第四話

「高校どんな感じ?」


とりあえず無難なところから。


「んー?特に変わったことはないかな…てか、今日が初日だし」


「あー、そうだよね。あはは…」


「そっちは?私立は一日早いんだろ?」


「うん。まだ話してない人もいるけど、高校デビューは順調だよ」


「そっかー。順調かー。部活とかはどうすんの?」


次に何を話そうか悩んでいたところに、陣が話題を振ってきた。


「まだ決めてないかな。陣は?」


「サバゲー部!」


間髪入れずに帰ってきた。予想はしてたけど。


「そっちの学校にはサバゲー部あんの?」


興味津々に聞いてくる。


「えーと、確かあった気がする」


うろ覚えのパンフレット情報を頼りに答える。


「へー。私立の女子高にもあるんだー」


関心したご様子。


「活動してるかどうかは分からないけどね」


不確実なので一応付け足しておいた。


「その時は澄香が立て直せば良い」


至極真面目な顔して言ってきた。


「えー、やだよー」


流石にそれはちょっと面倒くさい。確かにサバゲーはやるけど。陣程じゃないけどね。


「えー…」


そんなショックを受けた顔をされても困る。


「じゃあ今度サバゲー行こうぜ?」


「どうしてそうなる⁉」


「だって最近行ってないし」


「だからって、なんで私?」


「最後に二人で行ったの、半年前か?」


「そのくらいだと思う」


「久しぶりにさ、行こうぜ」


「まぁ、いいけど…」


はぁ…、私って陣の押しに弱い…。


「よし!日程は追って連絡する!」


でも、喜んでる陣が見れたから、良いかな?


「お待たせ致しました。こちら若鶏もも肉のドリアとツナパスタと、ナポリピザでございます。ご注文以上でよろしかったでしょうか?」


話し込んでいると料理が運ばれてきた。うーん、とてもおいしそう。


「はい。大丈夫です」


「ごゆっくりお楽しみくださいませ」


一礼して店員は去って行った。


「よし、早く食べようか」


空腹の陣がせかす。


「そうだね。いただきます」


陣も、いただきますと言い、少し遅めの昼食を食べ始めた。




    ‡   ‡   ‡   




(ちょっと強引だったかな?)


よく火の通ったもも肉を齧りながら、先ほどの会話を思い出す。

二人きりでこうやって過ごすのが久しぶりだったから、ついテンションが上がってしまった。しかもそのノリで共同出撃の約束まで取り付けてしまった。


(帰ったらフィールドと定例会のチェックだな)


と言っても調べるのはいつも行く最寄りの森林フィールドだが。


(久しぶりの共同出撃か…気合い入れねーとな…)


次の出撃がいつも以上に楽しみな俺であった。




    ‡   ‡   ‡   




 料理が運ばれて来てからも休むことなくしゃべり続けた。

初めて入ったお店だけど雑誌の評価通り、店員さんの対応もいいし、料理の味も良かった。ただ少し物足りない気もしたのでサラダを追加注文した。


「この後はどうする?」


陣がサラダをつつきながら聞いてきた。


「えーと、特に決めてない」


計画性がなくてすいません。


「まだ時間あるし、このまま帰るのもあれだから、越前屋行く?」


 越前屋とはサバゲーグッズ全般を扱っているミリタリーショップのことだ。

国内電動ガンだけでなく海外製も扱っていて、それらが手ごろな価格で手に入ることから、その手の趣味を持つ人たちにはとても人気がある。さらに日本全国に支店がある大手の会社なのだ。

