22話 焦土戦術

ブログバージョン

http://suliruku.blogspot.jp/2016/10/22.html


【犬さんは弓術スキルを取得した】




ゴブリンの村というと、どんな場所を想像するだろうか?

壁もない、無防備な家が立ち並んでいて、襲いやすい?

確かにそういう一面もあるが――ちゃんと防御拠点という奴が存在する。

村から少し離れた場所に山城を作って、緊急事態になったら籠城したりするのだ。


『堀がありますお』

『あんまり食料を備蓄してないから籠城すると餓死しますぞ』


普通に襲撃したら、籠城するゴブリンが大量発生して手間取る訳だが……僕はゴブリンの警戒網を、事前に調べて、完璧にすり抜けて、村を襲撃できるから特に問題もなかった。

奇襲で大混乱中のゴブリンなんて、僕達の敵ではない。

集団の力が逃げる方向に割かれて反撃されない。

逃げ惑うゴブリンの背中を射撃すれば一方的に殺せる。

ある程度、殺し終わったら、戦略輸送部隊に後を任せて倉庫から物資を運び出し、残った家屋を放火。

井戸にゴブリンの死体を放り込んで、病原菌で汚染すれば村の再興もできなくなる。

生き残りがいたとしても、この村の惨状を見れば逃げる事間違いなし。

……以上、スーパーイケイケ軍事指導者ワァンによる略奪講座でした。

一番良い方法は、相手を味方につけて、食料と労働力を供出させる方法が良いが、ゴブリンは交配もできない異種族だから仲間にするのが難しいし、焦土戦術という方針を考えると、今回はただの大量虐殺と放火が一番ポイントが高い。

どうせ、放置すると……大量繁殖して厄介な事になるだろうし。


【弓術のレベルが71になった】


でも、こうやって集落を10個ほど焼いて思った事がある。


「戦いは虚しいな……僕たちの生活を守るために、相手の生活を壊す……。

この矛盾が……戦争なんだ……以下略」


ふぅ、こういう発言をしておけば大丈夫だろう。

モフモフ教の預言者は慈悲深い人物像だという事が後世に伝わるはずだ。

異種族にすら情けをかけるとか、めっちゃ良い奴って評価されると思う。


『犬さん……村をたくさん焼いといて、その発言はねぇよー!ってツッコミ入れてほしいのかお?』

『うむ……後世の人物が聞いたら、人格がコロコロと入れ替わる奴だと言われかねないような……?』


大丈夫だ。後世の人は死者を数字扱いするから全く問題がない。

数字に人権なんてないんだ。

それにしても……この略奪はあんまり旨味がないなぁ。

備蓄倉庫にあるのは食料だけだし、家畜も少ない。

金目の物もなくて貧乏すぎる――僕のレンジャースキルが、後方から大きなオッパイと攻撃が来る事を察知した。

前方へと体を投げ出して回避する。

その直後に何かが高速で通り過ぎた。


「アホかぁー!」


どうやら、ナズニャンによるハリセンツッコミ攻撃のようだ。

三歳児が怪我しないように、ハリセンを使ってくれる所が優しいが、どうして攻撃するのだろうか?

やはり、村を丸ごと焼き払った事を恨んでいるのか?


「なんで回避するんや!?」


ナズニャンに、理不尽な事を言われた気がした。

彼女は猫耳をピョコピョコ激しく興奮させて、本気で激怒しているようだ。

僕は気付かない内に、彼女の怒りを買ってしまう行いをしたのかもしれない。


「いや、いきなり攻撃されたら回避するだろ……でっ?なんで怒ってるんだ?」


「ゴブリンは家畜として高く売れるんやで!

成人なら金貨50枚や!子供でも金貨10枚くらいの価値あるで!」


……どれくらいの価値なのだろうか?

金貨50枚って単位が不思議だ。

普通、独特な呼び方があるだろうに。


『ここらへんで流通しているのは、エルド帝国が発行する金貨ですお。

銀が無駄に混じっていて価値が低いですお』

『たぶん……日本円で1枚1万くらいの価値だろうな……』


安い。ゴブリンの価値が安い。

奴隷制度がある地域で暮らした事があるが、普通、奴隷って安くても200万円くらいするぞ……。

人間の4分の1程度の価値なのか。

きっと、ナズニャンは足元を見られて買い叩かれているんだろうなぁ……。

いや、難民ゴブリンがあっちこっちにいる時点で、家畜としてのゴブリンの価値が低すぎるのかもしれない。


「勿体ない!勿体ない!

ゴブリンは捕まえて売れば金になるのに勿体なーい!」


「いや……焦土作戦やっている最中だからな?

そういう奴隷売買とか、家畜売買は、全部が終わってからにしてくれ。

結構、輸送力に余裕はあるけど、戦場では何が起こるのか分からないんだし……」


「お金を舐めたらアカンで!

