おたまようちえん

 あるところにケロケロ王国というカエルの国がありました。この国に、オタマ幼稚園という、オタマジャクシたちが通う幼稚園がありました。

 これは、その幼稚園に通うオタマジャクシのお話です。


「はい、じょうずに歌えましたね」

 いまはお歌の時間。大きくなったら《カエルの合唱》ができるように、いまからみんなで練習しているのです。


「先生、さようなら」

 帰りの時間になり、カエルのママに連れられて、オタマジャクシはお家に帰りました。


 その日の夜。オタマジャクシは、夢を見ました。それは、雨がざあざあ降るなかを、嬉しそうにぴょこぴょこ跳ね回る自分の夢でした。


 次の日の朝。目を覚ますと、オタマジャクシは、しっぽの付け根のあたりに異変を感じました。鏡で見てみると、なんだか少しふくらんでいます。


「お迎えが来たわよ!」


 ママの呼ぶ声がして、オタマジャクシは家を出ました。


 そのまた次の日。ふくらみは、さらに大きくなっていました。オタマジャクシは、気のせいだと思うことにして、幼稚園に行きました。


 そして

「うわあああ」

 ある朝、鏡で自分の姿を見たオタマジャクシは、思わず声をあげてしまいました。なんと、しっぽの付け根のあたりから、立派な足が生えていたのです。

「どうしよう…」

 オタマジャクシは、

『このことがばれたら、きっとみんなに馬鹿にされる』

 と思いました。

 一生懸命に足を折りたたむと、なんとか目立たないようにすることができました。しばらくの間はそれでやり過ごすことができました。


 しかし。

「うわああああ」

 こんどは手が生えてきたのです。オタマジャクシは、幼稚園にいるあいだだけでも、なんとかして手足を隠していました。

 しかししかし。

「うわあああああ」

 こんどはしっぽがちぢんできたのです。足や手が生えたのであれば、なんとか隠すことができますが、ちぢんでしまったものを伸ばすことはできません。

 その日、オタマジャクシは、おなかが痛いと嘘をついて、幼稚園をお休みしました。


 次の日も、その次の日も、オタマジャクシは幼稚園をお休みしました。もうしっぽはほとんど残っていません。


 ある日、しんぱいした幼稚園の先生が、オタマジャクシの家をたずねてきました。オタマジャクシは先生のことが大好きでした。


 オタマジャクシは先生にわけを話しました。

「なるほど……あなたは他の子よりも、ほんの少しだけ成長が早いのね」

 先生はうなずきました。

「だけど、それは少しも恥ずかしいことじゃないのよ」

 先生はやさしく言うと、オタマジャクシの頭をなでました。オタマジャクシは抑えていたものが溢れ出し、わっと泣き出しました。

 そのときです。

「ケロケロ!」

 自分の口から、いままで発したことのない声がでたのです。びっくりしているオタマジャクシに、先生はにっこりと微笑んで、

「おめでとう!」

 と言いました。

 そうです。オタマジャクシは、今まさにかえるになったのです。そして、オタマジャクシは幼稚園を卒園しました。

 それからすぐに他のお友達もかえるになり、みんな幼稚園を卒園していきました。

 ――ある雨の日。

 カエルは、天からのシャワーを浴びにお外にでました。

 あまりの気持ちよさにかえるがぴょこぴょこはねていると、どこからともなく他のかえるが集まってきました。

 それは、オタマ幼稚園の同級生たちでした。彼らは意気投合し、ともに、雨に降られる喜びをうたいました。

 

 もしもあなたが、雨の日に集まって鳴いているかえるを見かけたら、それは、オタマ幼稚園のかえるたちかもしれません。

(おしまい)

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