15.異世界バブル、崩壊 <1>

「よし、聖水も気付けの実も、結構高く売れたな」

「そうですね。1200Gくらいは儲けられましたね」

 レンリッキとグーをぶつけ合う。


 トローフ村。初めて道具屋に入ったときはイルグレットの買い物で終わったが、そこから先は順調に武具や道具を買い、その後値上がりしたタイミングで売ってゴールドを得ていた。


 昨日は貯めたお金で遂に「炎竜の剣」を買うことが出来た。普通でも4500Gと結構するが、今は61000Gという信じられないような価格。


 そして一緒に買ったのは、イルグレットの「メテオアロー」とアンナリーナの「魔力の羽衣」、レンリッキの「魔法反射の服」。全部で10万以上したが、そこまで貯められたのは、紛れもなく魔王の力のせい、否、おかげだな。


「シー君、またドワーフの水、買わない? 600Gくらいすぐ儲けられるわよ」

「いやいや、イルちゃん。もっと大きくいこうよ! 今、武器だと斧が人気なんでしょ? 手ごろなの2、3本買っておいて希少価値あがれば高く売れるんじゃない?」



 もうすっかり全員の金銭感覚は麻痺している。

 モンスターの落とすゴールドは15倍を超え、20倍に届きそうな勢い。3体くらいまとめて倒せば、軽々と1000Gを超える。

 そして何より、アイテムを買って売るだけでゴールドが増えるという超常現象。


 すれ違った勇者が言っていた、「ゴールドのまま持っておくなんてバカだよな。武器や道具にしないと、1Gも増えないのに」と。



「こんだけ商売繁盛してると、村も活気があるねえ」

 村を歩いていると、曲がり角でぶつかりそうになった。


 ガサガサッ!


「どわっ!」

「きゃあっ!」


 咄嗟に剣を抜く。イルグレットも背中の弓に手をかけた。

 ぶつかりそうになったのは、音をたてて葉を揺らしている、俺達とおなじくらいの全身草に包まれたモンスター。


 チッ、村にモンスターが入ってきたのか。村人に被害がないようにしないと――


「ちょっと待って待って、人間だよ人間!」

「は?」


 ひょこっと草の中から2本の手が伸びて、ガサガサと顔の辺りを掻き分ける。

 顔全体はよく分からないものの、明らかに人間である目が2つ、茂みの奥からはっきりと見えた。


「いやあ、いつか高値で売ろうと思って薬草買いまくってるんだけど、しまう場所がなくなってさ。こうして体に飾ることにしたんだ」

「怖いわよ!」

 アンナリーナがペシッと叩く。うん、怖い。見た目もその欲望も怖い。


「パーティーとはぐれて、というか置いていかれて合流しようとしてるんだ。まったく、俺の剣は攻撃の要なのに」

「え、お前勇者なの!」

 勇者ってもう少ししっかりしてるもんだと思ってました。


「勇者なのって……この腰の剣で分かるだろ」

「そんなところに目がいかねーよ!」

 草に目奪われて終わりだっての!


「あの、それだと攻撃しにくいんじゃ……」

 レンリッキが草の中の目を覗き込むように訊く。いいんだよ、そんな真面目に会話しなくて。


「まあな。でも、いつでも薬草を使えるって利点もあるんだ」

 いや、そりゃそうだろうけどさ。


「弱点はモンスターに人間だと気付かれないことだな。だから俺だけ攻撃されない」

「じゃあ使いどころないじゃん!」

 もうさっさと売れよ!



「はーい、どいてどいて!」


 しょうもないやりとりをしていた俺達の横を、2台の荷車が通る。そこには、バッタリ倒れて動かないパーティー一行、4人が乗っていた。


「何、どしたの? 強敵でも出た?」

 荷車を押しているお兄さんの1人にイルグレットがに尋ねると、呆れたような声で答えてくれる。


「なんかコイツら、武具や道具買いすぎて荷車で運んでたんだけど、移動も遅いからモンスターから集中攻撃されたらしい」

 おでこに手を当ててため息をつくイルグレット。

 うん、そのリアクションが一番正しいと思います。


「で、最後はアイテムかばって攻撃受けて全滅だよ」

かばったの!」

「もっと大事なものがあるんじゃないでしょうか!」


 どのパーティーも、ゴールドの虜になってます。

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