オマケ

ダガー編オマケ1 街で見かけたアレは?

「親方~、買い出しから戻りましたー」


「おう、ご苦労さん」


 オレは頼まれていた鋼材の買い出しから戻り、荷物をドカッとおいて親方に話しかけた。買い出しの道中にあるものを見てしまって、それが気になって仕方がなかったのだ。親方ならこの答えを知っているはずである


「親方、聞きたい事が有るんですが」


「なんだ、丁度ヒマしてるとこだから言ってみろ」


「買い出しに行った時にですね、ダガーをこう…腰の後ろに横に水平になる様に吊るして携帯している人が居たんですよ。絵物語にもたまに描いてある吊るし方ですが、実用的な意味はあるんでしょうか?」


「うむ、確かに最近よく見るな。俺も気になって、昔ある作家さんが取材に来た時に聞いてみた事が有る。その作家さんが言うには絵物語に描かれる理由ってのは、その方が見栄えがするからだそうだ」


「見栄えですか?」


「ああ、よほどのデブでない限り人間は縦に長い、そこに横にダガーを大きく抜く動作をさせると見栄えするんだと」


 親方は手じかに有ったダガーを手に取り実演して説明してくれた。”その理屈だと親方の横幅じゃたいして見栄えしないんじゃ”なんて思ったが口が裂けても言わない。オレは覚られない様に素知らぬ顔で話を続けた


「へぇー、と言う事は実用性は無いんですか?」


「いや、あるぞ。まず座る時に邪魔にならない。普通に縦に吊るす方法だと鞘の先が当たって椅子に座れない時が有る、横長で背もたれが付いているベンチなんか特にな」


 親方の話を聞いてオレは思い出した


「あっ!そう言えばウチの店の来客用の椅子が、そんな理由で細い丸椅子を使っているんでしたっけ。腰の武器が当たらない様にギリギリの太さにして、背もたれも邪魔だから付けてないとか」


「うちの店だけじゃ無く、冒険者や旅人用の酒場や宿でも使ってるタイプだ。鎧を着こんだヤツが座ってもいい様に丈夫になってるから、よくケンカに使われるな。酒場で武器を鞘から抜いたら出禁になるからよ」


 オレは”いやいや、それは無い”と思い親方に突っ込んだ


「ハハハ!椅子振り回して大暴れしたら、それだけで出禁になりますよね」


「椅子を使う事がソイツのギリギリの理性なんだろ、たぶん。いくつかの武術ギルドが真剣に椅子での戦い方を研究し出したくらいだ」


 どうやら真剣な話だったようだ


「マジですか?」


「ああ、なんたってウチに依頼が来たくらいだ、訓練用に戦闘に適した椅子を作れとよ。農具や調理器具を作ることは有るが、家具作る事になるたぁ思わなかったぜ」


 本当に苦労した様で、親方は渋い顔をした。オレはその苦い思い出に追い打ちをかける様にチャチャを入れる


「ははは、鉄工も木工できますからね俺ら。その内、とっさの時に鍋の蓋で反撃するから攻守に優れたバックラーのように使える鍋の蓋の注文が・・・」


「そんな客来たら泣くぞ流石に!」


「ハハハハ!」


 笑うオレを止める様に親方は言った


「まあ、そんな事はおいといてだ。雑談じゃなくしっかり鞘の位置について教えてやろうか?ついでによ」


「あ、へい!せっかくなんでお願いします親方!」

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