8.まるで全てが戻ったように <1>

「ふわーあ。さてと、本日も稼ぎますかね」


 酒場で散々な目にあった翌朝。剣と斧と防具に囲まれてすっかり狭くなった部屋で一夜を明かし、受付前に集まった。イルグレットもしきりに目を擦っている。


「そういえばおじさん、鋼の剣って売ってる?」

 確かシアゾット村では、1600Gだったのが1300Gまで値下がりしてたんだよな。

「ああ、2本あったな」


 おじさんが2階にあがり、別の部屋をノックして「寝てるのか? 入るぞ。商品を取りたいんだ」と中に入っていった。はた迷惑な仕組みだなホントに……。


「これだこれ、1100Gだ」

「また値段下がったのかあ」

 これならもう少し待てば元値の半額くらいまで下がりそうだな。


「アタシ、ちょっと振ってみたい!」

「私も! 剣なんて普段触らないしね」

 女子2人で剣を受け取り、鞘から抜いてブンブンと振ってみる。

 ……ん? お、おお、これは……っ!


「なあ」

 レンリッキの手をトントンと叩いた。

「見ろよ、あの2人の胸の動きを」

「なっ……!」


 途端に顔を真っ赤にするアイテムマスター。ふっふっふ、女性のアイテムについては浅学なようですな。


「シ、シーギスさん、やめてくださいよ」

 小声で抵抗するレンリッキに、とてつもなく意地の悪い顔を見せる。


「まあまあ若いの、よく見たまえ。まずはイルグレットの胸だ。剣を上から振るたびに、反動で揺れるだろう? しかも2、3往復している。あれは一定以上の大きさがないと出来ない芸当だぜ」

 聞かれたらどうするんですか、と泣き声混じりな彼に、「あの遊びに夢中だから大丈夫だよ、けけけっ」と笑い飛ばして続ける。


「そしてアンナリーナだ。胸はそんなに大きくないから、さっきみたいにジャンプ斬りでもしないと揺れない。でも、ポイントはそこじゃないんだ。アイツの脚を見てみろ。今日は良い感じに短めのスカートで、風で捲れるだろう? 下着までは見えない、でもそのギリギリ感が堪らないよな」

「シーギスさぁん、止めてください……」

「いいじゃないか、たまの目の保養なんだからよ」


「シー君、楽しそうね?」

「ホントね、シーギス?」


 ギャリン!


 2人の剣が俺の胴の手前で交差する。


「私達の耳がいいってこと、忘れないでね」

「それから、レンちゃんに変なこと吹き込まないでね」

「はい……」

 しまった、聞こえてたか……反省反省。


「アンナちゃん、やっぱりちょっとだけ切っておこ」

「そうね」

 シュッ!


「ぎゃあああ! 血が! 脇腹から血が!」

「レン君、昨日の酒場に道具見きましょ♪」

「は、はい……」

「勇者を置いてくの!」

 怒らせると怖い女性陣の後ろを、脇腹を押さえながら恐る恐るついていった。




「すみません、お兄さん。道具見せてもらって良いですか?」

「ああ、もちろんいいよ!」

 朝にもかかわらず、酒場はそれなりに人がいる。既にお酒を煽ってるおっさんやおじいさんも何人かいた。


「薬草、また値段下がってる! 7G!」

 レンリッキが目を丸くした。


「そうなんだよ、もともと12Gなのに売れ方が悪いからほぼ半額。みんなゴールド使わないようにしてるから、ケガしても我慢してるパーティーもいるみたい」


 アレもコレも、値段が下がっている。それは、バートワイト王国全体の国力が下がってしまったような気にもなり、少し寂しくなった。


「あっ、火炎玉も安くなってる」

「レンリッキ、手持ちに何個か買っておいてたらどうだ?」

 魔力の込められた道具。敵に当てると炎が相手を包み込む。


「火炎玉も全然売れてないから値段下げたんだよ。ずっと置いてあるから、多分中の温度も下がってるんじゃないかな」

「そんな仕組みなの!」

 焼きたてパンみたいなこと言われても!


「あ、お客さん、ひょっとしてサモナーだね? 胸ポケットの杖で分かるよ」

 水色のシャツの胸ポケットを見ながら、イルグレットが「ええ」と微笑む。


「面白い道具を手に入れたんだ。道端歩いてたら、おばあさんから『ヒッヒッヒ、若いの、良いもの買ってかないかい?』って言われてさ」

「すごい、全然良い予感がしない」

 冒頭が怪しすぎるんですもの。


「でね、これ。お金を先に3500G入れておくと、召喚獣を安く呼べるようになる機械らしいよ」

「………………」

「…………そんな道具聞いたこともないですけど…………」

 あまりの怪しさとくだらなさに絶句する俺とレンリッキ。


「えっ、どうしよう、私ちょっと欲しいかも」

「落ち着けイルグレット。3500Gって何体召喚すれば元取れるんだ」

 お兄さんも貴女も騙されてますよ、多分。


「あとこれもそのおばあさんから買ったんだ! ゴールドを入れると体力回復できる木箱らしいよ。2200G!」

「えっ、どうしよう、アタシちょっと欲しいかも」

「薬草買えばいいでしょ! 安くなってるでしょ!」

 みんなホイホイ騙されすぎですよ!

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