19、牧師の日記

「ウィンディ!」

 ミッシェルがウィンディを探しに教会の奥にやってきた。

 一瞬、レイミアの姿を見つけたミッシェルは反射的にコルトの銃口を向けた。

「誰だ!」

 だがレイミアの姿はすぐに消えてしまう。

 暗闇の中を目を凝らして見直すと、そこに見えたのは、白いカーテンのそばにいたウィンディだった。

「ウィンディ?」

 ウィンディを見つけたミッシェルはコルトをホルスターに収めた。

「どこ行ってたんだ、ウィンディ」

 ミッシェルは、ウィンディを抱きしめた。

「うん、ミッシェル。あのね、友達と会ってたの」

「友達?」

「レイミアって言うの。列車で仲良くなったのよ」

 さっき、本当に誰かいたのか?

 ミッシェルは、改めて目を凝らし周囲を見たが、ウィンディのいう少女らしき姿はない。あるのは白いカーテンだけだ。

 ミッシェルは、カーテンを開いたがあるのは閉められた窓だけだった。

「誰かいるのか?」

 暗闇に向かって呼びかけてみたが、返事はない。

「誰もいないみたいだね」

「おかしいな。さっきまでお話していたのに……」

「とにかく、行こう。暗闇の中は危険だから」

 ミッシェルは、ウィンディを連れて部屋を出た。

 彼女は、気が付かなかった。

 暗闇の中から去っていく二人を見送る者がいたことを。




「おい、ミッシェル。いいもんを見つけたぜ」

 コールがウィンチェスターライフルとコルトを見せた。

「え? どうしたの? それ」

「牧師の部屋にあった。ここの牧師は普段から用心深かったらしい。弾もあったぜ。ほらよ」

 コールは、コルト用の弾の入った小箱をミッシェルに放り投げた。

 ミッシェルは、それを両手で受け取る。

「おっと……」

「用心にはそれなりの理由があったみたいだな」

 コールは、部屋から持ってきた日記を見せた。

 それは教会にいた牧師の綴ったものだった。


 日記によると、街の変化が起きたのは、2ヶ月ほど前からだという。

 そして決定的な事があったのは、1ヶ月前。

 ピンカートン探偵社の調査員が消息を断ったころだ。

 事件は、真夜中、来るはずのない列車が駅に到着するという噂から始まった。そして南軍兵士の姿が目撃されだしたころから街に行方不明者が出だす。

「この日記によると、いつの間にか、車庫に機関車が入っていたそうだ」

「どうも駅に何かありそうだね。調べてみる?」

「そうだな。だが町には吸血鬼とアウトローどもがいる」

「連中と吸血鬼は潰しあえばいいのに」

「そう都合よくいかないだろう。むしろ逃げ出すんじゃないかな」

「だよね。こんな町」

 二人は、まだ知らなかった。ヤンガー一味が吸血鬼たちの溜め込んだ被害者たちの金品を奪う為に町にとどまる事にしたのを。

「ミッシェルたち、駅に行くの?」

 ウィンディが尋ねた。

「ああ、そうよ。でも町にはまだ危ない連中がいるから考えてんだよね」

「だったら、昼間、明るい時に行けば?」

「昼間?」

「吸血鬼って太陽の下には出れないんだよ」

 二人は顔を見合わせた。

「その子の言ってる事は正しいよ。お二人さん」

 教会の扉の方から声がした。

「誰だ!」

 二人は銃を声の方に向けた。

「おやおや、一緒に列車の旅をした仲じゃないですか。銃を向けるとはひどいですな」

「教授?」

 声の主は、保安官事務所で別れたカッシング教授だった。

「教授、無事だったんですか?」

「まあ……なんとか」

「無事でなによりです。町には、おかしな連中がいるんですよ」

「それは知っておりますよ。なにしろ私の専門分野だからね」

「専門分野?」

 コールは小首をかしげた。

「教授、失礼ですが、あなたの専門分野をよく聞いていませんでしたが、いや、聞いたのに忘れてしまったのかもしれません。すみませんが、もう一度、教えてくれませんか?」

「私の専門分野はいろいろあるが……ああ、すみません。年をとると立っているのも辛い」

 教授は、椅子に座った。

「失礼、少々離れたところから歩いてきたので少し疲れてしまってね」

 教授は、一息ついてから口を開いた。

「私の専門は、歴史と民間伝承……それと吸血鬼ですかな」


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