#41 Mr. Sadness

 驚くほどの破裂音。何かが瓦解する音。吹きすさぶ爆発音。

 何が起こっているのだろう…?


 私は…さっきまで、教室にいて…それから……

 そう、白銀の天使に助けてもらって、それで…?

 それで…どうしたんだっけ? どうなったんだっけ?

 確か…彼女の背中に掴まって……そう、外に出た。


 それから…それから?


 校庭に誰か居た。

 全てを飲み込んで、悲しみに包まれた黒い翼を持った人。

 何処かで見たことがあるような気がするけど、思い出せない。

 えぇーっと。誰だっけ?

 ん? 話し声がする。いや、叫び声?


 慌てて柵に駆け寄る。ここで初めて私のいる場所が、屋上だと気がついた。

 私を助けてくれた天使と黒翼の人が何やら話しているんだけど、あんまり楽しく愉快な内容ではなさそうだ。そんなに明るい雰囲気ではない。よく聞こえないけど、もっと暗くて、辛くて、悲しくて胸が張り裂けそうになる感じ。


 白い方は、とても必死で。遠くから見ても分かるくらいに一所懸命で。

 逆に、黒い方はただ冷めていて。でも、何処か心の奥底ではもがいているようで、足掻いているようで、抗っているようで。


 その時、黒い哀しげな冷めた視線と交錯した気がした。確信。


 あれはユキだ。肉眼で完全に確認することは出来ないけど、あれは確実に私の想い人だ。

 見間違える訳は無い。なんか姿は異形だけど、立ち振る舞いというか、彼が発する空気感? みたいなものが完全に私の記憶や認識と一致する。

 伊達に十年間幼馴染みをやってはいない。毎日君のことで頭をかかえている私には分かる。いつも見ている私が間違えるなんて有り得ない。


 あれは


 ただ私の知る彼の背中には羽なんて無かったと思うけども、あれは何?

 そして、どうしてそんなに熱く、冷めているの?

 今君は何をしようとしているの? 激しい口論の末に、君はどう行動するの?

 今私に背を向けているけど何を考えているの? 今どんな顔をしているの?


 疑問と彼らの発する願いが私の心をぐるぐる回る。私の思考回路が焼き切れてしまうんじゃないかと思うほどの衝撃と熱量。


 しかし、私の事など構いもせずに状況は進んでいく。私が止まっていても、周りはその動きを止める道理はない。


 顔は見えないけど、黒い翼のはためきが大きくなった。

 全体的に暗く重い色に変わる。それはアイツの心情を具現化したものなのか?

 だとしたら、今のユキは…泣いているの?

 そして対面にいる白い天使は動かない。どうして?


 わからないけど多分危険な状態。ユキがもうひとりの方を殺そうとしている。

 彼女?は動かない。何かを諦めたようにピクリとも。

 何とかしてアイツを止めないと―――


 でも、どうやって? 私に空は飛べる的な超能力は発現してやしないしアメコミヒーローの様な特殊能力も無い。

 何か無いか私に出来ること。皆無。せめて何か飛び道具でもあれば……


 あっ! ある! あの馬鹿を止めるのにぴったりなものがある。

 私はスカートのポケットを探る。その過程でスカートの下に履いていたタイツの破れ解れが目に入ったがシカトした。そして脳裏に閃いた目的物である金属製の塊を見つけた。思った通りの握り易く投げやすい形状。

 それを掴み、片足を前に大きく踏み出してから思いっ切りぶん投げる。


「くそぼけがぁぁぁぁ! チャラチャラチャラチャラしやがってぇぇ~!よく分からんが、目ぇさませえぇぇぇ! ついでにぃぃぃ、ちっとは遠慮や配慮! デリカシーってものを学んで来いやぁぁああああぁぁ!」


 ついでに言いたい放題本音をぶちまけてやった。

 内容はともかく、大声を出すって気持ちがいい。

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