2-2:ソマリアの騎士

第十一話:騎士と名乗る義賊(Ep:1)

時刻二〇〇〇。

信濃 作戦会議室。

様々な役職の班長が着席する。

操舵士を兼任する航海長の航はCIC操舵士席からのオンライン出席となるが、それ以外は全員集まった。


艦長 神山 絆像。

船務長 舟守 勉。

砲雷長 棚田 進。

対潜長 米倉 孝。

機関長 渋丸 源次。

応急修理班長 香坂 狼牙。

艦載機航空隊隊長 有本 僚。

艦載機整備班班長 吹野 深雪。


オペレーターの桂木 優里も記録係と随伴艦への伝達係として参加している。

優里がアマテラスを起動したのか、彼女のすぐ近くに信濃の姿も見えた。

「艦同士ならアマテラスを経由して情報共有されているから、我々が話している内容は他の艦にも伝わる」

絆像がそう言うと僚は「え、他の艦にも搭載されているんですか?」と尋ねた。すると「え?」という反応を絆像が返し、それに対し僚も「え?」と返した。

何故か既視感を覚える応対である。

「日本海軍の戦艦、空母系統は大体装備しているぞ?」

そう言われ僚は「あっ、はい」と返した。

「それじゃ、会議を始めようか」

絆像はそう付け足す様に言った。

そして、会議が始まる。


会議題 『ソマリア周辺海域海賊・ゲリラ部隊鎮圧作戦に関する作戦会議』


「我々はこれより、海賊及びゲリラを鎮圧する為にソマリアに向かっている。

明日〇八〇〇にはソマリア周辺海域に突入する予定だ」

真面目な表情と口調で絆像は切り出した。

「作戦名通り、内容は海域内の海賊とゲリラの鎮圧だ」

そう言った彼に対し、僚が手を挙げ「質問よろしいですか?」と問う。絆像が「どうぞ」と返すと、僚は立ち上がり、聞いた。

「鎮圧と言いますと、可能な限り相手を傷付けない様に、ですか?」

「……そうだ。

可能な限り相手は殺さず、可能なら全員捕縛、拘束しろ。

これは殲滅作戦ではなく、鎮圧作戦だからな、と……特に何も無ければ言おうと思ってたんだが、先を越されたな」

「……すみません。

以後、気を付けます」

席に着く僚。

それを見届けると絆像は「それじゃ次に作戦の概要を説明するが、他に質問がある者は?」と尋ねる。

五秒間、誰も何も言わない様だった為、絆像は次に進むことにした。

彼は自身の席の背後にあるスクリーンを起動させ、パワーポイントを操作する。

「まず、信濃われわれの航空隊から少数の隊員で強行偵察隊を編成し、同部隊による索敵を行う。

発見次第、強行偵察隊は警告、もしくは威嚇。

何らかの反応があり次第、軽空母 祥鳳・瑞鳳・龍鳳らから艦戦隊を発艦し追撃。

艦砲射撃は可能なら行わないつもりだが、やむを得ない場合は射撃を許可する」

説明を聞きながらスクリーンを見るのだが何がどう書いてあるのか分からず、正直聞いている方が分かりやすかった。

「パワポ使用した意味無い様な……」

そう呟く僚に対し、深雪が小声で話した。

「……まぁ、この人はこういう人だから」

そう聞いて、僚は察した。


会議が終わり、時刻二一三〇。

信濃艦載機格納庫にて。

僚は航空隊員を集め、作戦の説明をした。

それの最後の頃、

「この作戦に於いて、二班、三班だけ防衛隊として陣営内に残って貰います」

僚がそう言うと「隊長さん、ちょっと質問よろしいかしら?」と聞いてきた。

三班班長 桃山 縁だ。

「どうして、私達は前衛に出さないのかしら?」

「こないだの戦闘を覚えてますかね?

