第33話 酒場にて乾杯

 ジルコニアの広場噴水前に皮鎧の兵士と戻ると、騎士と兵士が整列していた。どうやら俺が「大海龍」を討伐した事を俺が来るより先に伝わっていたようだ。

 そして、広場に集まった群衆の数がすごい! さすが最大都市ジルコニアだ。

 俺の姿を確認すると、群衆から大歓声が沸き起こる。


「リベール!」

「リベール!」

「リベール!」


 うわあ、恥ずかしい。よく考えると俺の今の姿はビキニと背中に両手斧だ。

 凱旋する格好じゃないし、そもそも衆目に出て注目されるのは苦手だ。


 革鎧の兵士に連れられて、整列する兵士と騎士の間を通り噴水前まで来ると、俺に両手斧を持ってきてくれた騎士が敬礼のポーズで俺を迎え入れてくれる。


「よく戻られた、騎士リベール殿」


 俺騎士じゃないんだけど、いつの間にか騎士って呼ばれてる......敬称で呼ばれる分には構わないんだけど。


「今戻りました。騎士殿」


 俺も敬礼のポーズを取ると、群衆から再度歓声があがる。もうやめてくれー!


「後で必ずや、褒章をお届けします」


「一つだけお願いがあります。討伐した大海龍の角とタテガミを一部いただけませんか?」


「一部でいいのですか!」


 俺の分だけだし、そんなもらっても嵩張るだけだ。解体は任せるし、驚かれても逆に恐縮するよ。


「ええ。私一人ですし、旅の途中ですから」


「了解しました。その分金銭を上乗せできるよう上部へ取り計らいいたします」


「分かりました。お願いします」


 俺と騎士は最後に硬い握手をかわし、その場は解散となった。しかし群衆の歓声が収まらない......


 ふう。どうにか騎士との会話を終わらせた。正直「大海龍」討伐より精神ダメージが大きかった......俺が振り返ると目に入る見知った集団。


「リベール、無事でよかった」


 俺と目が合うとすぐにゴルキチは駆けてきて俺を抱きしめる。俺もゴルキチの背中に手を回し彼を強く抱きしめる。


「大丈夫だって言っただろ」


 安心させるようなるべく優しい声を出す。


「君が無事だと信じて疑わなかったさ。それでも、それでも......」


 相変わらずの直球を投げるゴルキチに頬が熱くなる。


「いつまで抱き合ってるのかなな」


 ツンツンと背中をつつかれ顔だけ向けると、ゴシック衣装の長い髪を左右で結んだ少女――しゅてるんがすごいいい笑顔で俺たちを見つめていた。

 いつのまに合流していたんだ! まあ、ちょうどいいんだけど。ってそんなこと考えている場合じゃない。

 ゴルキチから離れないと、と腕の力を抜こうとしたらすでにゴルキチが離れてくれていた。顔真っ赤だけど。


「リベール、ゴルキチ。祝勝会といこうぜぇ」


 遠くから手を振るジャッカルとリュウから声がかかり、俺たちは宿屋の食堂で祝勝会をしながら、ついでに昨日の続きも話をすることになったのだ。



◇◇◇◇◇



 宿の食堂についた俺たち五人は、南欧風料理を注文しつつ祝勝会を開始しようとしていた。南欧風料理は米を使った料理も多くあるので俺にとっては馴染みやすい。

 俺の分のミルクを注文しようとするゴルキチを手で制し俺はドリンクメニューを開く。ミルクはもういらん!


 メニューは日本語で書かれており、問題なく読むことができた。ミルクに加えて、なんとオレンジジュースまであるが、どこでオレンジ作ってんだろ?

 まあ、頼むものはあった。


 ビールだ!


