お気持ち爆弾

こむらさき

点火

「ミーくん! 会いたかった」

 

 半年ぶりの再開。ミカさんは東京駅のホームで待つ俺を見つけると笑顔で手を振りながら駆け寄ってきた。

 東京と大阪での遠距離恋愛を続けて何年だろう。

 最初の4年くらいは確か毎月デートをして、僕が就職して忙しくなってそれが3か月に一回になって、毎日していた通話も僕が友達とルームシェアを始めてから徐々に頻度が減っていった。今ではほぼ電話はしてない。

 半年に一回会うかどうかになって1年。相変わらず僕はミカさんに会う3日前になるとなぜか熱が出るし、胃もしくしくと痛みだす。

 嫌いなわけでもないんだけど、ミカさんももう38歳。アラフォーって呼ばれる年齢なんだよな……とか、後輩に子供が生まれてって話をメールでされると気が滅入るし、会った時も彼女の目元とかにうっすらある皺を見つけて心が痛むようになっていた。


「久しぶり。会いたかったよ」

 

 恋人にかけるには当たり前すぎる言葉を言うにも少し心に引っ掛かりを覚えながら、笑顔で駆け寄ってくるミカさんに僕も笑顔を返す。

 そしていつも通り、僕が使う財布をミカさんから受け取ると僕はされるがままに彼女に腕を組まれた。

 僕だってもうすぐ20代半ばなんだよなぁ……。

 彼氏ごっこをして、昔は確かに好きだったけど今ではしたくてしてるわけではない男装をし続けて、こうして彼女の財布からいかにも自分が出してるようにお金を払ってってのがもしかしてこれからずっと続くのかな……。


「あー! なんか暖房効いてて熱いしお酒飲みたいなー!」


 こころにも無いことを言って酒を強請る。だって酔ってないとこころが持ちそうにないから。



「とりあえずビールかっていい?」


「もうー! 仕方ないな。買っておいで」


 走って駅のコンビニに向かい、他人のお金だからと思い切って恵比寿を買う。

 目の前がゆっくり暗くなっていくような感覚に襲われそうになるのをごまかしたくて会計を済ませてコンビニから出ると、すぐ僕は買ったビールを喉に流し込んだ。


 クリスマス前の連休。

 保育士をしているミカさんはそれを利用して東京まで来てくれた。

 例年は僕が大阪まで行くんだけど、今年は彼女は好きなバンドのライブが東京であるからということでこっちでデートをしようということになったのだ。

 本当は、僕がなかなか休みが取れなくてそっちにいけないとデートを断り続けていたので口実をつけて東京に来た気がしないでもない。


 今日も、僕は夜から本当は予定が入ってて、少しいいなーなんて思ってる先輩がお店で誕生日パーティーをするからおいでって言われてたんだけどって「いいなーって思ってる先輩」の部分を伏せて伝えてたんだけど「ミーくんのお友達に会ってみたい」って一緒に来るご意向を示されたので、それなら……と渋々半年ぶりのデートをセッティングしたんだ。


「ライブ楽しみだね」


 嬉しそうに笑う彼女は、きっと半年間僕とのデートを楽しみにしてたんだろうなとか、僕のために一生懸命オシャレをしてきたんだろうな。嫌いではないし、それはうれしいんだけど、やっぱり僕は彼氏の代わりにされ続けることはつらくて、彼女といるのに心から楽しめないどろこか少し……いやかなり憂鬱になっている自分の気持ちに気が付いて罪悪感を覚えながら、武道館へ向かう電車の中で残っている温いビールを喉に流し込んだ。

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