32話「犬さん、ブラッドイーターを誘惑する」

ブログver

http://suliruku.blogspot.jp/2016/11/32.html


最短距離で道を移動できるタフな獣人。

スタミナが足りなくて、頻繁に休憩する必要がある精鋭ゴブリン。

周到に準備して『僕の細工スキル』を最大限生かし、新しい武器を製造するという余計な手間暇をかけても、ゴブリンの行き先に回り込むのは容易い事だった。

今、ゴブリン達は――呑気に新鮮な食材を調理している。

ブラッドイーターが黒い愛刀を掲げ、問答無用で労働者ゴブリンを神速の斬撃で切断。


「今日の昼食は!お前にっ!決めたっ!」


瞬時に、バラバラ遺体にされたゴブリンは、熱い鍋へと放り込まれ……うむう……他種族だから、牛や豚と同じ感覚で見れてしまう。

近づきすぎたり、殺気を向けるとブラッドイーターの索敵系スキルに探知されるから、間合いを取りながら観察を続けるのは疲れるものがあるな……。

身体は疲労しないが神経的な意味で辛い。異文化ならぬ、異種族コミュニケーションが難しそうだ。


「良い……名剣アナンダ・ブレード良い……。

肉がよく切れるっ!良いっ!とっても良いっ!」


これぇ……名剣……泣いていると思うぞ……。

一応、ゴブリンの脂が溝に溜まって、剣の切れ味が落ちない仕様になっている特殊な剣だが……肉斬りたいだけなら、分厚い包丁で良いと思う……。


『包丁戦士ブラッドイーター』

『やはり包丁は……ヤンデレ娘が一番似合うお……ゴブリンだと猟奇的すぎて萌えないお……』


早く気づいてくれ、ブラッドイーター。

お前が欲しがる名刀は、すぐそこにある。

地球で失われたロストテクノロジーで作られたダマスカス鋼の――


「くくくっ……!獣人の強者をアナンダたんで切り刻みたい……ん?

こ、これはっ!?ま、まさかっ!」


ようやく、ブラッドイーターは気づいた。

30mほど離れた場所に――鎧すら容易く切断して刃こぼれ一つないという伝説の鋼――


「ををっ!な、なんて切れ味が良さそうなナイフ……!

この刃の美しさは神が作りたもう芸術のごとく!?

良いっ!良いぞっ!これぇ!」


ダマスカス鋼のナイフが落ちている事に、奴は気づいたのだ。


『ナイフな件』

『刀剣コレクターに、ナイフをプレゼントして意味があるんだお……?』


仕方ないじゃないか。

一応、焼き払った集落の炉が残っていたから、ダマスカス鋼を製造できたが……製法が特殊すぎる上に材料がほとんどないから、ナイフを作るので精一杯だったんだぞ?

それに見ろ、ブラッドイーターがナイフを手に取って、刃紋をペロペロと舐めて、近くにある木を切断しているじゃないか。


「ををっ!す、素晴らしいっ……この切れ味に加え、刃こぼれ一つもない!

愛刀ベスト3に加えるべき、愛刀ならぬ愛ナイフだ!」


……単純に、この光景だけを見たら、ブラッドイーターに良い武器プレゼントしてどうするんだぁー的な光景なのだろうが、これは布石に過ぎない。

このナイフは『餌』だ。

僕は、100mほど先にある茂みから飛び出て、大声でブラッドイーターへと話しかける。


「師匠ー!話がありますー!」


そう――ホワイトの十歳児ボディを借りてね。

胸は小さくて動きやすい、シャツとズボンは活動的な衣服だから、移動の支障にもならない。

むしろ、逃げるだけなら、三歳児の身体より遥かに優れている……単純に、足がスラリッと長いから、走る速度が違いすぎる。

筋力も怪力だから、多少の無茶は出来そうだ。


(体を主様に操縦されるとは……ドキドキしますなぁ……。

胸はまだまだ発展途上ですので、心配しないでくだされ……)


ホワイトの心の声が響いてくる。

……心まで変態でやんの……ドキドキ興奮されたら僕まで興奮しちゃうだろ……。

あ、ホワイトの動向を気にしている場合ではなかった。

100mの距離があるとはいえ、スキルスロット持ちの化物が相手だ。

ナイフを投げてくる可能性だってあるから、集中を散らしてはいけない。

僕は銀髪ロリの顔で、作り笑顔を浮かべながらリラックスする。


「師匠ぉー!もう一度言いますが……大事な話がありますー!」


「くくくっ……試し斬りに丁度いい奴が来たっ!

