焚火と語りと二人と

 樹海は今日も静かである。言葉を示せぬ獣も虫もそこらじゅうにいるが、わざわざ隠れられない場所に現れることは基本ない。それは小屋の周囲や、訪問者の接近とて例外ではない。のっしのっしと枝葉をくぐりながら通り抜けてくる若葉色の飛竜から逃れるために、隠れていたのだろう獣や虫たちが慌てて逃げていく。

 飛竜は魔法を使わずして飛行を得意とする竜のことだ。あまり数は確認されていないが、各地で群れを形成しているらしい。市場に住み着いている飛竜はシェーシャとトレムの二人だが、幼馴染というだけであって、群れを形成しているわけではない。

 この二人は山に生息していた。故に山飛竜と呼ばれている。甲殻や腹以外の部分は緑色、腹部は暗い白の鱗で覆われている。鋭く、太い爪の備わる二本の太い脚。長い首と尻尾。小さな目に短い鼻先。腕を広げればそこには皮膜があり、山飛竜のシルエットを三倍以上も大きくしてしまう。

 樹海という地形のため思い通りに動けないシェーシャだが、鼻を利かせて首を左右に振る。鼻歌を口ずさみながら、たまに実っている小さな果実に匂いを嗅いで、文字通り道草を食いながら進んでいた。何か目印があるわけでもないが、彼女は目的地へと進んでいる。

 やがて山飛竜は一人、ひっそりと建つ小屋へとたどり着いた。誰かが立ち去ってから間もないのか、小屋の前の焚火から細く煙が立ち上っていた。聞こえるのは、木々のざわめきくらいか。

 シェーシャは小屋近くで腰を下ろし、首をもたげた。頭を前後してじっと小屋の様子を窺えば、二階の窓に赤の鱗と灰の角らしいものが見えている。舟をこいでいるわけではなさそうだが、かといって来客に気づいている様子はない。数秒の観察を楽しんだ彼女は、小屋の住民の名を呼んだ。元気よく、ためらいなく、叫ぶよう。

 窓の向こう側の彼女がびくんと跳ね上がった。バタン、と何か平たく軽いものが落ちたような音が聞こえてから、ゆっくりとラクリは振り向いた。赤い目が客へと向けられる。そこはかとなく落ち着きの見えない飛竜に、窓を開けた竜は口を開く。

「もうちょっと静かにできないの、あんたは」

 呆れの色の見える言葉に、翼と腹を見せつつなおも元気に答える。

「暇なの! 暇!」

 分かった分かった、とラクリは姿を小屋の陰に消し、窓を閉めた。ギシギシという音が聞こえたかと思えば、暖簾の向こう側から紅竜が姿を現した。首をわずかに傾げたシェーシャは腰を上げ、歩いてくる彼女にのしのしと素早く近づくと鼻先をすり寄せる。ラクリから見て左の頬を求める彼女に対し、左手の爪で頬を撫でてやれば目を閉じてゴロゴロと喉を鳴らす。

 数秒のスキンシップを終えて、シェーシャは改めて小屋の住民をまじまじと眺めた。いつもの紫の衣ではなく、袖口のない黒の一枚布のようなもので首から腰までを隠している。それを留めているのは、首元で結ばれている太めの紐だ。

「えーっと……おしゃれっていうの? 似合って、る?」

 首を傾げるようにして衣に鼻を近づけるシェーシャに、ラクリは特別反応せずに答える。

「無理に市場で知った言葉使わなくていいわよ。アリア……友達が送ってくれたから着てみたの。着心地は悪くないけどね」

 そうなんだ、と気にしないシェーシャは首を引っ込めて、再び腰を下ろし尻尾を体に巻き付けた。

「あのね、ラクリ。ギルがね、いないの。リジールと荒れ地に宝石探しに行くって。だから遊びに来たのっ」

 そう、と軽く答えるラクリは魔法の焚火を起こして座り込んだ。シェーシャも体の向きを変えて、焚火を挟んで向かい合う。

 まだ昼間だが、二人の鱗がほんのりと照らされた。樹海は影の落ちる市場と比べて、陽はあたるがかなりじめじめとしていて、気温が高い。だがここを切り開こうという者はいない。なぜなら、世界樹の周りには不自然なほど、建築がしやすいほどの平地だったからだ。拡張するにも、草原へと出ていく方が効率は良い。

