第六話

朝のホームルームが終わってしばらく待機して廊下に並び、体育館へ移動している途中から…


「オラ、ワクワクすっぞ!」


悟〇のマネをしながら前に並んでいる大西がはしゃぎ始めた。しかも似てる。


「俺もだが声のトーンには気を付けろよ。静かに移動って言われてるからな」


「分かってるって。ま~かせなさ~い」


今度はル〇ンっぽい口調になった。こっちも似てる。


「お前モノマネ得意なのか?」


「声音こわねだけならできるぞ」


「へー。誰得だよ?」


「まぁ、宴会ネタだな」


「宴会参加したことあんの?」


「ない!」


自信満々に言われても…。


「ほ~い。体育館はいるからもうそろそろ静かにね~」


先生にそう言われ視線を前に戻すと、もう目の前が入り口だった。


(毎度ながらどんな人たちがいるのやら…。それに先生が朝言ってたことも気になるし…。まぁ後一時間もすれば分かることか)


この時はまだ、あんなことを宣告されるとは思っても居なかったのだった…。



 文化部の手作り感満載のフリップや、各種武道部の型、運動部たちの正直言ってあんまり面白くない茶番を鑑賞しつつサバゲー部の登場を待つ。


〘次はサバイバルゲーム部の紹介です〙


進行を担当している先輩がそう告げると突然体育館の前半分の電気が消え、舞台上に大きな白い紙が設置された。

あまりに突存消えたので一年生がざわつく。


「楽しませてもらおう…」


大西が悪役のようなセリフを吐いたのは置いとくとして…。

騒がしい周りとは違い普通の紹介じゃないだろうと考えていた俺と大西は静かに待つ。すると、舞台の前のある左右の扉が一斉に開き、陸上自衛隊の迷彩服を着て目だし帽を被った集団がそれぞれ二人づつ突入してきた!


「え!?何!?」


「何だあれ!」


「あれジエータイじゃねーの?」


「なんでこんなところに?」


と、思い思いの感想を述べる。

大西の反応は…、まぁ、なんだ、言わなくても分かるよね?

突入してきた部員たちは一年生の列の前まで走ってくるとこちらに背中を向けてしゃがみ舞台上にある大きな紙に向けて手にしている89式小銃を発砲し始めた。

シュパパパパパパパという電動ガン特有の射撃音が終わると、消えていた電気が着いた。暗い所に目が慣れてしまっていたせいで初めは見づらかったが、慣れてきて前を見るとあらビックリ!

舞台上の紙には、


    サバイバルゲーム部


の文字が発射された弾で書かれていたのだ。すげー…。


ザワザワ… ザワザワ…


「おー、字を書いてたのかー。すげー」


ヘイユー、注目すべきはそこじゃないぜ。電動ガンで字を書いたのも確かにすごいが、本当にすごいのは照明が半分消えてる中でこれをやってのけたってことだ。

って、大西が隣の奴に説明している。いきなり解説しだしたもんだから隣の奴困ってるよ。気づけ。

だが確かに体育館だけでなく舞台の照明も消えている中であれをするのは至難の技だ。たった四人でやってのけたサバゲー部の先輩方っていったい…。

周りが呆けているのを他所に突入してきた部員たちは舞台に上がる。うち一人がヘルメットと目だし帽を取り、マイクに近づいた。


「皆さん、どうもこんにちは。サバイバルゲーム部部長の永原ながはらです」


ほー、あれが部長氏か。

現れたのは耳に掛かるくらいの長さで切りそろえられた髪、そして表情は常に笑顔を浮かべた身長百七十より少し大きいくらいの優男だった。つまりイケメンである。


「あの先輩よくなーい?入ってみよっかなー?」


案の定女子がつられ始めた。

新入生のザワつきが収まるのを待たずに永原部長が話を続ける。


「我々サバゲー部は見ての通り三年生が卒業してしまったため現在四人部員がしかいません。初心者も歓迎していますが、サバイバルゲームの大会は最長三日間続くゲームもあります。そのため入部には体力テストを受けてもらいますが、即戦力になるサバイバルゲーム経験者や無線機などの通信機器資格を持っている方は優先して入部することを許可します」


