第九話:蒼海を征く砦(Ep:2)
信濃の副砲から五式弾が放たれる。
正式名称『五式対地焼夷弾』。
文字通り、対地上用の炸裂式焼夷弾だ。
水上でも一応効果はあり、艦の甲板を焼くことくらいはできる。
放たれたそれらは、着弾する前に爆ぜる。
話は変わるが、高雄型戦艦は変わった艦形をしている。
艦橋の両脇に主砲を搭載している上で、艦上構造物の前後に副砲が搭載されており、さらに主砲より副砲の方が大口径であった。
主砲は30.5cm連装砲。前部艦橋両脇に一基ずつと、後部艦橋両脇に一基ずつ、計四基八門装備している。
副砲は41cm三連装砲。艦上構造物の前後に一基ずつ、計二基六門装備している。
元々高雄型はミサイル巡洋戦艦として建造されており、初期 高雄ではミサイルポッドをこの配置に装備していた。
長門型戦艦や日向型戦艦に搭載されていたものを搭載したものらしい。元々改二大和型戦艦の主砲として開発された特殊火砲『電磁加速砲』を先述の艦艇の主砲として搭載した為、余った旧型の砲は専用のミサイルポッドが生産終了となった高雄型に搭載されることになったのである。
のだが、この艦の主砲である30.5cm砲も電磁加速砲であり、一発分の威力こそ劣るが、こちらの方が飛距離も集弾性も優れている上で小口径な分、装填数も多いなどのポテンシャルを持っている。
爆ぜた弾丸から吹き出した燃焼する燃料がそれぞれ那智と足柄の前方副砲付近に降りかかり、その甲板を焼いた。甲板からスプリンクラーが作動し、消化するべく水を振り撒くが、弱めるのが精一杯といったところの様子であった。
「これで一時的に前面の艦砲は使用不能になった」
その様子を確認しながらも、神山 絆像は指揮を続ける。
「副砲右舷一番から三番に五式弾を装填し、右舷四番、五番、左舷一番から三番に零式弾を装填!」
「了解」
応じた武彦はその通りに指定の砲弾を装填する。
装填が完了したことを武彦がサインで伝え、絆像はすぐに思考する。
「副砲左舷一番から三番は重巡を狙え。
右舷は全門、那智、足柄の二隻を狙う」
「了解」
武彦は副砲各門をそれぞれの目標に向ける。
「重巡達をまず黙らせる!
左舷副砲一番から三番、撃てぇっ!」
放たれる零式弾───正式名称『零式呂号気化弾』。
気化爆弾を弾頭部に装備している砲弾だ。
それらが軽く爆ぜ、その周辺に気化した燃料を撒き散らす。
「VLS左舷一番セル、シースパロー装填完了してるぜ!」
その時、統花が絆像に対し伝えた。
「よし!
シースパロー、撃てぇっ!」
絆像の指揮に合わせ、統花はシースパローを放った。本来なら対空迎撃用ミサイルであるシースパローだが、気化燃料を燃焼させるには充分な火力を誇っていた。
それが気化燃料の漂う空間に入ると同時に巨大な爆発が起こる。
タイミングや天候の関係によっては気化燃料が風等に流され、そこまで強力な破壊が期待できないことがある。実際、今の一撃は重巡三隻を沈めることはできなかった。
だが反面、沈黙させるには充分だった。
あくまで“仮想空間”なのだからここから追撃し撃沈してやっても良かったのだが、今は無効化できればそれで良い。
「あとは、戦艦二隻───」
絆像がそう呟いた直後、
「───
いつの間にか軽巡や駆逐艦達が
「CIWS、起動!」
「了解」
言われ、オペレーター席に座っていた桃山 縁が直ぐ様それらを『
超音速で飛翔する砲弾を、レーダーでは捉えられない。故にファランクスを元に一部を改変したこの改ファランクス式近接防御火器制御システム『
縁のキーボード操作により起動した艦橋脇の近接防御機関砲
戦艦二隻とさらに軽巡、駆逐艦達がVLSを起動し、無数のミサイルを放ってきた。
「航空隊!任せた!」
『了解!』
絆像の命令に、有本 僚は応じた。
『僕が電子さんと前衛に立ちます!