 ラクリは黒い衣の内側から棒状の加工肉を取り出して差し出した。シェーシャはすんすんと臭いをかいでから恐る恐る口にする。ただの肉であると理解した彼女はかみ砕いて、嚥下した。同じものを取り出したラクリは自らも口にする。

 少しして、飛竜が口を開いた。

「ねぇ、ラクリ。なんでギルはリジールを拾ってきたんだろ。なんでか分かる?」

 さっきも思ってたけどリジールって誰。彼女のことを知らぬ友に経緯を説明してから、改めて問うた。その間、ラクリは本を聞いたまま軽く頷いていた。

「へー、あの傭兵がねぇ。あんた以外を近くに置くだなんて珍しい。旅の中でも、そんなことはなかったの?」

 まるで興味がない、と言わんばかりのラクリ。シェーシャは少し顎を引いて考えるそぶりを見せるも、たぶんなかった、と明確に答えない。

「私もね、ここに住み始めてからあいつと知り合ったし、あんたらがどんな旅をしてきたかなんて知らないもの」

 一息。

「シャーシャは、どうしてあんなカタブツに付いて来たのかってことの方が、気になるけれど」

 背後にある枝を取って、焚火にくべる紅。すると、ヤダ、と即答する緑。

「別にいいわ。故郷を追われたでも、犯罪者であっても、ここは、市場は、誰だって来れる楽園みたいなものなんだから」

 僅かに微笑むラクリに、シェーシャは静かに彼女と視線を交わしていた。パチパチと燃える焚火は弱く、熱は二人には届いていない。


 嫌な記憶があるわけじゃない。嫌なことはあったけれど、思い出したくないわけでも、ない。

 思い出せば、そこにあるのは寒くて高い山の上。外敵のいない環境に私たちの群れはいた。竜は大抵、寒さが苦手とされているが、山飛竜はそうでもない。空中は地上と比べて寒く、地上こそ暑いと思えた。

 そんな山飛竜と呼ばれている私は、長老の孫娘。母の父親が長老だった。

 兄が二人いる末っ子だが、別に生活に苦労も何もしなかった。父母二人とも狩りがうまく、飢えることも少なかった。兄弟三人揃って狩りを練習し、めきめきと上達していったものだったし。

 よくよく覚えているのは、群れの縄張りである山頂から、よくよく晴れた日にだけ見えるもの。山と森と平原と、そびえたつ何か。樹のようにも見えたけれど、眼下の樹を見ても同じものだとは思えない。シルエットしか見えないそれは大きすぎた。

「まぁた、セカイジュ見てるのかよ、シェス」

 翼を畳み、首を伸ばして眺めていた私に近づいてきたのは、長兄のジュエルだった。右隣にのしのしと現れて、ポスポスと左翼で頭を叩かれる。母はシェーシャ、と私を名付けたけど、愛称はシェス。

 飛竜の男は、女と比べて一回り体が小さいのが当たり前。故に、兄は二人とも私よりも小さい。翼を思い切り伸ばして私に抵抗していたはず。帰っていないから、今はどうか知らないけれど。

 長兄のジュエルは活発な性格。私も負けていないとは思うけど、頭の回転は彼の方が上。

「いいじゃん別に。今日の狩りは終わったでしょ」

 既に一人前として認められた飛竜は、群れの子供の分の食糧をまかなうための狩りも行う。ノルマなどは定められていなかったけれど、食べ盛りの子供のために自らの食糧を削る親もいなくはない。