さぁ来い!どれだけ強くなったのか見せろみろ!真っ二つに両断してやる!」


「うわぁ、なんて酷い反応。

ここは久しぶりだなとか、何のためにここにきたとか、問うべき状況だろ!?」


「久しぶりだな!斬らせろ!」


「礼儀だけ守っても、発言内容がひどすぎる!?」


「何のためにここに来た!俺はお前をとにかく斬りたい!」


……律儀なやつである。

幸い、ブラッドイーターは近づいてこない。

精鋭ゴブリン達は、獲物を横取りする訳には行かないと思っているのか、弓で攻撃してくる気配はない。

よしよし、良いゴブリン達だ。

お前らの頼りになる最高戦力を……僕が有効活用してやろう。

そしてっ!ゴミのように用済みになったブラッドイーターを潰してやる!


「師匠ぉ!そのナイフを作ったのは僕ですー!ダマスカス鋼っていう凄い金属で出来ていて、鎧を切断しても刃こぼれが起きませんっー!

でも、ナイフだとリーチが足りないでしょ?

そのナイフじゃ、師匠の凄い剣術を生かせませんよー!」


「むむっ!?……た、確かにっ……!

ナイフは短くて使い辛いっ……!

やはり最低でも……ショートソードくらいの大きさが欲しいな」


「この場にいる全てのゴブリンを切り刻んだら、そのナイフと同じ金属で出来た剣をお渡ししますっー!

頑張ってくださいー!師匠ぉー!」


僕のこの発言を、精鋭ゴブリン達は笑い飛ばした。

さすがに、そこまでブラッドイーターはキチガイではないだろうと思い込み、口々に――


「馬鹿め!ブラッドイーター殿がそのような安い誘惑に乗る訳がな――」

「獣人の小娘を拷問して、量産させれ――」

「ふははははっ!馬鹿だぞ!この獣人――」


3匹の精鋭ゴブリンは、最後の言葉を呟けなかった。

首を浅く切断されて、血液が噴水のようにドビューと飛び出ているからだ。

……お前ら、ブラッドイーターをそこまで信用してどうする。

お前らが労働者ゴブリンを食用肉や奴隷として見下してたように、ブラッドイーターがお前らに向ける視線は……『切断できる肉』だって事に気づいてなかったんか……。

優れた刀剣のためなら、安い誘惑に乗るような社会不適合者だぞ……。


「その話……本当だな?

もしも、嘘ならば……ホワイト。貴様をゆっくり寸刻みにするが?」


「僕の言う事には間違いはありません!

それに師匠!そいつらはゴブリンの精鋭ですよ?

ほら……切り刻みがいがあるでしょう?めっちゃ殺しがいがありますよね?」


「そういえばそうだった。

斬り答えがある肉だったな……そろそろ斬り時――という事なのだろう」


そう言って、ブラッドイーターは後ろを振り返る。


「死ね、ゴブリンの勇者達よ。

俺の新しい愛刀のために、剣の錆となれ。

全員かかってこい!お前らが生き残るにはっ!俺を殺す以外に選択肢はないぞ!」


……この後、精鋭ゴブリン100匹と食用ゴブリン200匹が、1匹残らず追い掛け回されて、殺害♫されたのは語る必要もない出来事だった。

こりぁ……スキルスロットのせいで、完全に道を踏み外しまくって社会性を全く身につけてないな……。

技能スキルで、索敵とか、剣術スキルを取得しちゃっている時点で、育った環境も容易く想像できる。

恐らく僕の予想では――ブラッドイーターは、略奪共同体に近い組織に育てられた元少年兵だ。

殺戮マシーンにならないと生き残れず、殺戮マシーンであるが故に社会復帰できない。

とんでもない社会不適合者である。


 

~ボツネタ~


……ところであっちで大きな煙が上がっているんだが、何があったんだ?


『モッフルが放火して、ゴブリン達を次々と崖から落としてますお』


殺ればできる奴だったんだな。

良い尻尾を持つ獣娘がいたら、モッフルに紹介してやろう。


ホワイト(師匠は相変わらず……酷いお方ですなぁ……

これで、もっと人格がまともだったら、ゴブリンのご婦人からモテモテでしょうに)






★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚)先生ー!

ホワイトの身体で技能スキル使えば良いと思いますー!

   


●(´・ω・`)他人の身体では無理ぞい。



★(ノ゚ω゚)(ノ゚ω゚) ちょ、おま、ホワイトの身体がガチで危ない!?

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