海賊の騎甲戦車が艦を直接襲ってきました。

どれほどの巨大戦艦でも、肉薄されてしまえば蟻の一噛みなんとやらです。

陥落は時間の問題となるでしょう」

「……なるほど、意図は承知したわ。

でも、それならなぜ私達?」

「貴女の班にいる陸駆 雷花さんは射撃の名手です。それに、貴女自身も射撃が得意と聞いています。

ですので、防衛向きかと考えてこの配置にしました」

「成る程、了解したわ」

納得する様に、縁は切り上げた。

その時、僚が付け足した。

「それと、若干班員の変更をします。

一班所属景浦さんを防衛隊に、それから二班所属火野さんと、三班所属電子さんを強行偵察隊にそれぞれ変更し、航空隊予備兵のクラリッサを四班の指揮下とします」

それを聞いた回りがざわつく。

そんな中、幽は「了解」と応えるが、一方の電子は「えっ!!?わ、私ですか!!!?」と焦りだす始末。

ちなみにこの場にいないクラリッサ・能美・ドラグノフには僚が前以て言ってあった。

「電子さんは近接が得意なので、この配置にしました。

自軍艦上よりも空中や敵艦上の方が真価を発揮しそう、ということです。

それと、景浦さんは相手の死角を取るのが得意です。こないだの戦闘でもそれを生かしていました。

攻撃にも使えますが、防衛戦用としても良い戦力となると思い、そうしました」

僚がそう言うと、

「……了解です」

渋々とだが、電子は引き受けた。

「それでは、これでミーティングを終わりにします。

出撃予定時刻は明日〇七三〇。

〇五〇〇には起床、〇七〇〇までには機体のチェックを済ませる様に。

以上」

僚がそう言うと、隊員達は「了解!」と返事し、ミーティングが終わる。


次の日、時刻〇四三〇。

電子は早めに起きた、というかほとんど寝れなかった為に一人で機体チェックをし始めた。

すると「電子さん?」と後ろから声を掛けられ、

「はにゃっ!!?」

いきなりのことに驚いてしまう。

振り向くとそこには僚がいた。

「僚さん、起きてたのですか?」

「物音がしたから今起きたところだよ」

そう返され「え?」と首を傾げる。すると僚は「いや、コクピットで寝てたから」と返した。

そう言っていると「僚さん……」と不安そうな口調で電子は尋ねる。

「僚さんは、怖かったり、不安だったりしますか?」

そう聞くと僚は「……まぁ、多少はね」と答える。「多少、なのですか……」と返してしまう電子。

「電子さんは、って。まぁ、怖いよね」

「……はい」

そう電子が答えた後、僚は彼女にとあることを続けて言った。



時刻 〇七〇〇。

全員の出撃準備が整う。

後は、出撃の指令が来るまで待機。当初の予定通りなら、〇七三〇までには出撃命令が出るだろう。

各機のコクピット内にいる航空隊員達は誰もが緊張しているだろう。

その時、CICから通信が入った。

『まもなく作戦開始時刻です。航空隊各員、スタンバイ願います』

桂木 優里からそう伝えられ、僚は「了解」と返す。

超電磁投射艦載機発進器リニアカタパルト天之梯子に搭載され、待機中となっている試作三号機。現在この機体の後部───兵士形態時に左脚を形成するユニットの側面にやや大きめの装甲の様なものが装備されている。

試製四一式空戦騎用防盾。

懸架されているこれは、兵士形態時にマニュピレーターで保持して扱う様のシールド型の追加装甲だ。

『天之梯子 左舷側一番、リニアボルテージ上昇!

試作三号機、出撃準備テイクオフ・スタンバイ……コントロール権をCSコールサインA-03アルテラ-ドライへ移行』

了解オーケー出撃準備完了アイハヴコントロール!」

そして、


「有本 僚!

試作三号機、行きます!」


信濃の後部飛行甲板上にあるカタパルト『天之梯子』より、白い零式艦上空戦騎試作三号機が飛び立つ。


「双里さん、以下強行偵察班。

続いてください」

彼の姿とその言葉に続いて、


「了解、出撃準備完了アイハブコントロール

双里 真尋、行きますよ」


天之梯子 二番(右舷側)に懸架された二一型 双里機が発進する。

そして先程僚が飛び立った天之梯子 一番には物部機が射出態勢になり、二番は今景浦機が準備を始めている。

「も、物部 悠美……出撃します!」


さらにもう一ヶ所。


飛行甲板 


天之梯子の下の階層にも、発進口はあった。

武士之門モノノフノミカド 一番二番共にリニアボルテージ上昇、発進可能」

兵士形態限定でのみ、そこからは発進することができる。

直立発進スキージャンプ式超電磁投射発進器出撃口『武士之門モノノフノミカド』。


「火野 龍弥!

二一型、行くでぇっ!」


「陸駆 電子!

試作十一号機、出ます!」


それの一番発進口から龍弥の二一型、二番からは電子の試作十一号機が、それぞれ発艦していく。


『強行偵察部隊、発進完了。

続きまして艦隊防衛部隊、発進どうぞ』

優里がそう伝えると、


「城ヶ崎小太郎、発進する!」


城ヶ崎機と、


「桃山 縁、参ります!」


桃山機がそれぞれ発進し、滞空する。




そして、


「クラリッサ・能美・ドラグノフ!

T-34改ソルダット・ヴェールヌイ、出る!」


「陸駆 雷華!

試作七号機、出るわ!」


本来なら緊急発進用カタパルトとして使われるスーパーキャビテーション式水中発進口『忍之御門』から白銀色のT-34ソルダット・ヴェールヌイ、及び深紅色の空戦騎試作七号機が高速で射出された。

水面から二つの水玉が飛び上がり、一定の高さまで行ったそれらが霧散する様に静かに爆ぜると、白銀と深紅の各機体が現れる。

特に試作七号機の姿は出航前とだいぶ異なる印象となっている。

まず目立つ変化は、肥大化した様に巨大になった翼。

これは、本来なら弐〇式電磁投射砲が備わる位置には外側に可動型のバインダーを備えた巨大なブースターが備わっており、元々備わっていた空挺機動翼を機体から外して装備されたそれ大型ブースターの可動型バインダーに一度外した空挺機動翼を再度取り付けたものだ。

これが、追加兵装プランの一つ、高機動型追加兵装『始祖鳥装備ガスト』だ。

これにより通常追加兵装未装備状態と比べ最大で約三倍もの速度が出せる様になるが、彼女の機体試作七号機の場合はいくつかリミッターが備えられ本来の始祖鳥デフォルトの性能の三分の二程度まで落とされている。

その上でさらに、この機体には外から見るもの目を引くであろうもう一つの特徴がある。

電磁投射砲を失ったことで、手に握られて運用されることになった新たな得物───全長10.5mという機体の身の丈よりさらに長大な、艦砲をそのまま転用した様にすら見える狙撃銃スナイパーライフル

四一式120.0mm対物狙撃砲『大弩おおいしゆみ

かつて改二大和型超戦艦級の主砲用に開発された技術を転用したこの兵装は、最良条件下で最大出力で砲撃すれば11kmもの距離を約0.5秒以内というタイムラグなどほぼ存在しないといえる速度で可能だという。

とはいえ、あくまでそれはシュミレーション上での話であるが。実際に戦場で最大出力を出そうものならまず零の脆弱なフレームが銃から発生する反動に耐えられず、またバッテリー残量が即行で尽きるであろう。それが現状である。


それら二機共、甲板上に着地。

「僚、無事を祈る」

そう言い、クラリッサは空を睨んだ。

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