第6話








たった一人。

結城に愛されれば、それで良かったんだ。

それだけなのに。


決して叶わない。

憎い。目の前のこれが。

憎くて堪らなかった。



思わず伸びる手は、細く頼りない枝に触れる。

ぎゅっと握ると、ある感情がぶわっと沸き起こった。








一本だけ。一本だけで良いから。

…この木を、傷つけてしまいたい。







――あっ、…



はっと気づいた時には、もう遅い。

ポキッ…。


俺の手には、折れた桜の木の枝。

先には、沢山の花が付いている。

蕾だってあった。







俺の手には、俺が殺した命があった。







そこからは、何も考えられなくて。

ゆったりと腕を動かしては、ひとつまたひとつ、俺は枝を折っていた。


その度に、花達が一緒に揺れて沢山散っていく。

本当は、まだ生きてた筈なのに。

折られてない他の枝に付いていた花びらさえも、反動で死んでいった。



地面には、花びらと共に枝も沢山落ちていて。

根の近くの土を踏みしめながら、俺は色々な所の枝を折っていた。

そんな俺が、我に返ったのは









「……中橋?」








「…あ……」



愛しい人の、冷たい声が聞こえたからだった。






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