3-3 問題あり

 船員たちは、最初に集まってきた人数の半分以下になってしまったが、それでもなんとか船を動かせるギリギリの数は集まった。これでなんどか船を出航させることができそうだった。


「しかし、幽霊船退治とは勇ましいお嬢ちゃんだぜ。俺様も驚いたぞ」

 ルッティは、そう言ってラヴェリテの頭をポンポンと叩いた。

「こ、こら、キミは私に雇われたのだ。ならば私を船長と呼ぶものだろう」

 ラヴェリテは、ルッティの手を振り払って抗議した。

「船長?」

 その言葉を聞いたルッティが眉をしかめ、ラヴェリテの顔を覗き込む。

「お嬢ちゃんが?」

「だから、船長だって!」

 必死に訴えるラヴェリテ。 

 その言葉も聞いて集まった船乗りたちも、一斉にラヴェリテを見た。

「えっ? 船員集め係的なものじゃなくて?」

「お、俺、誰かの代理かと思った」

 口々に疑問の声を上げる船乗りたち。

「なあ、お嬢……いや、船長。あんたが船長というなら、どんな船を持ってるんだ?」

 ルッティが、疑問に思って尋ねてみた。

 だが、ラヴェリテの返事は集まった船乗りたちの皆が驚くものだった。

「船はまだない」

 その言葉に船員たちは皆、固まった。

「これから手に入れる予定だ」

 海軍水兵のコーレッジは、頭を掻きながらラヴェリテに顔を近づけた。

「つまり何か? オマエは、船もなしで幽霊船退治をしようとしていたわけか?」

「だから、それはこれから手に入れると……」

「船を手に入れるって簡単に言うけど、どうやって?」

 コーレッジはラヴェリテを胡散臭そうな目つきで見る。

「か、買う」

 そう言うとラヴェリテは金貨の入った袋をコーレッジに見せた。

 大金を見た船員たちがざわめく。

 確かに金貨一杯の袋は、大きな価値があるが、船一隻もそれなりの金額だ。

「確かに大金だ。でも、これで足りるのかい?」

「えっ? 足りないの?」

「船って高いんだぞ。知ってる?」

「そうなの? でも、わ、わからないが……足りない分はなんとかする」

 必死に訴えるラヴェリテだが、残った船員たちは次々態度を変えていく。

「ちょっと俺は、辞退するから……」

「お、俺も」

 ギリギリの人数だった船員たちがさらに減っていく。

「あれ? どうしたのだ? みんな。おい! こら! 一度、船員名簿に記帳したじゃないか! おーい! おーいってばぁ!」

 去っていく船乗りたちを引き留めようと必死に訴えるラヴェリテの様子に、お尋ね者ルッティが大笑いしだした。

「俺も大概の馬鹿だが、お嬢ちゃん、アンタも相当の馬鹿だなあ! ぎゃははは」

「ば、ばかだとぉ!」

 ラヴェリテは、顔を真赤にして怒った。

「まあ、怒るなよ」

 ルッティは、そう言ってラヴェリテの頭をポンポンと叩いた。

「面白いから笑っただけのことさ。まったく、お嬢ちゃんは楽しいねえ」

「こら、船長と呼べ! それに頭をポンポンとするな」

 ラヴェリテは、ルッティの尻を蹴飛ばしたが、ルッティは、蚊に刺されてほどにも感じていなさそうだ。

「アイアイサー」

 ルッティはラヴェリテに敬礼の真似をした後、コーレッジの方を見やった。

「なあ、海軍の本職船乗りさん。アンタもこの話から降りるつもりかい?」

「いや、うーん……でも、まさか船がないで状態で船員を募っていたとは……」

 さきほどまで、乗り気満々だったコーレッジも船がないと聞いて明らかにやる気が落ちてるのが分かる。

 仲間のジョルドゥがコーレッジの手を引っ張る。

「ほら……いくらローヤルティ船長の娘さんだからと言っても、最初から無茶な話だったんだよ。行こうぜ、コーレッジ。兵舎に戻ろう」

「そうだな……」

 コーレッジは力なくそう返事を返した。

「だから、船は、買うって……」

 ラヴェリテは、顔を赤くして訴え続けた。目はすでに涙目になっている。

 コーレッジはラヴェリテの必死さに少し後ろ髪を引かれたが、船がなければ話にならない。

 そして、その場を離れようとした時だった。ルッティがコーレッジを呼び止めた。

「なあ、水兵さん。ちょっと待ちなよ」

 コーレッジたちがルッティの方を見た。

「なんだよ。アンタ」

「まあ、まあ、要するに船さえ、あればアンタも話に乗ったままでいいと思っているんだろ? 違うかい?」

 大柄な男の言葉にコーレッジは、怪訝そうな顔をした。

「まあな。けれど、さっきの金は確かにいい額が、船を買う額はないだろう。たとえ買えたとしても港に余ってる船なんて早々あるもんじゃ……」

 ルッティは、コーレッジの顔の前に掌を突き出して話を制した。

「アテがあるんだよ。船は俺様がなんとかしてやるからよ。だから一緒に行かねえか?」

 ありえない一言に他の船員たちもルッティ・ベルナードを見る。

「さっきの話だとアンタ、海にも出たことのないお尋ね者だろ? それが船なんて……」

 ルッティは、コーレッジの問いかけを笑い飛ばした。

「とにかく今夜、十二時に桟橋まで来てくれよ。なっ?」

 ルッティ・ベルナードは、そう言ってニヤリと笑う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る