第4話 片刃の特性その2
「話がそれたついでに教えとくが…ダガーは戦闘用に特化した短剣だが、この片刃の場合はナイフの様に雑用に使っちまう兵士が多い」
「そうなんですか?」
「ああ、物資不足で手ごろな道具が無い時の間に合わせで使われたりすることがよくあるんだ。刀身の刃の無いミネ部分をこう、つまむように持てば短いナイフの代用としてある程度は使えるからな」
親方は粘土をくり抜き、ダガーの刀身を実際につまんで見せ、くり抜いた粘土を左手に持ち右手のダガーで粘土を野菜の様に削って見せた
「おー、でも怪我しそうな使い方ですね」
「あくまで間に合わせだ。他にも、ある負傷した兵士の体の中に残った矢尻を取る為に、ダガーの刀身が細いのを利用して矢傷に刃を突っ込んで傷を切り開いて広くした後、指で矢尻を取り除いたなんて話もあったな」
「うわ、痛そう…回復魔法が使えなかったのか…」
オレはその話で少しげんなりしてしまったが、親方は話を続けた
「刃物にあるまじき使い方をされる場合もあるぞ、例えば兵糧不足でその辺で捕って来た食材を小さく切り分けた後、ダガーに刺してバーベキューの様に串焼きにしたり・・・」
オレは一瞬、親方が何を言ってるのか分からなかった
「え、刃物に火を通したんですか…食材ごと!?せっかく焼き入れした刃が熱で鈍っちゃうじゃないですか、結界や魔法で直ると言っても限度がありますよ!」
「後はだな、木材に穴をあけるのにも使ってたな…キリみたいに」
「うわわ、切っ先が傷むでしょうに・・・」
武器職人として心が痛む話だった・・・矢尻の話以上に
「ま、武器と言っても所詮は道具。使い手のアイディア次第でそういう使われ方をする事もあるってこった。だがこんなのは想定外の使い方だ、今話した事は一切考慮しなくていい!良い武器を作る事だけ考えろ。自分の作品が雑な使われ方をされてるとしても挫けるなと言いたいだけだ」
「はい、肝に銘じておきます」
親方が言っていた”替えが効くから安いダガーを求める客がいる”って、つまりそういう事なんだろうな・・・
「で、話を戻すが、お前が片刃のダガーを作る時に注意することは?」
親方に急に話を振られて少しテンパってしまったが答える事が出来た
「はっはい!えーと・・・真直ぐ作るのは比較的簡単ですが…気にするのは重量と重心のバランスですね。刀身が分厚いぶん重いはずですから、両刃と同じ感覚で握りの部分を作ると重心が刀身の方によってしまいます。重心が刃の先端に近い方が斧の様に切りつける力が上がりますが振り回しにくくなってしまいますから」
「じゃあ、このダガーの理想の重心の位置は?」
「刀身の根元から指二本分下くらいですかね。ダガーを順手でもって、手の平が上を向く様にダガーが水平に近い位置に傾けた時、手を開いても手から落ちないぐらいが・・・刀身に重心が片寄ってると落っこちちゃいます」
オレはダガーを一本手に取り自分で言ったとおりに手を開いてみせた、親方は満足そうにうなずいた
「よしよし、ちゃんと答えられたな。ガハハッ」
「意地悪しないでくださいよ親方ぁ」
「すまんすまん、じゃあ次だ」
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