少年とうさぎ
あるところにひとりぼっちの少年がいました。
兄妹も友達もいない少年は、いつもひとりで遊んでいました。それはそれで楽しくもありましたが、心のどこかではいっしょに遊んでくれる友達が欲しいと願っていました。
そんなある日。
少年の家に一匹のうさぎがやってきました。少年はその小さなうさぎにラビィという名前を付けてやりました。
それからというもの、少年とラビィはどこへ行くにもいっしょでした。
「……はち、きゅう、じゅう!もういいかい?」
少年とラビィはかくれんぼをして遊んでいました。
「ようし、見つけるぞ」
少年はあたりをきょろきょろと見回しました。
すると、少年の膝くらいの高さの切り株から、かわいらしい耳がぴょこりと生えていました。
「ラビィみっけ!」
切り株の向こうからラビィが姿を現しました。
それから二人は草原でかけっこをしました。こんどはラビィの勝ちでした。
そうしてへとへとに疲れた少年が草の上に大の字になって寝転がると、決まってラビィは「もっと遊ぼう」と言わんばかりに、少年のお腹の上でぴょんぴょん飛び跳ねるのでした。
それから数ヶ月後。
相変わらず、少年はラビィと遊んでいました。
家に来たときは小さかったラビィも、まるまると太って貫禄が出てきました。
それでもラビィは少年のお腹に乗って、ぴょんぴょん跳ねるのでした。
「あはは。重たいよ、ラビィ」
ある朝のこと。
少年が目を覚ますと、ラビィの姿が見当たりませんでした。
その日、少年は一日がかりで心当たりの場所を探し回りました。けれどラビィは見つかりませんでした。
少年がとぼとぼと家に帰ると、晩ごはんの支度が出来ていました。今日はなんだか食卓の上が豪華なようでした。
「お母さん、このお肉、とっても美味しいね」
少年は言いました。
「そう。それは良かったわ」
お母さんは言いました。
「でも、一体何のお肉なの」
少年がそう言うと、さっきまでにこにこと少年のことを見ていたお父さんが、急に目をそらして新聞を読み始めました。
「そ、それは……」
お母さんはなぜか口ごもりました。
「……鳥。そう、鳥のお肉よ」
お母さんは言いました。
「ふうん」
少年はその肉を残さず食べました。そして、
「ご馳走様でした」
そう言って手を合わせました。
それから月日は流れて、少年は青年になっていました。彼は今、建築家になるために毎日徹夜で勉強していました。
けれど、そんな忙しい日々のなかでも、ラビィのことは片時も忘れたことはありませんでした。
彼は今、とある本に目を通していました。そこに書かれていたのは、月に住んでいるうさぎの話でした。
「そうか、きっとラビィも……」
そして、その日から彼は、月へ登るための塔をたったひとりで建て始めました。
さらに月日は流れて、彼はすっかり老人になっていました。
彼はまだ塔を建てていました。
月の明るい晩には、塔の上で煉瓦を積んでいる彼の影が不気味に浮かび上がるのでした。人々は彼を《月狂い》と呼び、だれも近づこうとはしませんでした。
月が異様に近く感じられた、ある晩のこと。彼は思い切って塔の上から月めがけて飛びました。けれど、やはり月には届かず、彼は地面に落ちて死んでしまいました。
それからというもの、月の明るい晩になると、どこからともなくうさぎたちが塔の前に集まってきて、一晩中ワルツを踊っているそうです。(おしまい)
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