入部試験?それがあるから入部希望者が集まりにくいんじゃ…。俺らは関係ないようだけど。


「三日間とかツラー。やっぱやめよう」


「興味はあるけど体力テストはダルイな」


サバゲー部の意外な過酷さを聞いた生徒たちは早々に興味をなくしたようだ。


「短いですがこれで紹介を終わります」


〘これで全部活の紹介を終わります。新入生は担任の指示に従いクラスごとに教室に戻ってください〙


アナウンスが入り俺たちは教室に戻ることとなった。



「どう思った?」


教室に着いた途端大西が聞いてきた。


「予想以上の錬度だった」


見て思ったことをそのまま伝える。


「だよな。俺も正直なめてた。まさかあれ程とはな…」


「でも少しは楽しくなりそうだな」


「まぁな、あの三日間の試合ってのも気になる」


「確かに、それな…」


ここまで話したとこれで先生が入室し二枚のプリントを配った。それぞれ各部活の説明会場が記された物と仮入部届だ。

あくまでも授業中だから静かに移動しろだとか多少の注意事項を言われた後、大岩と合流してサバゲー部の会場へと向かう。


「にしても入部試験があるとはなー」


大岩が意外そうにつぶやいた。


「確かに意外だが、人数がいない上に大会もあるんだから確実に成果を残したいのなら仕方ないのではないか?」


「でもそのせいで入部希望者が減ってるっていうのもあるんじゃない?」


大西の答えに俺は紹介中に思ったことを言ってみた。


「だろうな~。もしかしたらある意味それが狙いかもな」


「どういうことだ?」


大岩が意味深なことを言いおった。


「遊び半分や幽霊部員をなくすためか?」


俺が思い付いたことを言ってみると…、


「そういうことさ」


「フム、なるほど」


サバゲーに興味を持ってくれるのはいいけど、真剣に取り組んでくれる人を集めているって訳だ。


「ていうか教室何処だっけ?」


「体育館の舞台側の右端」


「そっかそっか。サンキュー」


大西が確認してからは時間のこともあり少し急ぎ目で体育館に向かった。

立ち話をしていたので着いたころには体育館の入り口が詰まって前に進みづらくなってしまってる。元凶のDQNのみなさん、気づいてください。


「なかなか進まんなー」


大西が眉間にしわを寄せ呟く。


「体育館で説明会を開いてる部活がほとんどだからな。仕方ないさ」


大岩が諦めろと言わんばかりに肩をすくめた。


「お、先頭が動き出したようだぞ!」


大西が背伸びをして前を見て報告してくる。口調から察するにテンションも上がったようだ。

渋滞から抜け出してサバゲー部ブースに向かうと予想外な先客がいた。


(女子か…?)


そう、女子生徒がいたのだ。それも二人。右側に座っているのはスポーティーな短髪の髪型、左側はセミロングでどちらか言えば運動は得意ではなさそうに見える。後姿だから詳しい判断はつかないが…。


「ほー、予想外だな」


大岩も俺と同じことを思ったらしい。


「うーん、レベルはどれくらいかな?」


大西が興味ありげに呟いた。この場合のレベルとは容姿ではなく運動能力の事を述べているということを大西に代わり伝えておく。


「会話をチラッと聞いたけど、右の子が知識はあるけどやった事ない、左の子は経験も知識もないそうだ」


耳の良い大岩が答えてくれた。ていうかこんな騒がしい体育館でよく聞こえたな。俺なんて断片的にしか聞こえなかったのに。


「それ左は試験で確実に落ちるんじゃね?」


などと失礼なことを大西が言うので、


「経験も知識もないが、アマチュア無線の免許を持っているそうだ」


と付け足すと、


「そいつはすげぇ!通信兵だ!」


と余計にテンションをあげた。




 先ほどの女子二人組が終わって俺らの番になった。ちなみに他の入部希望者は確認できない。

机を二つ並べて紹介で挨拶をしていた部長氏の他に、肩くらいまで伸びた髪を首のあたりでツインテにしている女子部員(しかも可愛い)と、ガタイの良い身長百八十センチくらいのボディーガード(迷彩服&目だし帽)が立っていた。こわっ。


「こんにちは。説明希望ですか?入部希望ですか?」


部長氏があいさつの後いきなり二択で聞いてきた。


「もちろん入部で」


大西がキリッとした顔で答える。


「サバイバルゲームの経験はありますか?」


「三人とも経験者です」


俺が答える。すると『ほぅ』という感じの表情になり、


「メインアームとサブアームを教えてください」


今まで静かだった女子先輩がメモ用紙とペンを手に取り聞いてきた。


「メインは89式小銃、サブはUSP」


と大西。


「メインがM4、サブがM92F」


と大岩。


「メインアームがG36K、サブアームがP226Rです」


と最後に俺。


「ふんふん、結構です」


メモを取り終えた女子先輩はメモ用紙を千切るとファイルに挟んだ。チラッと一年、二年、三年、という区分けが見えたことから名前と装備を部員分個別に管理しているようだ。


「へー。個性があって何よりだねー」


「経験者は入部試験なしなんですよね?」


大西が部長氏にすかさず確認をとる。


「そうですね。基本はそうです」


「基本ってどういうことですか?」


気になったので率直に聞いてみた。


「新入生には例外なく、新入生同士で学校の敷地の一部である山で頭に小型カメラを付けた状態でFFAをしてもらいます。」


「「「!?」」」


『FFA』とは『フリー・フォー・オール』の略称であり、FPSを嗜たしなんでいる同志諸君ならすぐにわかるだろう。簡単に言えば自分以外全員敵という潰し合いである。


(個々(ここ)の適正を見るのか…)


目配りをして直感的にそう理解した俺たちは気分が高揚するのをお互いに感じ取った。でもそれって…、


「でもそれじゃ前にいた女子生徒が不利じゃないですか?」


大岩が俺の疑問を代弁してくれた。


「いつからただのFFAだと錯覚していたんだい?」


「「「!?」」」


ここにきて二度目の驚愕。


「つまりそういうことだよ」


まさか…、


「このFFAは我々オリジナルルールです。ただのFFAをしても面白くないでしょ?」


「そのルールとは?」


大西が恐る恐るといった様子で聞いた。


「今ここでは明かせないよ。詳しい説明は全体の入部試験が終わってからね。では時間も来たことですし、そろそろ次に回しましょうか」


女子先輩が俺たちの後ろに視線を向けて切り出した。

後ろを見ると一人の女子生徒が座っていた。


(あれこの娘こどこかで…)


「ありがとうございました。おい、陣、行くぞ」


「お、おう。ありがとうございました」


そんな俺の疑問を他所に大西が俺の腕を引っ張ったのでこの疑問は強制終了されてしまった。




「特別ルールかー。超楽しみ!」


「だよなー今からでもみなぎってくるぜ!」


「せやな」


帰りのホームルーム終了後、俺たち三人は下駄箱に向かう途中、今日の説明のおかげでテンションが上がりっぱなしだった。だって特別ルールですよ?特別ルール。展開が予想できないゲーム程楽しいものはないでしょう!

しかし、盛り上がる俺たち横で心配そうな顔を浮かべる大岩の存在に、この時の俺と大西は気付かなかった…。

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