第5話 当然のごとくドラゴン退治

 異世界人ってやつは魔王やドラゴンを退治しないと気が済まない連中なのだろうか。

 少女は当然の如く、一般人の俺にドラゴン退治を提案してきた。


「準備はいい!?」


 少女は俺とは反対方向の木の陰に隠れ、ドラゴンが現れるのを今か今かと待っている。

 俺は円形になっている草原の真ん中にカカシのように立っているだけ。


 準備と言っても特に準備するものは何も無い。

 現れたドラゴンを引き付けて逃げるだけ。


「なー! お前、本当にドラゴン倒せるのか!?」


 少女は問いに対してボクシングのシャドーをするような動作で回答。

 ドラゴンを退治するというメインイベントにテンションが上がっている様子だ。


「え!? 素手で倒すの!?」


「いやいや! 魔法よ! ま・ほ・う! さっき見せたでしょ!」


 少女は自信アリ気にドヤ顔で答える。


 まあ、こんな無茶な作戦に賛同したのも勝算がなければしなかった。


 ◇ ◇ ◇

 

 ______数分前。

 俺は、少女と一緒に地面に座って作戦会議をしていた。

 少女はそこら辺で拾ってきた木の棒を使い、下手糞な絵で俺に分かりにくく説明する。

 

「で、ここの広場であんたが囮になって、ドラゴンを引き付けて、ドラゴンの注意が散漫になった所であたしが仕留めるわ」


「いや、やだよ。当然の如く決めるな。喰われたら死ぬじゃないか」


「大丈夫! 大丈夫!」


「何が大丈夫なんだよ! じゃあ、お前が囮になれよ!」


「あたしが囮になってもいいけど、あんた、ドラゴン倒せるの?」


「うっ... ...。倒せない... ...。けど、お前だってドラゴン倒せるのかよ! さっき、一緒になって震えてたくせに!」


 少女の痛い所を突いたのか、金髪の少女の顔色が曇る。

 

「ま、まあ、あの時はしょうがないわ。魔力が切れていたからね」


「魔力が切れる?」


 この世界にもゲームのようにMPなどの概念があるのだろうか?

 俺の疑問に対し、これから死闘をする戦友を納得させる為に懇切丁寧に魔力の仕組みなるものを説明してくれた。

 

「これがなんだか分かる?」


 少女は胸元からオレンジ色の宝石が付いたチョーカーを取り出し、絶対に分からない問いを投げかけて来た。

 

「え? おっぱい」


「... ...」


 少女は自身の何気ない行為が俺を興奮させていたことに今気が付き、顔を赤らめる。

 ただ、俺も俺だ。

 この状況で少々ふざけすぎだ。


「ごめん。冗談」と一言詫びを入れ頭を下げる事により事態の鎮静化に成功。


 少女は自身にも落ち度があったことに気付いたのか。

「こほん」と一度咳ばらいをして仕切り直した。


「これは、CFストーンって言ってね。魔法の元が詰まっている特殊な石なの」


「ふーん。なんだ、それを持っていたら魔法が使えるって訳か?」


「察しがいいわね。これがあれば魔法を使えるという事は確かよ。でも、誰にでも使える訳じゃない。適性のある人間にしか使えない。これを使える人間をこの世界では”魔女”と呼ぶわ」


「えー。お前が魔女? 何か想像してたのと違うわー。黒い服着て、箒持って、髑髏のネックレスしたら? お前、外見だけで見たらモデルの仕事じゃ食って行けないから週5でイベコンのバイトしている奴みたいだよ」


「嫌よ! そんなダサい恰好! あたしはスタイルも顔もいいし、少し露出した方が似合うじゃない! イベコンって言葉は良く分からないけど、なんか、馬鹿にされてる気がしてむかつく!」


 少女は立ち上がり、自慢の身体を俺に見せつけて来た。

 太陽光に反射する美しい金髪。冬の星空のような美しい金色の瞳は見るもの全てを虜にしてしまいそうな魔性の目をしている。

 出るところは出て、出ちゃいけないところは出ていない。

 スタイルにも恵まれており、学校に居たら間違いなく学校のアイドルになっているだろう。


「まあ、お前が魔女って事は理解した。とりあえず、今、その魔法ってもんを見せてくれよ。そうすれば作戦に納得してやらん事もない」


「わ、わかったわよ。見せればいいんでしょ? 何か、命令されてるようでムカつくけど仕方ないわ」


 少女はブー垂れながらも俺に魔法とやらを見せてくれるようだ。

 

「いい? 魔力にも限りがあるから一度しかしないわよ」


「はいはい」


 少女は目を閉じ、何かを放つかのように右手を天高く上げる。

 心なしか今までのアホっぽい雰囲気はなくなり、神仏めいたオーラを醸し出しているのが何となく伝わってくる。


 木々が揺れ、足元が微かに赤くなり。


「レッドレクイエム!!!」


 金髪の少女が咆哮する獅子のように声を荒げると、強烈な赤い光が辺りを包んだ。

 

「うわっ!」


 突然の光に目を閉じて驚いたのもそうだが、目を開けた直後に閃光をも超える驚きと身の毛もよだつような恐怖心に駆られた。


「... ...さっきそこにあった木はどこにいった?」


「消えたわ」


「消えた? 雷が落ちて焦げたんじゃないのか?」


「だったらもっと焦げ臭い臭いがするし、目の前に燃えカスがあるでしょ? だから、私が消したのよ。魔法の力でね」


 初めて見る魔法。

 誰もが憧れる力を目の当たりにした俺はその能力に心躍る事もなく、ただただ、イメージとは違う空想の産物に開いた口が塞がらなかった。


 金髪の少女は自身の行った行為について「消した」という言葉を用いていたが、俺はその表現がシックリこなかった。

 強いて言えば、”蒸発””気化”という表現の方が適当かもしれない。


「なるほど、これならあのドラゴンを倒せない事もないな... ...」


「でしょー!」


 ◇ ◇ ◇


「ぐぬおおおおおお!!!」


 上を見上げると赤い影が太陽を隠している。

 

「来たわね」


「... ...来たな」


 背中から汗が一気に噴き出し、足がガクガクと震えだす。

 これは武者震いというのだろうか?

 いいや、違う。違うな。

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