13.それはハマると危険な <1>

「よし、ここを降りればアマック村です」

 小高い山を下りながら、俺達3人の大分前を歩いていたレンリッキが立ち止まって振り向いた。


「ホントにタストナ村と近いのね」

 イルグレットが驚く。確かに、山を登るのは少し大変だったけど、タストナ村から3日もかかってない。


 旅人の服12着分、締めて12000Gを持ち逃げされた俺達は、アンナリーナの「この村には良い思い出ないから、先に進みましょ」という哀しげな一言で次の村へと移動を決めた。


「もともとは、タストナに一番近いのはトローフ村というところだったんです。でもそれでも大分距離があったので、山を下った場所に休憩所が出来て、それが発展してアマック村になったらしいですよ。さあ、着きました!」


 広範囲に博識なアイテムマスターによる歴史裏話を聞きつつ、アマック村にやってきた。武具屋も道具屋も民家も、他の村と一緒。

 ただ1つ違うのは、村の少し奥まったところにある、やけに大きくて華美な建物。


「何だこりゃ?」

 思わず漏れた呟きに、アンナリーナが食いつく。


「きっと新しい宿屋よ! それはそれは豪華に違いないわね!」

「豪華な宿屋か……どんな風に?」

「そりゃあ、受付してくれるおばさんの服がドレスになってたり」

「部屋の話じゃないんだ!」

 そこにお金かけられてもさ!


「あ、あの人に聞いてみない?」

 イルグレットが、近くにいた若い男の人を捕まえて尋ねる。

「ああ、カジノだよ」

「カジノ?」


「ゴールドを賭けてゲームをするんだ。運任せの部分も多いけどね」

 なんでも、最近の商売で大量にゴールドを儲けたアマック村の商人が、以前別の国で体験したカジノをこのバートワイト王国でもやりたいと、大枚をはたいて造ったらしい。


「せっかくだから、ちょっと入ってみるか!」

「えー、シーギスさん、ダメですよ。こんな娯楽でゴールドを増やそうなんて、考えが甘すぎます」

「いやいや、別に儲けようとしてるわけじゃないよ。せっかくだから経験してみたいじゃん?」


「はあ、まったくシーギスったら。こういうので儲けようなんて、発想が短絡的なのよね。短絡的で単純。ねえ、イルちゃん?」

「そうね、短絡的で単純で短足。無能、召喚獣の餌」

「なんかエスカレートしてますけど!」

 あとイルグレット、どさくさに紛れて短足って言っただろ!


「そっか、みんな行かないのか。じゃあ止めるかな」


 俺の言葉に、女子2人が「いやいや」と声を揃えた。心なしか、ウズウズしてる気がする。


「別にね、アンタがどうしてもって言うなら、行くわよ。ね、イルちゃん?」

「そうね、仕方ないけど、シー君がパーティーのリーダーだしね。アンナちゃん、仕方ないから入ろ」

「少しだけね! ほら、シーギスもレンちゃんも、置いてくよ!」

 勝手に話を進める2人。

 こいつらは……。


「しょうがないです、僕もちょっとだけ行きますよ」

「んじゃ、入ってみるか」

 キャッキャしながら先に入ろうとする女子達に、走って追いついた。




「はああ。なるほどね、こんな感じか」


 カジノの中は、完全に「非日常の空間」が演出されていた。上品な木目の壁に、心地よい弦楽器の音楽、眩しすぎず暗すぎない照明。全てが「ゴールドを持つ人に心行くまで遊んでもらう」ために作られた場所。何十人もの人々が、その空間でゲームに興じていた。


「シー君、スロットやってみた? 割と動体視力使うから楽しかったわよ」

「ああ、やったやった。ルーレットの方は駆け引きが重要だな」


 3列の絵柄を揃えるスロットと、玉が入る色や番号を当てるルーレット。どちらも初めてやってみたけど、結構面白いし白熱する。勝てば嬉しくてもっとその快感を得たくなるし、負けると悔しくて再戦したくなる。そのバランスが絶妙だった。


「シーギス、どう? 儲かってる?」

 アンナリーナにポンッと肩を叩かれた。「いや、トータルでは負けてるんじゃないかな」と返すと、彼女はピースをしてニッシッシと笑う。


「アタシは少しは勝ってるからね! 安心して、今日の宿代くらいは稼ぐわ!」

「あんまり無茶するなよ」


「あれ、レン君は?」

 イルグレットに言われて周りを見渡すが、それらしき人物は見当たらない。代わりに目に飛び込んできたのは、スロットゾーンにいる大勢の人だかり。


「何かしら、あれ」

 野次馬根性で駆けて行く魔法使い。その先には、スロットに向かって叫んでる男子が1人。



「おい、頼むぞ! 僕は負け続けてるんだから! 今度こそ取り返すぞおおお!」


 どう見ても、うちのアイテムマスターだった。

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