 ちょうど店員さんが注文を取りに来たので迷わずビールを注文する。ジャッカルとリュウもビールだ。ゴルキチはミルクで、しゅてるんはオレンジベースのカクテル。


「び、ビールだと......」


 ゴルキチは俺の注文に茫然としているが、何か問題があるのか? まだ飲めない年齢とかそういうのはたぶん無いと思うんだけど。


「アルコールダメだったのか?」


 事情を知らないしゅてるんがいたが、リベールの中身が違うことが分かるような言葉でゴルキチに聞いてみる。もうしゅてるんには知られてもいいというか、こっちから説明してもいいと思っている。

 しゅてるんには「職業」のことを教えてもらったし、この後しゅてるんにも協力してもらいたいことがある。そのためには事情を知っておいてもらったほうがいい。


「い、いや、ビールは......苦い」


 味の問題かよ! なら飲んでもいいだろ。


「あ、ああ。俺はあの味好きなんだ」


 そうかとゴルキチは聞いて恥ずかしかったのか少し赤くなる。お子様舌なんだろうなあ、ゴルキチは。


 飲み物が来たので、全員で乾杯をするとみんなから「大海龍」との戦闘のことを聞かれたが、適当に答える。俺も確かめたいことがあるのでみんなに聞いてみる。


「しゅてるん。スキルのことなんだけど念じると割に簡単に覚えることができたんだ」


「そうねね。リベールたんはすぐだったわ。私もすぐだったわよよ」


 そうなんだ。すぐ「職業」選択し、「スキル」を覚えることができたんだよ。これが不可解なんだ。

 もしそんな簡単に「スキル」を覚えるならゴルキチが知らないわけないし、誰もが何らかの「スキル」を使えるようになっているはずなんだよなあ。


「魔法使いだけど、そんな簡単になれるものなのか?」


「んー。数か月かかると聞いたことあるのの。成れない人もいるみたいだし」


 そうなんだ。前も魔法使いについて聞いたが、成れない人もいる。俺だけ特殊かと思ったが、しゅてるんも簡単に「スキル」を覚えているから。俺としゅてるんに共通することがあるんじゃないかと思ったわけだ。


「魔法使い以外にしゅてるんみたいにスキルを使える人って見ないんだよな?」


「そうねね」


 やはりそうか。普通は魔法使いは別にして、手軽に「スキル」を取得できないし、魔法使い以外の「スキル」を習得している人は皆無か。


「よし、じゃあ。一度三人に魔法使いかベルセルクになってもらおうか」


 俺はジャッカル・リュウ・ゴルキチにそれぞれ目をやるが、彼らは一様に驚きの表情だ。


「そんな簡単にいくもんなのかよぉ」


 ジャッカルは豪快にビールを飲み干すと、タンと机に空のビールジョッキを置く。リュウも同じようにビールを飲み干すとジャッカルと同じ言葉を俺に向ける。


「簡単にいく人といかない人がいるらしい。それを確かめようと思ってね」


 俺は前置きすると、心に強く「魔法使いに成りたい」と念じるように三人に指示を出す。ゴルキチは俺の脳内ディスプレイに表示されるかもしれないから、ハゲ頭を鷲掴みにしておく。

 ゴルキチが「魔法使いに成りたい」と念じてくれたのか、脳内ディスプレイが表示されキャラクター選択画面が出る。選べるキャラクターはゴルキチのみだ。


 さっそくゴルキチを選んでクリックする。


<職業 無 プレイヤー名 リベール>


 ほう。俺のときと同じように表示された! ならたぶん職業選択できるはずだ。表示されている職業を選びクリック。


<ゴルキチの職業を変更しますか?>


 一覧表示されたのは「近衛騎士」。あれ? 待てゴルキチ! とりあえず選べるのは分かった。ゴルキチは問題なく転職可能だ。ただ、あえて「近衛騎士」は選ばない。


「ゴルキチ! 近衛騎士じゃなくて魔法使いだよ!」


 俺がゴルキチに苦言を呈すると、ゴルキチは「何故分かった!」とバツの悪そうな顔をする。

 とりあえず、ゴルキチも簡単に「スキル」を取得できることが分かったので良しだ。ジャッカルとリュウはどうだろう?


「どうだ? ジャッカル、リュウ?」


 俺が問いかけてみるも、二人はあまり芳しくない様子だった。あ、リュウに触れてみて何が起こるか試してみないとだな。

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