第4話





「もうすぐ咲くと思うんだ。蕾がたくさんあったし」


「…そっか。楽しみだな」



もうすぐ俺達は、三年生になる。

春休み間近の昼休みに、結城は嬉しそうに話した。


彼の愛する桜の木は、俺らと同じ年にこの高校に来たらしい。

一度、結城と一緒に見に行った事があって、その時に聞いた。

…どうしてそんな事を知っているんだ?

本人に聞くと、生物の横山先生に尋ねたらしい。



口下手な彼が、教師に質問するなんて。

そんなに桜の事が、知りたかったのか…。

勝手に気づいて、勝手に苦しくなった。


俺は、結局叶わない恋を二年間も続けていた。

そして、もうすぐ三年目に入ろうとしている。

嬉しくない。

ただの馬鹿だ。



もう嫌だ。

俺、植物のこと嫌いになりそう。

1人で居ると、近くに生えてる草とか花とか、思わずちぎってる自分がいる。


自然破壊。

そもそも、それらに罪は無いのに。

駄目な事をしているのは、わかっている。

でも…だからといって、俺はどうすれば良い?







結城は、決して俺を見てくれない。






さっさと離れれば良かった。

親友という、この位置が苦しい。

でも



「樹木性愛の俺を、受け入れてくれるのは中橋だけだよ。ありがとう…」



そう言って、優しく笑うから。

俺はその笑顔が見たくて、未だに隣に居続けている。






でも、段々と抑える事が出来なくなって。

あの事件を、引き起こしてしまった。



その日は、結城は委員会の話し合いがあって、俺は教室で1人待っていた。


そこで、ふと思い出す。

あの桜、もうすぐ咲くとか言ってたな…。

忌々しい恋敵だけど、元々は桜が好きな俺。

丁度暇だった事もあって、少し見に行ってみよう。



そう思って、ふらりと体育館裏へと向かった。



今の俺が過去に戻れるなら、一年前の自分を、全力で止めていた。

止めておけ。

お前はそこで、取り返しのつかない事をする。






結城を泣かしてしまうから、止めておけ。





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