第10話 当然の如くドラゴンを倒す⑥

 鼻に指を勢いよく突っ込んだはいいが何も起きない。

 俺は天の声に対して文句を言おうとすると_____。

 

『HELLO! マスター!』


 突如として、俺の鼻が片言の日本語で話しかけてくる。


「え!? 何事!? そして、片言!?」


 たじろいでいると脳内で天の声が返答。


『あなたの鼻に自律支援型デバイスを移植しました。動作に不具合はございませんか?』


「お前、俺の鼻を何だと思ってやがる!!!」


 エイリアンに攫われて人体実験される事をエイリアン・アブダクションと呼ばれ、世界にはそういう人間が沢山いるらしいが危機感のない俺は自身がそのような事になるとは想像もしていなかった。

 

 しかし、俺はやられた。

 ご自慢の鼻を訳も分からない声だけの存在に改造されてしまった。

 どうせ、だったら全身改造して加速装置とか付けておいてくれよ... ...。

 なんでだよ... ...。

 なんで、鼻だけなんだよ... ...。


「うおおおお!!!!」


 咆哮した。

 悔しかったのか、惨めだったからなのかは分からない。

 身体が震え、大地が揺れ、辺りを一陣の風が吹き、木々を揺らす。


 ドラゴンは一瞬、後退りするが負けじと咆哮し、身体を大きく揺らし、ヨダレを垂らしながら突進してくる。


「くるおおおお!!!」


「うおおおお!!!」


 対峙するドラゴンと俺。

 振り上げる拳とドラゴンの牙。

 こんな非日常的な事態を数時間前であれば想像することさえもしなかった。

 あの少女に出会わなければ俺がドラゴンと対決なんてしなくて済んだ。

 憎い... ...。

 あの少女が... ...。

 しかし、少女を助ける事が出来たらこう言ってやろう。


「中々、面白れぇ世界じゃねえか。連れて来てくれて感謝するぜ」と。



 □ □ □



『ミッションコンプリート。それでは、また』


 天を見上げると空はまだ赤い。

 ... ...そうだった。

 まだ、もう一匹いやがった。


 身体を動かそうにも鉛のように固まり動かず、途方に暮れるしかなかった。

 ああ。

 ここで、俺は死ぬのか... ...。

 

 薄れる意識の中、走馬灯も何も思い浮かばない。

 それだけ、俺の人生は思い返す事がなかったという事。

 陳腐な人生。

 転生する事が出来るのであれば次は心も体も豊かな人間に生まれ変わりたい。


「レッドレクイエム!」


 赤い閃光が頭上に滞留する赤い影を包み込む。

 俺が最後に見た光景は青色でもオレンジ色でもない真っ赤な空だった。

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