最近行っていなかったこともあり、陣の提案に私も乗ることにした。久しぶりに迷彩服を眺めるとしよう。


「いいよ。特に買うものもないけど」


「じゃあ、決定で!」


普段なら行く先を決めるのが遅いのだが、今回はすんなり決まった。そして、決まってから行動に移すのが早いのが私たちなのだ。

素早く会計を済ませ(カップル限定割引チケットを店員さんから笑顔で二枚渡された)、駅に向かう。


「どうしよう…このチケット…」


戸惑う私に陣は、お互いに一枚ずつ持っておこうと言ったので、そうすることにした。ちょっと恥ずかしかったけど。

 駅に着いたらちょうどよく電車が来ていたので、階段から一番近いドアに入った。


「到着予定は大体十分後かな」


陣が携帯で時間を確かめながら報告してきた。


「そっか。今のうちにサバゲーの日程決めない?」


予定は早いうちに決めておいた方がいいだろうし。


「それもそうだな」


陣も同意してくれたので空いてる日を確認する。


「次の日曜はどう?」


「それはちょっと急だなー。月末辺りは?」


「いいね。じゃあ月末で」


予想より早く決まった。


「何買おうかなー♪」


「何がほしいの?」


「MP5かな」


「買うようなお金持ってんの?」


「持ってないです…」


「ダメじゃん」


ちょっと吹いてしまった。

「笑うなよー」


「相変わらず計画性がないね。人のこと言えないけど」


「だってカドイが次から次へと新作出すから…」


「まぁねー、CM見るたび陣が欲しそうだなーって思うもん」


カドイはトイガンの大手メーカーで、低価格で安定性の良い品質から初心者でも安心して買えるのが特徴。種類も豊富で電動ガンだけでなく、ガスガンも人気がある。


「だろー!全くカドイは俺を破綻させる気か…!」


「自分のせいでしょ…」


苦笑いで突っ込みを入れる。


「うっ、それはそうと、澄香は何か欲しい物ある?」


「今は特にないかな」


「そっかー」


「仮にあったら買ってくれるの?」


「まぁ、ガスガンくらいの物なら……、ただし今は無理だぞ?」


「分かってる。誕生日期待してるよ」


「それまでには欲しい物リストを作っておくよ…」


私が陣の財布を苦しめることになるのを懸念したが、この好意には甘えさせてもらおう。


《間もなく、八やつ成なり、八成、です》


他愛もない会話を続けるうちに目的の駅に間もなく到着することをアナウンスが伝えてくる。


「もう着いたか」


「そりゃ四駅しか離れてないからね」


「それもそうか」


電車の外はさっきまでは目で追うことも出来ない速さだったが、もう目で追えるスピードまで落ち、駅であることが分かる。

ドアが開くとぞろぞろと乗客が降りて行った。はたしてこの中に同じ目的の人は何人いるのやら。

改札を出て五分程歩いたところに越前屋はある。一階と二階はトイガンなどの販売が行われているが、三階はシューティングレンジになっていて、買った銃をすぐに調節出来るようになっている。ちなみに同じ目的の人はいなかった。


「いらっしゃいm…、おぉ、久しぶりに来たなー。しかも二人揃ってー」


陣はここの店長さん(四十二歳)とは知り合いだ。確かサバゲー中に知り合ったのだとか。私もちょこちょこ指導を受けたしこのお店を利用しているので面識はある。


「久しぶりです。テンさん」


陣が軽く挨拶をする。


「デートか?うらやましいなー。若いって」


「そんなんじゃないっすよ」


笑いながら陣が答えた。ちょっと複雑。


「まだ付き合ってないの!?陣には特別指導が必要かな?」


店の奥から別の店員が顔を出した。この人は確か…、


「タクさんやめてください。冗談に聞こえないです…」


陣の顔が若干青ざめてる。何をされたのだろうか…。

彼は元自衛官で本物の銃を扱っていた人だ。ちなみに使用しているトイガンはもちろんカドイから出ている89式小銃。もうすぐ三十歳になる。


「それでも男かよ!まったくなさけねーなー!」


「タクさん、冷やかしはその辺にして作業してー。澄香ちゃんの顔が赤くなってるからー」


「わ、私は別に…」


「ほーい。がんばれよー。陣ー。またねー澄香ちゃん」


テンさんに言われて奥に戻って行った。


「この店に来ると毎回こうだよなー…」


「陣もそうなの?」


「あぁ、大体こんな感じだ…。お前も?」


「うん…」


二人で来るのは今回で三回目だが、初めて来たときは嫉妬したタクさんが陣に89式小銃を向け、それを見た他の店員が便乗してタクさんにハンドガンを向けて茶番が始まるというちょっとした騒ぎになった。


「んで、今日は何を買いに?」


テンさんが陣に聞いた。


「あー、今日は特に何も。二人で昼食べて時間があったから寄ってみただけです」


「それを世の中ではデートと言うんだぞ」


「そうですか…」


そういう反応に困る会話を目の前でするのやめてくれます?


「まぁいいや。ごゆっくりー。いらっしゃいませー!」


半分ニヤケ顔で接客に戻って行った。


「ここに来るだけで疲れるな…」


陣がため息交じりに呟いた。


「だね…」


全く同じことを思っていたので同意した。


「気を取り直して…、俺はいつも通り銃を見るけど、澄香はどうする?」


「私は迷彩服を眺めるよ」


いくらいじられようとも私の当初の目的は変わらない。迷彩服を見て、それにどんな色のタクティカルベストやチェストリグを迷彩効果的な意味でもファッション的な意味でも合わせるか。自分で言うのもなんだが私は無駄にこだわっている。


「じゃあ一時間後にここを出ようか」


なぜ時間を決めるのかって?そうしないとお互いに時間を忘れて見入っちゃうからだよ。みんなもこの気持ち、分かるよね?


「そうだね。そうしよう」


陣の提案に同意して、陣は銃のショーケースに、私は迷彩服売り場に向かった。

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