第四章 お嬢様、暁の海に出航す

駆逐艦の追撃

8-1 取り残された船長

 夢から覚めたラヴェリテは、部屋の中を見渡した。

 綺麗で清潔そうな部屋だが、自分の部屋ではない。

 その時、ここが自分の家ではなかったのを思い出した。

 そうだった。ここはミカエラさんの家……だ。

 昨日は、みんなで食事してそれから……。

 いい香りがしたのでテーブルを見るとチョコレートケーキが置かれていた。

「ジョルドゥ? チョコレートケーキ、作ってくれたんだ」

 朝起きたばかりだというのに、小さくカットしたケーキを頬張るラヴェリテ。

「うん! 美味しい。さすがジョルドゥだな」

 おいしいチョコレートケーキを味わっているとテーブルにラヴェリテ宛の手紙が置かれているのに気がついた。

 ラヴェリテは手紙を手に取り封を開けるとケーキを頬張りながらそれを読んだ。

 読み終わるころには、ラヴェリテの目からは涙がこぼれていた。



「あら、おはよう。ラヴェリテ」

 部屋から出て居間に行くとミカエラがいた。

「みんなは?」

「ああ、えーと……」

「コーレッジは? ジョルドゥは?」

 説明に困っているミカエラにラヴェリテは、コーレッジからの置手紙を突き出して見せた。

「手紙、もう読んだのね」

「みんな、私を置いて出航していまったのか?」

「悪気はないのよ。みんなあなたの事を思って……」

「でも、私は船長だ!」

 ミカエラの言葉を遮るようにラヴェリテが叫んだ。

「そうね、あなたは、みんなに尊敬される立派な船長だわ」

「尊敬?」

「きっとみんなあなたが大好きなのよ。だから危ない目に合わせたくないと思ったんだわ」

「私もみんなが大好きだぞ?」

 ラヴェリテは、ミカエラの手をとってそう言った。言葉につまるミカエラ。

「私だって、みんなを危ない目にだって合わせたくないと思っているし……」

「これからミラン号が向かうのは、すごく危険な海なのよ」

「そうだけど、わたしは……わたしは……」

 ラヴェリテはミカエラの手を振りほどいてその場から離れた。

「ラヴェリテ! 待って!」

 途中、紅茶を用意していた執事のアディとすれ違う。

「あ、ラヴェリテお嬢様。おはようございま……」

 ラヴェリテは、アディを無視して通り過ぎる。

「お嬢様、一体どこへいらっしゃるのですか!」

 アディは、大声で呼び止めたがラヴェリテは、家から飛び出した。

 そのラヴェリテをミカエラが居間から追いかけてきた。

「ああ、ミカエラさん。お嬢様は一体、どうしたのでしょうか?」

「実は、コーレッジたちがラヴェリテを残して出航してしまったのを知って……」

「なんと! もうバレてしまいましたか」

「とにかく私はラヴェリテを追います」

 そう言うとミカエラはラヴェリテを追った。

「待ってください! 私も参ります!」

 二人は、港へ向かったラヴェリテを追いかけた。



 ラヴェリテは、ミラン号の停泊していた場所までやってきた。

 しかし、船の姿はもはやなかった。沖の方を見ると湾から出る寸前のミラン号らしき船影が見える。

「コーレッジ……みんな……」

 ラヴェリテが、周りを見渡すと湾内の船から乗りつけたのか、桟橋にボートがロープでくくりつけてあるのを見つけた。

 ラヴェリテは桟橋を走り、ボートに飛び乗ると繋がれたロープをほどきはじめた。

 急がなくっちゃ、急がなくっちゃ、追いつけない……

 落ち着いて考えれば既に沖に出る寸前の船に小さな手こぎボートが追いつけるわけはなかったが、今のラヴェリテはそこまで考えは回らない。

 ただただミラン号へ追いつきたい!

 その思いだけで頭の中は一杯だった。

 なんとか、ロープをほどくとラヴェリテは、ミラン号のいる海をめざしてボートのオールを漕ぎ始めた。

「船長を置いて船を出すなんて……ばかばか船員たちめ!」

 ラヴェリテは泣きながらオールを漕ぎ続けた。


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