第8話







「……っ…!」



酷く小さく震えた声。

だけど、その声色は赤と黒。


怒りと憎しみだった。



「お前なんか、親友でも何でも無い」


「…ま、待って…。結し…」


「俺の名前を、二度と呼ぶな。俺に…二度と関わるな」






それが、俺と愛する人との最後の会話だった――――







俺は、溜息をひとつ吐く。

卒業式の今日にまで、こんな事を思い出すなんて。

未練がましいにも、程がある。


あれから、俺と結城は絶交となり。

クラスが別れた事もあって、二度と関わる事は無かった。



でも、俺は知っている。

放課後に、彼が体育館裏に通っていた事を。

後ろからこっそり、覗いていたんだ。


俺が、枝を折ってしまった桜の木。

桜の木は枝を折ると、そこから腐ったりしてしまうらしい。

そういえば、花見客へのそういう注意が、あった気がする。



結局、あの木は枯れてしまった。

結城が、一生懸命に手を掛けたけれども。

俺のせいで、全てが無駄に終わった。


その時、また結城は泣いていた。



俺が、泣かした。

二回とも、俺が泣かしたんだ。

でも、それは別のものの為で。


結局、俺は何ひとつ敵わなかった。

あの木は何もしなくても、好かれたと思っていた。

でも、それは違っていて。









あの木は、結城を傷つけたりしなかった。


あの木は、結城を幸せにしていた。








「…結局、俺が駄目だったんだよなぁ…」


「ん?どうした」



俺のぼやきに、いつもつるんでいる奴が、尋ねてくる。

俺はそれに苦笑して、何でもねーよ、と答えた。






でも、このままじゃ終われない。

終わりたくない。





「俺、ちょっと寄る所あるわ。先行っといてくれ」


「は?もう式終わったんだぞ。飯食いに行こーぜ」


「後から合流する。んじゃ」


「えっ、ちょ…中橋!?」



後ろから聞こえる、慌てた声。

俺はそれに振り返りもせずに、走った。


体育館裏。

そこにきっと居るであろう、彼の元へ走った。






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