「あっちじゃバイトも立派なキャリアになる。日本に居ても道はひらけない。クリスマスに乾杯しよう」航介はそう言い残すと卒業と同時に旅立った。

オランダでプロのロードレーサーを目指しながらアルバイトでも何でもするのだと言う。


暫くはメールのやり取りが続いた。

アムステルダムの運河沿いの道を一緒に走りたい、と言うメッセージと共に美しい写メも次々と届いた。

しかしそれもほんの束の間の事だった。


大学四年になった菜摘なつみはサークル活動の殆んどを休止していたのだが、暇を見つけてはロードバイクに乗って旭川沿いの道を独りで走った。

そんな時に航介の事を思い出さないと言えば嘘になる。

しかし次第に独りで走る事にも慣れて行った。

航介にしてもロードバイク関係の友人を頼っての渡欧である。悠長に構えている暇などなかったのだ。

徐々に交わすメールも疎らになって行き、菜摘なつみが学生時代最後のクリスマスを迎える頃には完全に途絶えていた。

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