お金がたくさんあったら、傭兵を雇い放題やんか!」


「いや、信頼できない連中と一緒に行動すると、統率が乱れるから却下。

ただえさえ不利なのに、自分で敗北フラグ作ってどうする……」


「たった50人で戦うアンタよりマシやで!」


むぅ……この猫娘の扱いが難しい……。

胸は大きいけど尻尾がフサフサしてないし……。

平然とリーダーに抗議しまくる存在がいたら、統率が乱れる……。

戦争が終わるまで、縄で縛って村の倉庫に放り込んでおくべきだろうか……?


「ワァン様ー!来てくださいー!

このソーセージ美味しいですよー!」


モーニャンの能天気な声が響いた。

僕の脳裏に恐ろしいイメージが思い浮かぶ。

ソーセージは腸に、クズ肉を大量に詰め込んで作る保存食だ。

保存食とはいえ、生で食べて良い物ではない。

ナズニャンを放置して、僕は愛すべき狐娘の所へと走る。

そしてその現場には――生肉を美味しく食べる狐娘の姿が――なかった。


「良かった……ちゃんと焼いてから食べてるな」


ゴブリンの村の建材を燃やして、その炎でソーセージを炙って食べているモーニャンがいた。

彼女は僕の姿を見ると、木の棒でくし刺しにしたソーセージさんを掲げ、朗らかな笑顔で――


「ワァン様にあげるー。とっても美味しいよー」


僕は、何の肉で出来ているのか分からないソーセージを受け取った。

ちゃんと火で表面を炙っていて安全そうだ。

一口齧ってみた。中もちゃんと熱が浸透していて、よく焼けている。

味は豚肉に近い感じでアッサリしているが、使われている塩が少量すぎて物足りない。

贅沢を言えば胡椒が欲しい。


「塩が薄くて物足りないな……」


「贅沢言ったらあかん!

ゴブリンが塩を入手するの大変なんやで!

山の幸を大事にせんとバチが当たるでホンマ!」


ナズニャンが背後から追いついてきて、再びツッコミを入れてくる。

……塩は贅沢品か……懐かしいなぁ……。

僕が今まで生きてきた世界は、あの中国ですら塩の専売をやめて、安い塩が幾らでも入手できたからギャップがある。

獣人だって、人間と同じで塩がないと死ぬ。

それは何故か?

必要な栄養素の半分近くが、塩(ナトリウム)を含むミネラルだ。

一種類足りなくても、着実に肉体が死へと向かうのに、塩を全く摂取しない生活を送れば、偏った食生活をしたのと同じ事が起こり、ナトリウム不足を補うために骨は溶けるわ、精神は不安定になるわ、体調を崩しまくって人間は死んでしまうのだ。


『一行で説明できる内容だお……』

『塩は必要な栄養素だから、足りないと死ぬでいいような気がしますぞ』


「塩か……全部終わったら入手方法を考えるか……」


新しい問題に直面したような気もしたが、こうして僕達はゴブリンの集落を30ほど焼いた。

これでゴブリン略奪共同体は、僕達の村に真っ直ぐ来れない。

徒歩で5日以内に移動できる範囲に、利用できる村は存在しなくなったのだ。

共食いするなら兎も角として、40万匹が通過しようとすれば、ほとんどのゴブリンが餓死を経験する事になるだろう。

山の幸を利用すれば、もっと先へ進めるかもしれないが、狩りと採集に時間がかかって手間取るはずだ。

その稼いだ時間を利用すれば、幾らでも嫌がらせは出来――


『ゴブリンどもは暗黒神を崇めていて、非常時の共食いはOKですぞ!』

『弱ったゴブリンを殺して、無理やり長距離進軍するという凄い戦術を使いますお』

『人間より小柄だから、結構、低燃費で効率の良い生き物だったりするのだが……?』


最初に言えよ!?それ!

やばい!無駄に大量にいる戦略輸送部隊にやらせているゴブン街道の交通インフラ破壊じゃ間に合わないかもしれない!

僕も積極的に交通インフラを破壊しないと理想のモフモフライフが崩壊してしまう!




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弓術スキル


弓はとっても便利な武器なんだー。

音がでないから暗殺に便利ー。

複数の矢を持てば連射も可能なんだー。

慣れれば、はるか遠くにいる標的を、仕留める事ができるぞー。

化け物レベルになると、一人で一軍を足止めできるー。


養由基「一矢で複数の敵を殺せる道具だ!」


為朝「船を撃沈できるぞ!」

今まで取得した技能スキルまとめ + ゴミスキル

http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Game_fuu_sukiru/Ginou.html

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パルメ「世の中、思い通りにいかない事ばかり」


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