其の七 【 天孫降臨 】御一行

 これは昔々の神話の世界、登場するのは日本の神々です。


 高天原たかまがはらというところに神様たちが暮らしておりました。一番偉いのは太陽神の天照大御神あまてらすおおみかみという女神です。弟は須佐之男命すさのおのみことといいますが、ひどい暴れん坊で乱暴狼藉らんぼうろうぜきの限りを尽くします。

 そのせいで姉のアマテラスは天岩戸あまのいわとに隠れてしまいました。太陽神を失い世界は真っ暗闇になり、邪悪な神たちがのさばり出して、困った神々が何とかアマテラスを天岩戸を引っ張り出そうと作戦を練ります。

 怒って岩戸に引き籠ったアマテラスに対して、いかに素晴らしい存在か、どれほど美しいかなど賛辞の言葉を並べて、機嫌を取ったのが天児屋命あまのこやねのみことという神で祝詞のりとの起源といわれています。

 布刀玉命ふとだまのみことは、アマテラスが気に入るように、祭壇を美しく飾り、占いをして岩戸から出てくれるように神事をおこなった。

 極めつけは何といっても、天宇受売命あまのうずめのみことという女神の活躍だろう。彼女は岩戸からアマテラスが顔を覗かすように、妖艶な舞を見せて気を引こうとした女神である。

 その踊りは足でリズムを取りながら乳房をあらわわにして、挙句、陰部まで見せてしまった。まさに「ストリップ」の元祖で、周りで見ていた男の神たちがヤンヤヤンヤの大歓声で盛り上がり、その騒ぎ声に《いったい、なにやってるの?》と、岩戸を開けてチラッと覗いたところ、手を掴んで引っ張り出されたのだ。

 やっと世界は光を取り戻し、弟のスサノウは高天原から永久に追放されてしまった。


 時は流れて、アマテラスは息子の天之忍穂耳命あめのおしほみみのみことに「葦原中津国あしはらのなかつくにを平定したので、天降って治めなさい」と命令した。すると、「準備を進めている間に、息子が生まれたので、この子を降すべきでしょう」と、その任務を譲った。

 こうして、天照大御神の孫である邇邇藝命ににぎのみことが高天原から地上に降りることになった。

 ――古事記の【天孫降臨てんそんこうりん 】である。


 随行者ずいこうしゃとして、天児屋命、天宇受売命、布刀玉命、玉祖命、伊斯許理度売命の五伴緒神いつとものおのかみが従え、「三種の神器」八尺瓊勾玉やさかにのまがたま八咫鏡やたのかがみ草薙剣くさなぎのつるぎを持って、【 天孫降臨 】御一行は、たなびく雲を押しのけ、道をかき分け進み、天の浮橋から浮島に立ち、筑紫の日向の高千穂の久士布流多気くじふるたけに天降った。

 その時、天と地の境界線辺りに光を発して待っていたのが猿田毘古神さるたひこのかみである。サルタヒコは異様なまでに長い鼻をもつ異形の男である。

 ニニギ命は、側にいた超セクシー女神アマノウズメに、何者か訊いてくるように命じた。アマノウズメは自慢の乳房を晒し男に近づいて「アンタだぁれ?」というと、その色香に脳殺されてしまった男は、真っ赤な顔で「お、俺は【 天孫降臨 】御一行さまを道案内するサルタヒコだぁ~」と答えた。

 この出会いを切欠にサルタヒコとアマノウズメは後に夫婦となった。


 笠沙の岬でニニギ命は美しい娘を見染めた。大山津見神おおやまつみのかみの娘で木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめという。

 さっそく求婚したが父に聞いてくださいとのそっけない返事。父の神にいうと大変喜んで結婚を認めたが、その際に姉の石長比売いしながひめも一緒に嫁がせた。

 だが、顔を見た途端「お姉さんはお断りします!」と送り返してきた。岩のようなゴツゴツした醜い娘だった。

「私が娘二人を一緒に差し上げたのは、姉のイシナガを妻にすれば岩のように永遠の命となり、妹のサクヤを妻にすれば木の花が咲くように繁栄します。けれどサクヤとだけ結婚されたので、ニニギ命とその子孫は短命になってしまった」とオオヤマツミ神はおおいに嘆いた。


 たった一夜の交わりで身籠ったサクヤに、夫のニニギ命は不信に思い「ホントに俺の子か?」と妻を疑った。

 貞操を疑われて激怒したサクヤは「天孫てんそんのあなたの子でなければ無事に生まれないでしょう」と産所に火を放った。そして火照命ほでりのみこと火須勢理命ほすてりのみこと火遠理命ほおりのみこと三兄弟を火中で見事に出産した。

 長男ホデリ命は[海幸彦]と呼ばれて、末っ子の三男のホオリ命は[山幸彦]と呼ばれる。後にこの兄弟は権力争いを起こしたが、兄との争いに勝った弟の[山幸彦]は海神の娘、豊玉毘売命とよたまびめのみこととの間に、初代神武天皇の父となる鵜草葺不合命うがやふきあえずのみことをもうけた。

 こうして、ニニギ命の【 天孫降臨 】から、ホオリ命、ウガヤフキアエズ命へと続く家系を日向三代ひむかさんだいと称され、正式に皇統を伝える。


 舞い降りた天津神(あまつかみ)のルーツ、その末裔が天皇家となったのです。





     ***********************〔 参照 〕*************************


 邇邇藝命(ににぎのみこと) ― 天照大御神の孫にあたる神で、天孫と呼ばれている。


 天児屋命(あまのこやねのみこと) ― 神と人とをつなぐ言霊を生み出した祝詞の神。


 布刀玉命(ふとだまのみこと)― 天児屋命と共に祭祀を司どる神。


 天宇受売命(あまのうずめのみこと)― 裸で舞い踊る芸能の女神。


 玉祖命(たまのおやのみこと)― 三種の神器の1つ、八尺瓊勾玉[やさかにのまがたま]をつくった神。


 伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)― 三種の神器のうちの1つ、八咫鏡[やたのかがみ]をつくった女神。


 猿田毘古神(さるたひこのかみ) ― 天孫降臨と聞き道案内のため迎えに来た神。


 天照大御神(あまてらすおおみかみ) ― 偉大な太陽神、八百万の頂点に立つ女神。


 木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ) ― ニニギ命がひと目惚れする美しい女神。


 石長比売(いしながひめ)― サクヤの姉、醜いためにニニギ命に拒絶された哀れな女神。


 葦原中国(あしはらのなかつくに)― 日本神話において、高天原と黄泉の国の間にあるとされる世界、すなわち日本の国土のことである。


 天津神(あまつかみ)― 日本神話の神々のうち、高天原に住まう神。


 国津神(くにつかみ)― 日本神話の神々のうち、古くからの土着の神で、高天原から天津神たちがやってくる以前から日本列島に鎮座していた神々を指す。

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