だしなみを整え始める。

 おいおい! あの火炎魔法をくらってその程度のダメージかよ。

 どんな魔法防御力だよ、ステイタスの差があるとはいえあんまりだ。

 こっちはMPのほとんどを使ってまで、やった魔法だったのにほぼ無傷………やってらんねぇー。


「こっちは命の奪い合いをしているんだ。卑怯だろうが生きて帰らんと悲しむ奴がいるからな」


 オレはできるだけバルムンクをこちらを意識させる、アイリスに気付かないようにしなければ。


 《それもそうだな、悪魔の癖にどうも考えが甘いのだよ私は》


「1つ聞いていいか?」


 《ん? なんだ? 我に答えられることなら答えよう》


「どうして、魔法を使わない? お前は魔法を主力としてる悪魔だろう?」


 《なんだバレておったか。なぁーに少しだけでも楽しむためだよそれにあのザコゴブリンの言いなりって言うのも癪だしな少しの抵抗だよ》


 バルムンクは腰にてを当てて大きな笑い声をあげている。


「それなら開放される方法とかないのか?」


 《あるにはあるが、かなりめんどくさいぞ。使役魔法の上書き又は使役魔法者の殺害だな。だがどちらも阻止せよと契約させられておる。アイツが勝手に死なない限りないな》


 アイリスは静かに近づいている。あと数歩でゴブリンの後ろに行ける。

 ゴブリンは気付く素振りも見せずバルムンクを睨んでいる。


「そうか、開放されたいと思わないか?」


 《そうだな。仮に開放されるとしたら………まぁ~のんびりと暮らすとしよう。

 こちらには友もいないし、友探しの旅に出るのも一興かもな》


「そうか。ならオレと友達になるか!」


 《友だと? 大変、魅力的だがそれは叶わぬよ。そろそろ決着をつけねばならん》


「………魅力的か! だったら決まりだな! アイリスやれ!!!」


 アイリスはオレの声と同時にザナグールアックスでザコゴブリンを斬りつける。

 アイリスの攻撃はゴブリンの体を容易く両断してしまう、ゴブリンの顔は痛みと戸惑いで顔が歪んでしまう。


 《な、、い、つか、ら、、、そこに》


 《なに!!!》


「よくやった! アイリス」


 ゴブリンは脆弱なステイタスではアイリスの素早い動きに反応出来ず背中に傷がつく

 ゴブリンは最後に1度悪態をつき死んでいった

 途切れ途切れで何を言っているか分からないが悪態なのは確かだろう目に宿る怒りが凄まじかった

 ゴブリンの死と同時にバルムンクの体から半透明な鎖が出現し弾けて消えた

 やっぱりか!オレの考えは正しかったようだ。使役魔法を使っている奴を殺せば開放されるという予想が見事的中した


 《あ、あぁ~やっと!やっとだ!!我の忌まわしき契約が消えたぞ。フハハハ!解けた!!解けたぞぉー》


 バルムンクは開放された

 使役の魔法から、ダンジョンボスの仕事から、忌々しいゴブリンから、力の制限から

 契約が無くなると体から凄まじい量の魔力が溢れだした

 魔力の量が多すぎて目に見えるほどの濃厚な魔力の渦がオレとアイリスに暴風として襲う

 魔力による暴風が収まるとバルムンクの顔は清々しい物になっていた


「良かったな」


 《感謝するぞ、お主が殺らなかったら我はあと何年ここに縛られたことか!》


 バルムンクは自分の体をペタペタと触りながら笑っている

 そんな時激しい光が部屋の中を満たした


「な、なんだ!!!」


 《ウグッッ!目がぁー!!目がぁぁー!!!》


「きゃ!」


 オレは腕で光を遮るがあまりの光量に目が眩んだ

 光は少しずつ収まっていく


「強くなっとるか?リクトよ」


 光から現れたのは白髪のロリ吸血鬼ミラとハーフエルフのリーズである

 ミラはオレを見るとニヤニヤしている


 《あ、、あ、、、あぁーーーまさか!血に塗られた吸血姫ブラッディーヴァンパイアプリンセス 》


「その異名は好かん。やめよ!今はミラである」


 《それは誠に申し訳ありませんでした。以後気を付けます》


 すっげぇーミラってそんなに有名なの?

 あれだけ強いと思ったバルムンクがペコペコしてるよ

 そんなに強いのかよ。見た目からは想像出来ないな


「リクト様、ここの難易度は低いですけど攻略出来たみたいですね。おめでとうございます」


 《旋風の殺戮者までいたなんて、お前は一体何者なんだ?》


 バルムンクはひとしきり騒いだあとオレに質問してきた


「オレか?オレはミラによってこの世界にきた人間だな。

 そしてミラのパートナーでリーズとアイリスの主ってことになっている」


 《ハハ........こんな凄い奴と友になれたのか。光栄だな》


 バルムンクは天井を見上げながらしみじみ言った

 そんなに凄いことなのか?わからん!

 昔のミラのこと知らないし

 それにリーズは旋風の殺戮者って名前だし。物騒過ぎるだろ


「友になったじゃと?それは本当か?」


「あぁー本当だが?問題とかあったか?」


 《はい》


 バルムンクは完全に恐縮している。ミラってそんなに強かったんだ


「いや、特にはないがの、信用はできんな」  


「オレはバルムンクのこと信用しているぞ」


 バルムンクはオレのことを涙目で見ている


「そうか、ならば良いか。」


「あのーそろそろダンジョンから脱出しません?」


 アイリスは本題をきりだしてくれた


「あっそうじゃったな。よし集まれ」


 ミラの言葉にバルムンクを除く四人が集まる


「何をしている。速くこんか!」


「え?なぜ私まで?」


「リクトの友は我の友と同義だろう。はよ、こんかい」


 ミラはバルムンクへと手を差しのべる

 バルムンクはミラの手を取ると同時にミラを中心に激しい光の渦が激しく暴れまわった

 目を開けると目の前には草木が生い茂る森の中に転移していた

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