クラリッサは雷華さんと狙撃を!』
「Да(了解)!」
僚が命じ、それに応じたクラリッサ・能美・ドラグノフは信濃に向け機体を降下させた。
『他、二班は榛名及び三笠の護衛を!
それから、二班の指揮権を班長 城ヶ崎曹長に譲渡します!』
『了解した。
武運を祈ってるぞ』
応じた城ヶ崎 小太郎が『二班、続け!』と指示し、青雲 幸助、菅野 花梨と共に榛名の方へと向かっていく。
信濃 艦首部に降り立つ
雷華も、生身ながら艦橋部銃座から狙撃している。
「くぅっ!」
弩
残弾 0/15
弾切れを確認し、舌打ちしたクラリッサは弩を足元に置き一時的に放棄する。
なおも放たれ、向かってくるミサイル。
「Урааааа!」
吼えながらクラリッサは、肩部単装チェーンガンを射撃。
雷華も、弾を連射して次から次へとミサイルを落としていく。
一方で試作三号機と試作十一号機はというと、前衛に立ちほとんどのミサイルを迎撃していた。試作三号機が電磁投射砲・肩部機関砲・近接防御機関砲を
だが、それでも捌き切れないほどの厚い弾幕が信濃に襲いかかっていた。
と、そこにもう一機の零が現れた。
朱色の試作型───それは、翼のもげていたはずの試作九号機。
先程繰り広げていた水中戦の傷痕どころか、先日もがかれていたはずの空挺機動翼も完全に復活しているその機体の各部には大量の重武装が備えられていた。
『行ったれぇ───ッ!!!』
吠えながら試作九号機は大量のミサイルを撃ち出した。
追加兵装『
ミサイル発射管や電磁投射砲等、大量の遠距離武装を搭載した装備だ。雷撃手装備はこの火器を魚雷発射管に換装したものではあるが。
その三連装ミサイル発射管四基から二斉射で射出されたミサイル計二十四発は、それぞれが一匹一匹の蛇の如く別々の軌道を描きながら弾幕として拡散していく。
そして、最初の十二発が那智達の放ったミサイル群を撃墜していき、後からやってきた十二発が防御弾幕を複雑な挙動で掻い潜りながら敵艦の土手っ腹へと突っ込んでいった。
それにより那智が左舷前方主砲と左舷艦橋脇対空砲群を、足柄も前方副砲と右舷前方主砲をそれぞれ無効にされ、他の艦にも大なり小なりの損害を与える。
『ちょせぇ!』
決め台詞を吐く龍弥。
クラリッサはその光景を視界の端で確認していたが、それら龍弥が放ったミサイルの弾頭部にレンズの様なものが備わっていたところまで、彼女には見えていた。
「あれが噂の『
日本の技術力もそうだが、あれほどの数を操れるとは龍弥も中々に侮れないな」
その時、突然那智、足柄が行動を変えた。
VLSからシースパローを放ったのだ。演習なのを良いことに物量攻めなのは相変わらずだが、これにより狙われるのが信濃から航空隊艦載機に変わる。
信濃というか、その上にいるクラリッサ達に向かってきたものは雷花や龍弥が撃墜する。
クラリッサも今のうちにと弩を拾い、空になった弾装を廃棄すると腰部に備わっていた予備のものに交換する。
だが、芳しくない状況が目の前で繰り広げられていた。
試作三号機は弾切れを起こしたのか射撃をしなくなり、一方の試作十一号機も先程から射撃を行う気配がない。さらには、どこからかはともかくいつの間にか現れていた戦闘機達に群がられている。
まずいか、と思ったクラリッサの前で試作十一号機が予想外の行動に出た。
試作三号機に抱きつき、そのまま霧揉み回転しながら飛行し始めたのだ。
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