第2話 一人目接近中 1

 翌週明け。

「あぁ、疲れた」

 溜息交じりに零して、コキコキと首を左右に動かし席を立つ。廊下に出れば、今日も営業の方からはまだまだ活気付いている雰囲気が漂ってきていた。

「営業じゃなくて、ホントよかった」

 こんな日にまでお仕事ご苦労様、と申し訳なく息を漏らしてエレベーターへ向かっていると、そこに矢野がいた。

「お疲れ、矢野」

「あ、咲子さん。偶然ですねぇ。運命ですねぇ。愛ですねぇ」

「あのね」

 疲れを知らない若者の矢野はテンション高めで、今日も笑顔を振りまいている。

「いつも元気だよね」

「咲子さんに会っちゃったら、元気百倍。疲れなんて、吹っ飛びますから」

 半ば呆れ気味で言ったのだけれど、あまり通じていないようすだ。矢野がにししと笑うと、エレベーターのドアが丁度開いた。

「どうぞ」

 ボタンを押した矢野が、紳士的に私を中へ促した。

「ありがと」

「密室に二人っきりですね。なんか照れちゃいますよ、僕。てか、嬉しいなぁ」

 ドアが閉まってすぐ、誰も乗り合わせないエレベーター内で、矢野が冗談を言って笑う。

「矢野と二人っきりでもねぇ」

 仕方ないでしょうよ。とばかりに零すと、矢野が真面目な顔をした。

「僕と二人じゃ駄目ですか?」

「何言ってんの」

 いつもの冗談だろうと矢野を見返すと、これでも結構真面目に言ってるんですけど。なんてぶつくさ零された。

 そのうちに一階へ着き、ドアが開く。

「密室終了ー」

 若干不貞腐れている矢野に言って廊下へ出る。

「咲子さん、今日は真っ直ぐ帰るんですか?」

 出口に向かって颯爽と歩き出したら、ササッと隣に並ぶ矢野が擦り寄るようにして訊ねてきた。

「なんで?」

「飲みにいきませんか?」

「矢野と?」

「はい。僕と」

 ニコニコと言われてしまうと、なんと応えていいものやら。

「たまには、後輩におごってくださいよ」

「そういうのは、直の上司にいいなよ。国澤に」

「国澤さんと飲んでも意味ないじゃないですか」

「あのね。意味ないって、失礼な。大体、私とだと意味があるみたいじゃないのよ」

「ありますよ。大有りですよ」

「ほほぉ。その意味、とくと聞かせてもらおうじゃないの」

「解りました。じゃあ、飲みにいきましょう」

 そういうと、矢野は私の手を引き強引に歩き出した。


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