19話 まさかの任務、再来


「さて、ぼくの任務用紙はどこだろう……」


 ぼくより一回り大きいボードにA7程の紙が所狭しと貼られている中で自分宛の任務を見つけるのはなかなか面倒くさい。

 見慣れない文字をずっと見ていると目がチカチカしてくる。やはりこの世界の文字は勉強する必要があるようだ。このままだとあまりにも不便過ぎる。夜誰か教えてくれないかお願いしてみるか。


 探し始める事約五分、ボードの隅っこに貼られていたぼく宛ての任務用紙を見つけた。


「こんな見つけにくい所に貼らないでよ……」


 ぼくは少し乱暴に任務用紙をひっペがし、そのまま受付まで向かった。


「すみません、この任務の受託お願いします。あとこれ、先ほどの任務終らせてきたので」


 ぼくは受付嬢にゼノさんからの任務用紙と新しい任務用紙を渡した。


「はい。承りました。では任務頑張って下さいね!」


「ありがとうございます」


 受付嬢は新しい任務用紙に判を押してぼくに渡した。もうこれで三度目だ。少しずつだけど任務を受けるのに慣れてきた。


「あの、この用紙に書いてある任務内容を教えてくれませんか?」


「これは…………」受付嬢はしばらく任務用紙を見ると、クスリと笑みをこぼした。


「……えと、どうかしましたか?」


「いえ、何でもありません。失礼いたしました。これはルミナさんからの依頼ですね。任務内容は書かれていませんが、大体察しはつきます。とりあえずルミナさんのお宅に行ってみて下さい」


「え、ルミナさんから? それと、大体察しがつくって言ってましたけど、どういう事ですか?」


「それは言えません。ルミナさんから直接聞いてください」


「えぇー」


 何故教えてくれないんだろう? そんなにプライベートな任務内容なのか。


「少し疑問が残る感じはしましたが、ありがとうございました」


 そう言い残してぼくは受託室から出て、階段を降りた。

 そのまま城の外へ出て大理石の階段の前で立ち止まると、はぁ、とため息をついた。


「ルミナさんの家、どこ……?」


 引き返してまた受付嬢に聞こうか? いや、あっちはあっちで忙しいはず。それなのに何度も質問を押しかけるのはさすがに失礼極まりない。

 ならガルートさんを探すか? いや、ルミナさんの家を教えてもらう為に何千kmという国中を探し回るなんて、ルミナさんの家を虱潰しらみつぶしに探した方が早い気がする。ではどうするか。


 その後も色々試行錯誤してみたが、どれも効率の良いものではなく、時間だけが過ぎていった。

 ネタが尽きて本気でルミナさんの家を虱潰しに探そうかと考え始めた頃、城の大理石でできた階段の方から見覚えのある二人組の青髪の兵士が歩いてきた。しかし、名前が出てこない。


「えっと、ちょっといいですか?」


「ん? おお、召喚者じゃないか。久しいな。どうしたんだ?」


 話したら二人の名前を急に思い出した。ナイラさんとカイラさんだ。この国に初めて来た時以来会っていなくてド忘れしていたようだ。

 ちょっと良かった。この二人はルミナさんの弟子(?)だったはずなのでルミナさんの家くらい知ってるはずだ。


「ルミナさんに呼ばれてて、ルミナさんの家を教えてほしいんですが」


「なんだと!? てめぇ、ルミナさんに家に招待されるほど親密な関係になっていやがったのか!? 殺す」ナイラさんが叫ぶ。


「いやいやいや!! 誤解しないで下さい! ぼくはただ任務を受けに行くだけで……」


「なんだ。始めからそう言えよ」カイラさんが


 やはりルミナさんがいないと態度が変わるな。


「まあ、すぐ近くだし、案内してやるよ」


「ありがとうございます」


 話が分かると優しい。そういう人、嫌いじゃない。


 ナイラさんとカイラさんは今登ってきた階段を降りていった。ありがたい気持ちはあったが、半面申し訳ない気持ちもあった。

 階段を降りきると、すぐに左折してそのまま直進した。


「ほら着いたぜ」


「あれ、ホントに近いんですね。これなら口で教えてもらっても良かったですのに」


「いやいや、どうせ城に行ったのは暇だから部屋でカイラとくっちゃべっておこうかと思ってたんだ。いい暇潰しになったよ。じゃあな」


 兵士二人はぼくに手を振って今来た道を戻っていった。


「さて、女の子の部屋に入る時はノックが大事。あの時と同じ過ちをしないように慎重に……」


 ドアの前で深く深呼吸する。未来希の家以外の女子の家に訪問するのは初めてだ。ものすごく胸が高鳴る。

 ノックをしようとドアに手を伸ばす。あまりの緊張に手が震えている。


「待て待てぼく! ただ任務を受けに来ただけなのにこんなに緊張してどうする? リラックスだ。リラックス…………よし、行くぞー……」


「あ、ヒロくん! 来てくれたんですね!」


「うぎゃーーーーーー!!!!!!!!」


「きゃーーーーー!!!!」


 急に誰かに声をかけられてビックリした。バッと後ろを振り向く。そこには驚いたような顔をしながら尻もちをついているルミナさんがいた。


「……へ? 何やってるんですか……」


「いたたた……おどかさないで下さいよ~」ルミナさんはお尻をさすりながら言う。


「それはこっちのセリフです」


 涙目のルミナさん……激カワ…………いや、そんな事を考えてる場合ではない。

 ぼくはルミナさんに手を差し伸べた。彼女がその手を握ると、ぼくはその手を優しく引いて立ち上がらせた。


「ありがとうございます。すみませんね。おどかしてしまったみたいで」


「いえ、こちらこそおどろかせてしまったので……」


「お互い様ですね。それよりヒロくん、私の任務受けに来てくれたんですか?」


「そうですよ」


「ありがとうございます! 私も用事を終わらせて今帰ってきたのでちょうど良かったです! 任務の詳細は家の中で話しますので、どうぞ入って下さい」


 そう言うとルミナさんは家のドアを開けた。ぼくが先に家の中に入るとルミナさんもついてくるようにして家の中に入ってきた。

 ぼくが玄関に突っ立っていると、「どうぞ、そこに座って下さい」と隣の壁沿いに設置されたピンク色の可愛らしいソファーを手で示した。


 ぼくは言われた通りにソファーに座ると、ルミナさんもぼくの傍に座ってきた。振り向くと、すぐそこにルミナさんの顔が見える。何故かドキドキしてくる。


「で、では、任務内容を……教えてもらってもよろしいですか?」


「分かりました。実は私…………」

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