助けて、って言ったら、助けに来てくれた。

 修学旅行初日の今日は、京都の街で各グループ自由行動となっている。

 到着駅から出た瞬間、それは始まるので、電車から降りるとみんな一斉に散って行った。

 私のグループは、先程電車内で一緒に座っていた「いつものメンツ」である。

 グループ長の合川君を始めとし、副グループ長の咲っぺ、快斗、卓人、佑、私の6人。

 正直、合川君がグループ長であること自体に凄く不安を感じる。

「まずは、そこらへんからブラブラしてこーか!」

 などと頼りにならない発言を繰り返しているのだ。

 快斗は地図を片手に行き先とそのルートを確認している。彼が一番マトモなようだ。

「快斗に任せとけば、道に迷うことはない‼︎ だから、頼んだっ‼︎ 歩くグーグルマップ‼︎」

「俺そんなにグーグル先生ほど賢くないよ。ほら」

 そう言って、彼は目の前の壁を見つめた。

 どうやら、行き止まりになっているらしい。

「仕方ない。ホンモノのグーグル先生に聞こう」

 咲っぺはスマホを取り出し、ルートを検索した。

「こっちじゃん! 快斗、曲がるところ一個間違えてるよ」

「マジか〜」

 そして咲っぺを先頭に、狭い道を進む。さりげなく私の隣にやって来た快斗は、地図を見つめて言った。

「水澤さんとはプライベートでも連絡とってるの?」

「え? とってないよ? ……もしかして、さっきの電車の時のメール気にしてた?」

「……いや。別に」

 だったら何で聞いたんだ。全く……

「水澤さん、ああ見えて、凄い気遣ってくれてるから。心配しないで。オファーだってあれでも結構断ったから。水澤さんのおかげで」

「ふーん……。あ。お土産どうする?」

「まっさんにはみんなで割り勘しようよ」

「そうだね。京都ココで買っちゃう?」

「ちょっとずつ、あちこちで買えばいいんじゃない? どうせ私らも食べるでしょ?」

「そうだね。……水澤さんには買うの?」

「うーん……。多分買うハメになると思うんだ……。浦田さんは既に『お土産楽しみだなぁ〜』って去年から言ってたし、前の担当者には有るのに今の担当者に無いっていうのも酷だから……」

「浦田さん……」

 快斗は苦笑いをして地図を閉じた。

「八ツ橋食べたいって言ってたから、買っていかなきゃ……。でもその前に自分たちでも食べなきゃ!」

 私は彼にそう言って笑いかけると、彼は顔を赤くしてぎこちなく「お、おう」と言って目を逸らした。

 え。八ツ橋そんなに嫌いなのかな。逆かな。

「おふたりさーん! 早く! コッチでお茶しよー!」

 いつの間にか前を歩いていた咲っぺ達と距離が開いていたようだ。私たちは一瞬顔を見合わせ、小走りで後を追った。

 彼らに追いつくと、そこには小さな茶屋があり、そこで休むことになった。

 私は八ツ橋と抹茶を頼み、隣に座った咲っぺと会話を楽しんだ。時々男子達が乱入してきては腐女子ガールズトークが出来なかったので、仕方なく違う話題へと変えたりしていた。

「ごめん、私ちょっと、お手洗い行ってくるね」

 みんながそろそろ食べ終わる頃、私はみんなに断ってお手洗いへ向かった。


「……あれ⁉︎」

 お手洗いから戻ってくると、みんなが姿を消していた。

「ええー⁉︎」

 これは酷い。仕方がないので、次に向かう予定の場所へと急いで向かう。

 しかし!


「どこだ⁉︎ここ」

 グーグル先生の出番だ。しかし、ごちゃごちゃしていてわからない。トボトボと歩きながら、ふ、と呟く。

「助けて……」

 ボッチで知らない街を歩くほど辛いことはない。助けてー! アーンパー○マーン‼︎ 的な感じで、呼んだらヒーローが現れれば良いのに……。ギュッとスマホを握りしめた瞬間。

「心優!」

「ふぉわっ」

 背後から声をかけられたので、ビックリして振り返ると、快斗が立っていた。

 マジか。ヒーロー飛んできたのか。アンパ○マン来たよ。

「心優……どこ行ってたんだよ。みんなで探し回ってたんだぞ」

「……え。私、あの茶屋のお手洗いに……。みんなに断ったはずなんだけど」

「……そんなの聞いてないけど」

 沈黙。

「…ごめん、」

 沈黙。

 うわぁぁぁぁっ!絶対怒ってるよ!メッチャ怒ってるよっ!

「心配させんなよっ!ほら、行くぞ。」

 快斗はそう言って私の手を引いた。

「LINE既読つかないし……誘拐されたかと思った。」

「え…。そんな、大袈裟な。」

「…兎に角、みんな心配してっから。」

「ごめんなさい…」

 私はそう静かに呟いたものの、前を向いていてどんな表情かはわからないが、耳を真っ赤にしている彼に、不覚にもキュンとしてしまった。


 ***


「あっ‼︎居たっ‼︎」

 しばらく歩いて行くと、咲やよっしー達が居た。咲は俺たちの姿を見つけた途端、そう叫んで突進してきた。

「ごめん咲っ…ゴフッ」

「心配させんなバカァッ‼︎」

「お手洗いに行ってただけだったんだけど…っ。咲っぺ、苦しい。」

 咲は心優に抱きつき、そのまま説教していた。

「まったく…。…⁉︎」

 よっしーはフッと溜息をつき、視線を落とすと、目を見開いてこちらへスタスタと向かって来ては耳元で囁いた。

「お前、その…」

「あーーっ!なんや快斗!手ぇ繋いじゃって!なんやお前らぁっ‼︎」

 よっしーが言いかけたところで、合川が叫んだ。

 グループ全員の視線がそれに注がれる。俺と心優はハッとした。

 心優は繋がれたその手に釘付けになっているし、咲は心優と俺を交互に見ている。佑とよっしーは口を半開きになったままだ。合川は何故か顔を赤くしていた。

「ごっごめんっ‼︎つい、」

「いや!こっちこそ!わははー」

 2人同時に手を離し、ぎこちなくそう言って視線を逸らした。

「いつの間にカップル成立してたんかー!」

 合川は調子を崩さずに笑い続けている。

 カップル-その言葉を聞いた瞬間、ドキッとした自分が居た。

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