「けどよぉ、じじぃいわく、どんだけ飛んでもたどり着けないんだってな」

 生まれたころからずっとそこにある。何を聞いても、あれはセカイジュだ、ということしか教えられなくて。ジュエルや、もう一人の兄、レヴィは翼の届かないそんなものに興味はなく、弟二人で狩りの勝負をしたり、父に二人がかりで直接的な勝負をいどんだりすることが日課となっていたはず。

 でも私は狩り以外に、眺めのいい景色を探すくらいしか興味がわかなかった。母はこれといって怒るなどはしなかったが、心配はしていた。獲物を吟味したり、談笑でもすればいいのに、と。

 どの景色にも入り込む、世界樹。あそこには何があるんだろう。怖いもの見たさに近い好奇心は、日に日に大きくなっていったことはよく覚えてる。

「シェスは、ここから出ていきたいのか? あそこに行って、何すんだ?」

 ジュエルは私に聞いてきた。でも答えられることは、分からない、しかない。ただ、行ってみたいって。

 ラクリの持つ本や、ギルの持つような装備の存在知らなかった私は、ただ真っすぐに飛んでみたりするしか方法がなかった。

 私の相手をすることに飽きたらしい長兄は、背後で戯れている同年代の者たちと共に飛び去って行く。それでも私は、ただ景色を眺め続けていた。

 そんなある日のことだった。こんな岩だらけの山の上に、珍客が現れた。レヴィが獲物の食べ残しを持ち帰っていた時に、傭兵をしていたギル・ヴルムが岩壁をよじ登っている姿が発見されんだって。

 その日の夜教えてもらった。なんでも身動きの取りやすい鎧と剣を身に着けて何もない壁をじりじりと登っていたらしい。遠目から観察していたが、私たちの住処をめざしていたとか。

 彼よりも一足先に群れに戻ったレヴィは、食糧を手近な山飛竜に預けて私たちのもとを訪れた。その場には長老もいて、私に世界樹のことや小言を言い聞かせていた。だがそれはいつもと変わらぬ話で、退屈なものだったからよく覚えていない。

 突然現れたレヴィは着陸態勢を取りながら長老に声をかけて、風圧を巻き起こしながら着地し、旅人の報告をしてきた。

「じいさん、翼のないやつが登ってきてるんだが……どうする? でっかい板みたいなのも持ってたが」

 レヴィは何を考えているのか、妙に硬い言葉を使いたがっていた。それを疑問に思っていたのは、私だけだったのだろうか。長老はゆっくりと彼の方を向き直り、ほぅ、と答えた。

「一人か? 一人なら、まずは客人として迎え、連れてこい。こちらには敵意がないことを示せ。ただ、油断はするな」

 今考えてみれば、長老の影響かもしれない。群れの中で真似をする者は珍しくはなかったし。飛ばなくなって久しいが、群れを指揮する発言力は健在だった。元気なのはいいが、私に小言を向ける体力こそ、別のものに使うべきではなかったのだろう、とふと気づく。

 分かりました、とレヴィは飛び立った。先ほどよりも激しい風圧があったが、いつものことであった。飛び去った孫を見送ってから、私に再び小言。

「さて、シェーシャ。おまえはいつもセカイジュを眺めているが、おまえはタラスクを名乗る身だ。何かに打ち込もうとは思わないか」

 ギルと初めて出会う前、長老は私にそう言った。どうしてなんだろうか。今でも妙に覚えている。私は世界樹を見つめながら、なんと答えただろうか。

 間もなくして、茶色い竜が、レヴィとジュエルを連れて現れた。外套は小さく畳んで、大剣と荷物と共に背負っていた。山飛竜以外の竜と出会ったことはなかったが、彼は並みの体格ではないことは分かった。鎧で一部見えなかったけれど、今とそう変わらない肉体を持っていて、小さな傷の見え隠れする鱗も見えただろう。

