フェイズ6:そして、“いつもの”風景

「……そ、そんな夢を、見まして。フ、フヒッ」

「お前、すげぇな。自分がヒロインかよ……」


 朝。

 FH所属のオーヴァード、“マスターグレイヴ”墓守清正と“ネズミ”は、食卓を囲みながら、他愛のない会話をしていた。


 今朝の話題は、ネズミが見たという夢の話。

 話下手な彼女のこと、所々でつっかえ、話が前後した。

 だが、総合すると、


「別の歴史を辿った現代で、UGN所属のマスターと、ヒロインである自分が出会って活躍する話です! フ、フヒヒヒヒ……!」


 と、なる。

 かなり恥ずかしい。


「闇に生きるマスターを颯爽と助ける、光の、て、天才美少女ハッカー……フヒッ」

「出来過ぎだろ。話、盛ってね?」

「ほ、本当に見たんですって! 調べたら、先日から、か、各地でオーヴァードが同様の世界に関する夢を見たって報告があって。かの有名なソフィア・ウィルキンス博士によれば、オルタナティブな可能世界のひとつに夢という形でリンクして―――」

「早口早口」

「あううっ、すみません……」

「いいから早く食べろ。あーもう、こンな時間か。中学校、電車だと遅刻だな」

「あわわ……ど、どうしましょう」

「しゃーねぇ。バイクで送るわ。……ンだよ、ニヤニヤして」

「フ、フヒヒ……マスターに送ってもらうと、結構目立つんですよね。ク、クラスの友達に、あの人は誰って聞かれたり、とか」

「はン。そいつぁ面倒だな。離れたトコに止めっから、少し歩け」

「いえっ! い、いいんです! 正門の近くで……」

「噂のネタになったら、迷惑だろ?」

「迷惑じゃ、ない……です。友達とお話する、いいきっかけになりましたし……」


 友達。お話。いいきっかけ。

 誰の口から出た言葉だ? ネズミだ。

 墓守の口の端が、自然と綻んだ。

 仮とは言え公的な名(塚杜望つかもり・のぞみ)と、14歳という年齢に相応しい交流の場(私立の中学校)を与えたのは正解だったらしい。

 そしてそれは、ネズミのみならず、墓守の心をも荒廃から救っているのだ。


「ま、いいならいいさ。ともかく、行くぞ。行って、楽しンで来い。明日からはしばらく“休み”になっちまうからな」

「はいっ。任務、ですもんね!」


 間もなく、FH構成員としての時間が始まる。

 某所に眠る“遺産”を巡り、UGNの名高き特殊部隊“ナイトフォール”との衝突が予想される、タフなミッションだ。

 それは、ヒーローでもヴィランでもない、日陰者同士の、闇の争い。

 どんな世界だろうと、超人どものショーは終わらない。終えられない。


「ごちそうさまでした! それじゃあ、部屋からカバン、取ってきますね!」


 とてててて……小走りに去ってゆくネズミ。

 その背を眺めながら、墓守は呟いた。


「ったく。何がレネゲイド・ウォーだ、ヒーローとヴィランだ。俺がUGNの始末屋とか、冗談キツイぜ。そンな夢―――」


 深い、深い溜息を付いた。

 まったくもって、悪い冗談だ。

 自分のほうから話さなくて、本当に良かった。


「昨日、俺も見たっつーの」


(完)

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