第35話 入隊試験-7

「驚いた。あの噂は本当だったんだな」

「噂?」

「売られている火蜥蜴の中に火竜の子供が紛れ込んでいるって噂が商人の間ではやったんだ。竜種全般が希少種な上に、火を司る火竜はその存在自体が怪しまれていたんだ。火山地帯に伝わる伝承の中くらいにしか登場しないからな。半信半疑でも飛びつく輩は後を絶たなかった」

「その誤情報のおかげで値段が高騰して、乱獲されたのでございますよ。本当に愚かでございますよ、常人種は……。見たこともない火竜と火蜥蜴をどうやって見分けるというのですか」

 アワイが嘆息をもらした。

「そっか。ガブは希少な生物なんだ」

「火蜥蜴の百倍は高値で取引されるだろうな」

 金貨100枚×100=!? ハハッ、金貨1000枚か。大したことないな。馬車馬のように働けばなんとかなるだろう。

「ソール、ガブを譲ってほしい」

 意を決して進言してみる。

「火竜を手にしてどうするつもりなんだ?」

 ソールが俺を正視する。

「私は、反対にございます。余計な火種を抱えてもなんの得もございませんよ」

「そうだな。火竜は超がつく程の希少種だ。予期せぬ揉め事に巻き込まれるかもしれない」

「ボクノホウガモフモフ」

 反対意見しかでてこない。みんなして俺とガブの間を引き離そうとしている。

「……ガブを故郷に帰してやりたいんだ」

 勝手に捕まえられて人間に消費される。そんなのは間違っていると思う。偽善的な正義感。自己満足。そんなのはわかっている。だけど、俺は「合理的ではなく愚直に良心の赴くまま行動する」そんな人でありたい。

「若いって素晴らしいな。その気持ちを大切にしろよ」

 俺の方が年上なんだけどな。

「そろそろ飯にしよう。栄太、ちゃんとガブの面倒を見てやれよ。生き物の世話って結構大変だからな。フェンだって定期的にかまってやらないと拗ねるくらいだ」

「ボクサミシガリ」

 フェンリルがソールに飛び掛かってじゃれ始める。

「フェン、服が汚れるだろう」

 二人の絆を知らない奴がこの光景をみたら肝を冷やす光景だな。フェンリルは愛犬というより猛獣ぽいからな。

「主様」

 今まで沈黙していたアワイが重々しく言葉を紡いだ。

「相当な対価を支払うことになりますよ。その覚悟はおわりですか?」

「足りない覚悟は度胸で補強するさ。アワイにも迷惑をかけるかもしれないけど、頑張って働くからさ」

「金ならいらないぞ。もとからバリークに到着したら逃がしてやるつもりだったしな」

「だってさ、アワイ。これで反対する理由もなくなったな」

 ソールは本当に主人公ぽい良い奴だ。

「……そもそも私は主様に反対する権利を保有してはいないのでございますよ」

 アワイの含みがある態度にひっかかりを覚える。

「飯にしよう」

「主様、盛り付けを手伝ってくださいませ」

「おおっ」

 いつものアワイだ。ガブのことを認めてくれたのだろうか。後できちんと話してみよう。 

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