 レヴィとジュエル、長老と私でギルを挟んで、会話がようやく始まった。初めてみる彼の姿に、私たちは釘付けになっていただろう。

「あんたが長老か。俺はギル。探し物をしている」

 今と比べて、かなりピリピリとしていたと思う。射貫くような眼だった。彼は腰につけている小袋に指を入れて、何かを取り出し手のひらで転がして見せた。

「こういう石を探している。破片でなければ、それでいいんだが」

 なんだそれは、と長老が首を伸ばして鼻を利かせた。お互いに眉尻一つ動かさず言葉を選んでいた。

「こんな岩だらけの山の上にそんなものはない。探すというなら自由に探せばいい。だが、下手な真似をするなよ。さもなくば……分かるな?」

 歓迎すればいいのに、と思った。でも今は分かる。よそ者だからこそ、心を許すな、ということ。そもそも、私は彼が、初めて見た来訪者でもあったんだから仕方ない。

「ああ、それでいい。もてなしはいらん。必要なものはそろっている」

 必要なことだけ手短に二人は伝え合った。私は彼を、長老の後ろでじっと見ていた。私たちと同じ二足歩行だが、翼はない。代わりに太い腕と、指がある。鎧によって太く見えていただけかもしれない。

「保険として、後ろの二人をおまえの見張りに就けるがいいか? ……小さい方がジュエル、大きい方がレヴィという」

 それでかまわない。彼が言い残した直後、ギルは私をちらりと見てから去っていった。おまえたちも行け、と長老に従い、兄たちは来客に従うことになるのだった。彼からも生えている尻尾には鎧のようなものがあったけど、あのころはどうだったろう。

 長老もどこかへと行ってしまい、再び私は世界樹へと向き直り、眺めていた。

 山の夜はとても冷えるものだった。その日の夜、私はギルと兄たちの姿を探した。眠りにつくために身を寄せ合う群れから少し離れた場所に彼らはいた。兄二人は寒そうに身を寄せて目を閉じ、その隣でギルは何かを食べていた。

 私は寒さに身を震わせながら、彼に近づく。明らかに他の仲間が彼から距離を取っているというのに、近づいていく私に鋭い視線を向けていた。鋭い視線にひるみながら、口を開いた。

「えっと、ギル? ええっと」

 彼のことを知りたかったわけじゃない。

「長老の後ろにいたやつだな? 何の用だ」

 拒絶するような言葉と感情。

「よかったら、その、セカイジュのこと、教えてくれないかなって」

 ずっと知りたかったこと。

「生憎だが、大したことは知らない。それでもいいのか?」

 ごくん、と彼は食事を終えた。だがその言葉に私は、駆け寄って隣に座り込んだ。寒いくても、耐えられた。

 彼の横顔が、とても美しく見えた。団子状態の群れの方向を見つめながら、語らいが始まった。私はただ、ただ、彼の語りに耳を傾けて、相槌を打っていた。


 市場での出来事、最近の出来事。最近思うことに、悩むこと。どうでもいいことに、食いつくこと。明かりの延命処置を続けながら、二人は談笑を続けていた。ふとシャーシャが首を伸ばして空を見上げれば、背の高い木の隙間から星空が彼女たちを見つめていた。

 ふとラクリが何も言わず小屋にひっこむ。次に姿を現したとき、彼女は大きめの生肉を持っていて、友に差し出した。いいの、と尋ねれば、ええ、と彼女は無表情に答える。小屋から皿を持ち出して、自分の食事をとり始めた。

「あいつがね、遺産の調査に出るって急に言い出して、買っておいた分が余ってたの。ああ、どうせなら、泊まってく?」

 フォークを使って具材の一つ一つを口に運んでいくラクリは、肉にかぶりつくシェーシャに言えば、うん、と元気よく答えた。


 ギルはいろいろなことを教えてくれた。あちこちの岩場を調べているうちに、いつの間にか、兄たちは彼の見張りから外れて、私に任されていた。もっとも、彼の口から聞ける小話に興味が湧いて湧いて仕方なくて、結果的にそうなっただけ。

