14-2 放たれた炎の矢

 発射された対艦ミサイルは、ミノルカ号に迫っていたヴァシレフス級装甲戦艦の上空に近づいていた。目標に近づくと弾頭の方向を徐々に下方に軌道修正されていく。

 装甲戦艦の乗組員たちの目は、空から近づいてくる不思議な物体に釘付けだった。

「ぶつかるぞ!」

 誰かが叫んだ。

 それとほぼ同時に装甲戦艦の煙突部分に直撃した。

 二つの煙突は、後部と艦首方向へそれぞれ吹き飛び、船の大きさを上回る爆炎が上がった! 吹き飛ばされた艦の破片は海面に落下し、いくつもの水しぶきをあげた。

 その数秒後には、もう一隻の装甲戦艦が同じ運命をたどる事になった。

 ミサイルは船体左舷を突き抜けると内部で爆発を起こした。

 爆発の勢いは積み込まれていた火薬の誘爆も引き起こし、船体のほぼ中央から、くの字折れた。

 黒い煙を上げ瞬く間に沈没していく二隻の次は、ミノルカ号を射程内に捉えていたミストラル級巡洋艦だった。

 真上から向かってきた対艦ミサイルの存在には誰も気が付かなかった。

 対艦ミサイルは、巡洋艦の上甲板に直撃し、大爆発を起こした。

 大きく左に傾いた時、船体は半分を失っていた。

 炎と煙に包まれ、ミストラル級巡洋艦は一気に沈没していく。


 始まった戦いの様子にミノルカ号の船室にいる皇女たちは、不安と恐怖に襲われていた。

 初めて見る海上の戦闘。

 しかもこの時代に生きる誰も見たことない兵器の攻撃によるものだ。

 すごい勢いで沈んでいく目の前の船。

 自分たちを攻撃しようとしていた艦とはいえ、炎に包まれて沈んでいく様子は、恐ろしく、悲しく切ない思いが胸にこみ上げてくる。

「皇女さま。船同士の戦いとはこの様に恐ろしいものとは、知りませんでした」

 侍女のひとりは、そう言うと身を守るかのように両手を胸に当てた。

「私もです」

 アミカル皇女は、窓から沈んでいく船を見つめながら答えた。

「海軍の人たちは、常にこのような危険にさらされているのですね」

 だが、このような戦闘は、帝国の海軍の誰も経験がした事などあるはずがない。なにしろ、今起きている戦闘は、八百年前のテクノロジーによるものなのだ。

 ミノルカ号の上甲板で周囲の海上に起きている自体に艦長や下士官たちは、動揺していた。

 先程まで敵わないと思っていた敵艦の数隻を突如、現れた正体不明艦が放った炎の矢が一瞬で沈めてしまったのだ。

 その姿は見たこともない形状で甲板には人の姿はなく、帆もついていない。

 帝国の海軍艦なのかさえ怪しい。しかも先ほどの発光信号ではヴォークランと名乗っていた。

 ヴォークラン? あの噂の幽霊船?

 送られてくる発光信号でミノルカ号を守ろうとしてくれているのは分かっているが、それでも不安に駆られるほどの圧倒的な攻撃力だった。


 驚いていたのは、殺し屋艦隊の乗組員たちも同じだった。

 わずか数十数秒の間に、帝国の装甲戦艦二隻と巡洋艦一隻が撃沈されてしまった。

 これは戦力のほぼ半分だ。

 その信じられない出来事に唖然とするイグノーブル提督。

 ヴァシレフスの艦長も信じられないといった表情で沈んでいく同型艦の様子を見つめていた。

「か、艦長……いかがいたしましょう」

 副官の将校が動揺しながらも指示を尋ねた。

 ヴォークランを名乗る艦から放たれた3つの花火のような未知の兵器が味方の艦を一瞬のうちに沈めてしまった。この事実は、艦長の判断力を鈍らせるには十分な事実だった。

 新型の装甲艦であるヴァシレブスもあの未知の兵器に持ちこたえれる気がしない。

 相手が幽霊なのか、あるいは自分たちの知らない海軍の別の新型艦か、はたまた外国の艦船なのかは分からない。だが、最強だと思っていたヴァシレフス級装甲戦艦より遥かに高い攻撃能力を備えているのは理解できた。

「撤退す……」

 そう言いかけた時だった。

「だめだ!」

 イグノーブル提督が強い口調で言葉を発した。

「しかし、提督。あの船を相手にするのは……」

 髑髏面の艦長がその格好には似合わない弱気な発言をする。

「だめだ! ヴォークランとかいう船はともかく、皇女の乗るミノルカ号だけは何としても沈めるのだ! でなければ我々は反逆罪で捕らえられるぞ」





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