 兄たちは一日一回ずつ、あちこち歩き回る私たちの様子を見に来た。あまり邪魔すんじゃねぇぞ、とジュエルに釘を刺されたが、ギルはこう言った。

「暇をしなくして助かってる。宝石を見つけるも削るのも、時間が必要だからな」

 格好いいだとか、そんなことは思わなかった。

 彼はその日の話を終えると、はぁ、と大きく息をついた。妙に冷えたその日は、じっと群れの方を眺めた。息を白くしながら、隣で丸まっている私に問う。

「シェーシャ、寒くないのか? おまえたちは寒さに弱いんだろう?」

 どの口が言うのかって。着れるものを全て身に着けてもなお、自らを抱き小さくなっている男が。毎晩思うことであったが、当人から唐突にそう言われた。

「そういう、ギルはどうなの? ここは寒いのに、平気なの?」

 そうだな、と竜は自身の尻尾を抱きよせた。

「闇しかない冷たい穴倉よりかはマシだ。指先まで動かなくなるのは、勘弁してほしいもんだが」

 はあぁ、と白い空気が大きく吐き出された。

「おまえたちは、いいな。身を寄せ合える仲間がいて。寒さを分かち合えて」

 ついて回っている時でも、時折見せるどこかさみしそうな視線。私はつい、立ち上がって彼に近づいた。なんだ、と怒りのにじむ声はよく覚えている。

 こうしたら、寒くないかなって。

 それは無知ながらに、絞り出した単純な知恵で。私が丸くなって、ギルをできる限り包み込んだっけ。それから視線を泳がせながら、口を利くこともなく眠ってしまう。私も眠った。

 翌日、彼は何も言わずに立ってしまった。目覚めたころにはいなかった。慌てて私は彼を探し、飛び回る。そして私は、見つけたギルと言葉を交わし、ついていくことに決めた。世界樹へたどり着くその日まで。


 私には何もない。ギルみたいに、自分の店を持つ願望なんてない。ラクリみたく、魔法は使えるだけで、興味はない。トレムみたいにあちこちを飛び回りたいとは思わない。騎士みたいに守ろうとなんて思わない。遺産がどれだけ出てきてもおいしくない。

 私はギルのことが大好き。

 長い旅路で彼が私にそう言ってくれたように。

 大好きだと。一緒にいよう、と大きな宝石を私に差し出した。

 しかし。

 どうして私はここにいるのだろう。

 ここに来て何をしたかったのだろう。

 この大きな世界樹に何を期待していたのだろう。

 

 しんと静まり返る、真夜中の樹海に、シェーシャ、とラクリの焦りのにじむ声。妙な間をおいて、何、とどこか魂の抜けた返事。

 すでに冷え込み始める夜に、シェーシャはラクリを抱くようにして丸まっていた。少し前に雑談を打ち切り、寝ることにしたのだ。こうしたら寒くないよ、という飛竜の提案に、そうね、と短く回答した紅竜はすぐに眠ってしまった。

 しかし、ふと目が覚めた。視線を巡らせたところ、虚ろを見つめている友がいた。視線の先は、木々の先にある闇。何かいるのかと視線をやるラクリだったが、そこには何の気配もない。

「どうしたのよ。帰りたいの?」

 だから続けて尋ねた。ううん、と首を横に振って、飛竜が紅竜に顔を近づける。

「なんでも、ない。寝るから。寝るから」

 甘えるように顎をラクリの懐に納め、お互いに抱き合うような形となる。

「そう、寝れないのね。目を閉じて、力を抜いて。大きく息を吐いて、意識を沈めて……」

 不自然なほど優しく語り掛ける友の声に身を委ね、自然と意識を遠のかせていく。いつもとは違う、二人きりの樹海の中で。

 焚火が燃え尽きる少し前、二つの寝息が樹海に響き始める。汗ばむくらいの夜だが、彼女たちが目を覚ましたのは、見えない空が青くなり始めるころだった。

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